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わたしを「趣味:戦略」に駆り立てた1冊:『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(5/6)【間違いだらけの読書備忘録(7)】

こんにちは、さらばです。
現在、以下の本について備忘録を書いています。

  • 楠木 建『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』

1~4はこちら。

誰になにを提供するのか

第4章"始まりはコンセプト"では、ストーリーをつくるときの起点である「コンセプト」についての説明が行われます。

前回触れた「高く売るか、安く作るか、ニッチを狙うか」という点についても最初に考えるべき点なのですが、これはどちらかというとビジネスとしての「方針」に近いと思います。
誤解を恐れず俗っぽい言い方をすれば、「どういうブランドになりたいか」です。高くても客がつくような高付加価値ブランドか、安さが売りの高コスパブランドか、知る人ぞ知るニッチトップブランドか。

当然これだけでは「どういうビジネスをするか」が決まりません。
それを決めるのがコンセプトです。

筆者の言葉を引用すると、

コンセプトとは、その製品(サービス)の「本質的な顧客価値の定義」を意味しています。本質的な顧客価値を定義するとは、「本当のところ、、、、、、、誰に何を売っているのか」という問いに答えることです。

とあります。
顧客と提供価値を突き詰めて表現するのがコンセプトと言えるでしょう。

これは「コンシューマユーザーに文房具を売る」といった「そのまんま過ぎる」話ではなく、筆者がわざわざ"、"を付けている「本当のところ、、、、、、」がポイントです。
例えばスタバが自分たちを「コーヒー屋」だと定義していたら今のような形にはなっていないでしょう。会社でも家でも「よき仕事人」「よき家族」という役割を演じなければならないひと向けに、素の自分になってひと息つける「第三の場所」を売るというコンセプトが起点にあるからこそ、他にない様々な打ち手が選択できています。

そしてこのコンセプトをつくる上で大切なことを、筆者は三つ挙げてくれています。

コンセプトづくりに重要な三点

コンセプトをつくる上で重要な三つのことは、以下のとおりです。

  1. すべてはコンセプトから始まる。

  2. 誰に嫌われるかをはっきりさせる。

  3. 人間の本性を捉えるものでなくてはならない。

まずひとつめは、そもそも優れたコンセプトというのは、それ自体が他社と違っているものだということです。だからコンセプトの時点で明確な違いを考え出せれば、その時点で他社との違いを約束してくれるようなものだと言います。

また、コンセプトはストーリーを構成する要素にとっての物差しになります。ストーリーが「強固な因果論理や一貫性」を必要とするものである以上、コンセプトに外れるような打ち手は選択できなくなります。コンセプトがしっかりしていればいるほど、個別の打ち手を考えるとき、それらを繋ぐときに選択がしやすくなります。
このことを指し、筆者はコンセプトを「扇の要」と表現しています。

ふたつめは「戦略」という言葉の意味をそのまま表現したような内容です。戦略とは「戦を略す」と書くとおり、やらないことを決めることで、結果としてやることを決める行為だとわたしは師匠に教わりました。
同じように、コンセプトが「誰になにを売るのか」を決めるものである以上、結果的にターゲットではない顧客をはっきりさせるということになります。これを筆者は「誰に嫌われるか」をはっきりさせると書いています。

マーケティングの世界でも常識と言えば常識ですが、「みんなに買ってもらおうとすると、かえって誰にも売れない」と言われます。むしろ「誰に嫌われるか」を考えることで、コンセプトがよりビビッドになるという話でしょう。

三つめは、筆者が「たぶんこれが最も大切なことだと思う」と書いているのですが、この話の根本には「人間の本性は(時代が変わっても)そう簡単に変わらない」という考えがありそうです。
電話やPCやインターネット、スマホなど、ここ数十年でテクノロジーによるライフスタイルの大幅な変化がありました。が、それらが人間の本性を変えたかというと変えていません。
だからどんなビジネスを行う場合でも、人間の思考や行動についての洞察を行うこと、それを行う際に本性を捉えることは極めて重要だということです。

また「簡単には変わらない本性を捉えたコンセプトをつくる」と、長い間そのコンセプトが通用する可能性が高くなります。長期利益を生み出す戦略ストーリーを構想する上で、このことが非常に重要だということは言うまでもないでしょう。
ビジネスの世界ではよく、"流行り言葉"が出てくるとそれに飛び付こうとする経営者がいます。「インターネット」とか「クラウド」とか「IoT」とか「eコマース」とか「D to D」とか「ブロックチェーン」とか、そういったバズワードに振り回される企業が成功しがたいということは簡単に想像がつきますが、それは「人間の本性」と無関係だからと言えるかもしれません。
人間の本性を捉えたコンセプトを持ち、"流行り言葉"の内容を戦略ストーリーに組み込むことでより強く、太く、長いものになるのであれば有効でしょうが、ただ流行りに飛び付くのはかえって逆効果ということです。

なお、人間の本性は顧客に直接聞いたところで解りません。馬しかなかった時代に「車が欲しい」と言う消費者はいなかったでしょうし、ガラケーしかなかったときに「iPhoneが欲しい」と言う消費者はいなかったでしょう。
あくまで深い洞察によって抉り出すのが人間の本性で、自分で考えるしかないのがコンセプトです。

ちなみに本書の表現にはありませんが、この「人間の本性」はマーケティング上、"インサイト"と呼ぶものと同じことを言っているとわたしは捉えました。

コンセプトは物語づくりの一丁目一番地

ここからは創作者的な視点で書きますが、前回と同じかそれ以上に「物語と全く同じ」というのが最初の感想です。

誰になにを伝えるために書くのか。これは物語をつくるとき、一番最初に考えるべきだと言われることです。
想定読者は誰なのかを精緻に捉え、そのひとを笑わせたいのか、泣かせたいのかなどをより具体的に考えられていればいるほど、一貫性のあるストーリーを描けます。

と、偉そうに書いておいてなんですが、わたしはこのコンセプトづくりを長年ろくにやってきませんでした。大いに反省しなければ、とごく最近になってようやく強く思っています。

重要な三つの点についても本当にそのままです。
特に一番大事だという三つめは、この本を読む少し前に同じことを思いました。

実は二年以上前に師匠から"インサイト"について教えを受け、そのときから仕事では「インサイトを捉えなければ!」と習慣的に思うようになったのですが、創作に生かそうという発想はまるでありませんでした。
ただ、これまた二年以上前に編集の方から、

「売るための物語には"うまみ"がいる」

と言われていて、当時はあまりその意味を理解できていなかったんですけど、あれ要するに「インサイトを捉える必要がある」という意味だったんですよ、たぶん。

なんだ、同じじゃんとようやく思い至ったのが数ヶ月前で、本書を読んでなおさら「やっぱりか……」という思いが強まりました。

言い訳するつもりはないのですが、優れたコンセプトをつくるのはすごく難易度が高いと思います。コンセプトを突き詰めることに比べたら、長編小説を一本書くことは全然難しくありません。
だからろくにやってこなかった……んだろうなあ、というのが自己分析です。遅過ぎるくらいですが、ようやく「優れたコンセプトをつくりたい」という欲求が生まれているので、これからはしっかり頭を使って洞察したいと思います。まる。


と、いうわけで今回は以上です。

コンセプトについては自分が目を逸らしていた点ということでかなりグサリと来たのですが、続く第5章はそれ以上……わたしにとって本書で最も深く突き刺さる内容になりました。

お読みいただきありがとうございます。
さらばでした!

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