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花嫁はめんどくさい。ただし、一部を除いては。

2006年8月27日(日)仏滅

私は結婚式を挙げた。


とにかくめんどくさかった。
何より準備が絶望的にめんどくさかった。

でも、そんな私にも、一つだけ楽しみにしていたことがあった。


もともと私は、結婚願望もなかったし、結婚式をあげたいとも思っていなかった。
結婚はしたものの結婚式をするつもりもなく、実母、義母の両母に勧められるがまま結婚式を行うことになった。

正直、日付もどうでもよくて、義母に勧められて行った結婚式場で話を聞いて、手っ取り早く空いてる日を予約した。

仏滅だった。真夏の暑い盛りで安かった。

紹介ということと仏滅ということで、飲み放題を100円にしてもらった。
夫も私もあまり友人の多い方ではなく、70人くらいのこぢんまりした式だったので、ワンフロア貸切の式場にしてもらい、待合スペースでの軽食と飲み物も無料でつけてもらった。

今思えば出血大サービスだと思う。

しかし、私の気分は特に盛り上がりはしない。
とにかくめんどくさかった。
私は生粋のめんどくさがりだ。
結婚式の準備がめんどくさくないわけがない。

エステをしますか?
▶︎ 有料なら結構です

お色直しは?
▶︎ デフォでついてる範囲内でOKです

お衣装は?
▶︎ デフォの中の一番高いやつで
 ※これに関しては夫の衣装があまりにダサかったので課金した。

余興は?
▶︎ 頼むのめんどくさいんでナシで。ビンゴと景品だけ持ってきます。

音楽は?
▶︎ おすすめで。

ムービーは?
▶︎ めんどくさいんでナシ

お手紙は?
▶︎ え?いややし → 流石にそれはちょっと → え〜 は〜い(めんどいわ〜)

ウエルカムボードは?
▶︎ めんどい。あ!お母さんの友達が作ってくれんの? ありがと!!

という感じで、こだわりもなく形になっとけばいいぐらいの勢いで結婚式の準備をした。
どれもこれもめんどくさかった。
披露宴の最中はご飯も食べれないし、お酒も飲めないと脅された。

「披露宴の食事と雰囲気を体験できるイベントがあるんですけど体験されますか?」
と言われて、ご飯目当てに体験すると伝えたのは良かったが、なぜか私は模擬結婚式の花嫁になっていて、モデルさんたちに混じってウエディングドレスを着る羽目になったりもした。
ご飯は食べれないし、アウェイ感半端なさすぎて、恥ずかしかったのをよく覚えている。

結婚式の何が楽しいんだ、と思っている花嫁だった。
でも、そんな中で楽しみにしていたことがあった。

一つだけ、披露宴でやりたいことがあったのだ。


それは、夫にビアサーバーを担いでもらって、ビールをつぎながらテーブルを回ること!!


夫も私もビールが大好きだ。
私はお酒を飲み始めてからもビールを美味しいとは思わなかった。
21歳の時に付き合い始めたビール好きの夫に、半ば強引に勧められてビールを飲み始めた。

飲めば飲むほどビールは美味しくなった。

キリンラガーがお店にあれば二人で喜んだ。
お金がなかった時期はちょっとでもお安く飲もうと、淡麗やグリーンラベルを飲んだ。
妊娠中や授乳中はキリンフリーに助けてもらった。
子どもが生まれて家計を圧迫するとわかっても本数を減らせなかった。
新ジャンルに助けられ、本麒麟を飲んだ。
焼酎を飲み続けた結果、新ジャンルが苦手になって、一周まわって一番搾りを愛飲するようになった。

キッチンに立って料理をする時、私はお気に入りのビールグラスを台所に置く。
ちょうど350mlが入るサイズだ。

冷蔵庫からいちばん冷えた缶を取り出す。
グラスを45度傾ける。
ビールの缶をグラスの縁に当てながら注ぐ。
泡が立ちすぎないように。

次第にグラスの傾きを直角にしていき、泡の量を調節していく。
泡は上から3〜4センチが私の好みだ。
全て注ぎ切ったら、一口グビリと呑む。

乾いた喉が黄金の液体で満たされていく。
爽やかさと旨みが口の中に広がると、最後に舌の奥の方に苦味を残していく。
喉で呑みながら、余韻を味わう。

それが快感で、次から次にビールを流し込む。

揚げ物を作っている時なんかは最高だ。
揚げたてを一つつまみながら、ぐびっとビールを流し込む。

カリッ
さくっ
じゅわっ
ぐびぐび
ごっくん
ぷっは〜

家族の食事を用意する私の特権。
至福の時間。

そんなビール好きの私は、夫にビアサーバーを担いでもらって各テーブルを回った。
オプションにキャンドルサービスもあったから、結果として二度、テーブルを回ったことになる。

当時の私は夕方飲み会がある日には、昼から水分を絶って飲み放題に備える馬鹿者だった。
そんなビール馬鹿が、ビアサーバーからビールをついで回るのが楽しくないわけがない。
盛り上がらないわけがない。

そんな楽しい結婚式が終わり、私たちは二次会へと向かった。
数少ない友人が二次会をしてくれたのだ。

ビール好きの私たちのために友人は余興を用意してくれた。


利きビール。


五種類ほどの銘柄を用意してくれた。
すでにへべれけだったにも関わらず私たちは利きビールを行った。

(補足すると、私は花嫁であるにも関わらず、結婚式の待合スペースでも飲んでいたし、披露宴でも普通に飲み食いしていた。高砂で海老にかぶりつく写真が残っているので間違いない。美味しそうなものを目の前に残せるわけがない)

利きビールの結果。

夫はそれなりに正解。
私はというと……惨敗だった……

惨敗だったが、ビール好きを公言している者の惨敗というのは酒のツマミにはもってこいだったらしく、書くまでもなく盛り上がった。


ビールは美味しい。
私は味の違いに気づけないかもしれないけど、
ビールは間違いなく美味しい。

そして私の気分を盛り上げてくれる。

憂鬱な結婚式の準備も、仕事がうまくいかない時も、嬉しいことがあった時も、どんな時も私のそばにはビールがある。

死ぬ前に口にしたいものを聞かれたら、間違いなくビールと答えるだろう。




私は今日も、キッチンでグラスを45度に傾ける。





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