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激しく愚かな恋を喪って見つけた、ひとが生きる理由(2/4)【物語と現実の狭間(5)】

1はこちら。


その手紙には薄青のサインペンで大きくこう書いてあった。

「SMILE ON ME!」

 横にはあなたが自分を模したイラストが添えられていて、あなたはわたしに全力で笑いかけていた。

 受け取った当時、わたしはあなたの意図を深く考えることもなく、どんな反応も返さなかった。でもそれはあなたが溢れてしまう寸前の、切実な叫びだったのだ。きっとそのころのわたしは、あなたの前でろくに笑うこともなくなっていた。

 たぶん、そのとき初めてわたしは取り返しのつかなさをはっきりと理解した。切ったのはわたしのほうだったんだ・・・・・・・・・・・・・・・・と気付いた。別れを告げさせてしまった自分の態度を心の底から反省した。そのあとの行動の数々が、擁護しようのないほど間違っていたことを今さら知った。

 だから、もう、謝ることすらできないと思った。してはいけない。それをするのは自分のエゴでしかない。
 そしてそこへ至るまで、あなたの気持ちをほとんど考えてこなかった事実に戦慄した。わたしは自分が愛されることばかりを欲し、満たされなければ我が儘に訴えた。あなたの都合を、感情を、人生をろくに慮ることもなく、自分が愛したいとき、愛したい分だけ愛した。あなたと育んだのは、わたしだけに都合のいい愛情だった。

 その日わたしは激しく愚かな恋を喪い、あなたと生きる人生を諦めた。

 だけどいきなりなにもかもを割り切れるはずもない。
 それからもわたしは帽子で顔を隠すのをやめられなかったし、わずかな例外を除いてほとんど誰とも喋らずに過ごした。理性ではもう終わったことだと認めていても、葬ったはずのエゴは何度でも息を吹き返し、あなたの存在を思い出させた。

 わたしにできるのは、出さない手紙を書き続けることだけだった。
 あなたに宛てて、あるいは自分に宛てて、頭の中にあるぐちゃぐちゃなものを紙の上へ順番に吐き出すと、ほんの僅か、まともになれる気がした。または自分がどれほどまともではないのかを、少し距離を置いて見ることができた。
 まるでそうすれば罪が少しでも軽くなると信じているかのように、わたしはせめて、苦しむことから楽になろうとせず、考えた。どうすればよかったのか、なにが悪かったのか、なぜ自分はあんなふうになったのか、これからどうすればいいのか……悔恨に沈んで安らぐためではなく、あなたを取り戻すためでもなく、ただ考えて、考えて、考えた。
 あなたとわたしの間に起こったことを、大切に、嘘のないよう、言葉にしたかった。

 そして時間はさらに経って。
 季節は巡り、夏になる。

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