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激しく愚かな恋を喪って見つけた、ひとが生きる理由(4/4)【物語と現実の狭間(7)】

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 あれから随分長い時間が経った。

 あの日から、恋人という意味に限らずたくさんのひとと出逢ったし、たくさんのひとと別れた。その中で一度も自分を見失わなかった? と訊かれたら、「駄目だったよ」と自嘲するしかない。
 わたしが自分を見失わなかった場合でも、相対する誰かが自分を見失ってしまうこともあった。あなたにとってのわたしがそうだったように、わたしの大切なひとが、我を失い自分やわたしを「幸せになること」から遠ざけようとする。残念ながら、それは珍しいことでもなかった。

 そういう事態に直面するたび、わたしはひとの弱さを何度も思い知った。誰かが自分を見失う原因は本当にいろいろあって、「もう少しがんばってほしかったよ……」と言いたくなるケースもあれば、「あなたはそんなにもがんばったのに、どうして報われないんだ」と、なにかを呪いたくなるほど理不尽なケースもある。

 わたしではない誰かが自分を見失いそうになったとき、それを水際で食い留められることもなくはなかった……と思う。けどそれはどうしたって一時的なもので、結局のところ、本人にしかどうにもできないことは多い。
 さらに言うと、自分を見失いがちなひとを避けることなく、支えようとすればするほど……支えることができているうちはものすごく感謝されることもあるけれど、なにかの拍子に支えられなくなると、手のひらを返したように悪く言われることも少なくなかった。わたしがあなたにしたように。

 無力とやるせなさを感じるたび、わたしを相手にしていたあなたもこんな気持ちだったんだろうか? と考えずにはいられなかった。


 今、わたしは手紙を書いている。
 noteの上で、あなた宛てに、相変わらず出さない手紙を書いている。

 あなたを最後に見かけたのは、卒業式の日だ。
 ふと、遠くにいるあなたの姿が目に入って、身体が固まった。

 目を逸らすこともまともに見ることもできず、どうしたらいいのか解らず立ち尽くすわたしに、あなたは手を振った。小さく、密やかに、わたしが気付かなくてもいいよと言うように、手首の先だけを左右に軽く動かした。
 表情は笑顔だった。満面の、じゃない。困ったように、戸惑うように、申し訳なさそうに……勘違いでなければ、まるで喧嘩別れした友人に同窓会で「元気だった?」と問うように。

 わたしはやっぱりまともに動けなかった。ただ、同じように手を振り、ぎこちなく口の形を笑みにした。それがどう見えていたのか、果たして見えていたのかも解らない。最後になんて情けない姿をさらしたんだろうと思う。
 だけどあれほど酷い別れ方をしたのに、まだ、そんなふうに振る舞ってくれるあなたを前にして、わたしは気を抜いたら泣いてしまいそうだったんだ。
 あの瞬間はっきりと解った。

「わたしは、あなたの幸せを願ってる」

 その未来にわたしの姿はないし、自分がもうそこに金輪際関わることができないことは悟っているけど。この世で一番それができるかもしれない関係に一度はなったのに、自分から台無しにしてしまったことは認めるけど。

 どうか幸せでありますように。


 願うことしかできないから、せめてずっと願い続けるよ。

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