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わたしを「趣味:戦略」に駆り立てた1冊:『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(4/6)【間違いだらけの読書備忘録(6)】

こんにちは、さらばです。
現在、以下の本について備忘録を書いています。

  • 楠木 建『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』

1~3はこちら。

三種類のシュートでゴールを狙う

第3章"静止画から動画へ"から、筆者のいう競争優位性として絶大な価値を発揮する「戦略ストーリー」についての話が本格的に始まります。
第2章で語られたSPやOCという競争優位性そのものは単なる静止画であり、これに対して優れた戦略ストーリーは動画である、という話です。

個別のSPやOCといった静止画をつないで動画にする、それも起承転結がしっかりとつながった"筋のよい"ストーリーが優れた戦略ストーリーです。
これを筆者はサッカーにたとえ、どういうルートでパス回しをして、どうやって最後のシュートまで持っていくか? という話として解説しています。

そして戦略ストーリーのラストシーンは常に「……と、いうわけで利益が出るようになりました」というハッピーエンドですが、その一歩手前のシュートについては、三種類あるということです。それは、

  1. WTPを上げて利益を出す。

  2. COSTを下げて利益を出す。

  3. 無競争で利益を出す。

の三つです。
WTPとはWillingness to Pay、顧客が払ってもいいと思える価格のことを指します。代表的なのは1と2で、要するに1は「高く売る」で、2は「安く作る」と言ってもいいでしょう。

3は、大別すると1なのでしょうが、「競争をしなくて済めば利益が残る」という考え方に重きを置くケースです。これが成立する条件は、大手など他の会社から見て「ニッチ過ぎて魅力的ではない」こと、かつ自社にとっては価値のある市場規模であること、そこで独占的なシェアを持てることです。
もちろん1の方針の企業でもコストダウンはするでしょうし、2の方針の企業でも高く売れる商品開発をすることもあるでしょう。ただ、事業全体としてどの方向を向くか(優先させるか)という話です。

そしてこのシュートの種類に対して、どういうパス回しをするか? がストーリーそのものになります。

筋のよいストーリーは強く、太く、長い

SPやOCといった個別の打ち手をつないで戦略ストーリーにすれば、競争優位性を担保できるのかというと、もちろんそう簡単な話ではありません。
面白い物語とつまらない物語があるように、戦略ストーリーにも優劣があります。
ではどんな戦略ストーリーが優れたものと言えるのか。その評価基準がストーリーの「強さ、太さ、長さ」という話です。

まず「強さ」とは因果論理の強さです。「AならばBになる」というつながりを作ったとき、それが単なる願望だとストーリーが流れていきません。登場人物の感情の流れが不自然な物語みたいなものでしょう。

次に「太さ」は要素ごとのつながりの多さです。「AになるとBにもなるしCにもなるしDにもなる」といった、一石二鳥敵な意味合いがこれにあたります。

最後に「長さ」は時間軸的な長さのことです。「AをするとBになる。さらに時間が経つとCになり、Cになって時間が経つとDになる」といった話です。

この三つの観点で評価したとき、より強く、太く、長いストーリーこそが優れた戦略ストーリーということになります。また、これらが機能しているストーリーを流れで俯瞰すると、パス回しの形が極めて合理的で美しいということも示されています。

創作と戦略ストーリー

ここからは物語をつくる人間としての目線で、わたしがこれらの内容を読んでなにを考えたか、ということを書きます。
といっても、これより後の章の感想はひと言で言うと、

「ここまで同じなのか……?」

ということに尽きます。
創作の物語づくりと、ビジネスの戦略ストーリーづくりにはここまで共通する部分があるのか……というか、ほとんど同じと言っても過言じゃない、と本書を読んでいて何度も何度も思いました。

SPというのは物語で言うと「個別のシーン」「キャラクター」「関係性」「掛け合い」「台詞」などにあたると思います。あと小説なら「文章」、漫画なら「絵」「コマ割り」なんかもあるでしょう。OCはそれらを生み出すための創作者自身の能力だったり、物語の生産能力(書くのが速いとか締め切りを守るとか)だったりします。

シュートの種類については、消費者を顧客と想定した場合「WTPかCOST」とは言えないでしょう。小説でも漫画でも映画でも、内容によって価格が一気に高くなったり安くなったりはしません。物語の価格を決めるのは主に媒体の種類、あと本の場合は長さです。

ただ、その手前の出版社なりスポンサーなりを作家にとっての顧客と想定した場合は、「WTPかCOST」という考え方ができそうです。高い原稿料を取ることで利益を出し続ける創作者を志向するのか、低価格で仕事を請け負うことで利益を出し続ける創作者を志向するのか。あるいはニッチな物語を描いて利益を出し続ける創作者を志向するのか。

また、ストーリーの「強さ、太さ、長さ」についても同じことが言えると思います。
「強さ」は場面ごとの因果的な繋がりの強さはもちろん、キャラクターの持つ背景と物語、キャラクターと台詞回し、キャラクター同士の関係性、等々あらゆる要素が強い因果論理で結ばれているほど、物語に説得力が生まれ、没入感の強いもの、言い換えると魅力ある物語になるでしょう。

「太さ」も、その因果論理の繋がりが縦横無尽に繋がり合っているほうが、より「完成度の高い物語」という評価になりそうです。例えば「伏線が凄い」と感心される作品は、要素同士のつながりが豊富に、多様にあるということでしょう。

「長さ」は、物語が進むにつれてキャラクター同士の関係性が成熟するなどの例が挙げられます。一度仲違いをしたけどだからこそより強い絆で結ばれるようになったとか、ずっと仲間だったキャラクターが最後の最後で裏切ったとか、物語の場面経過があるからこそ表現できる魅力がこれにあたると思います。

ストーリーはどこまで事前に作り込むものなのか

最後に見出しの内容について書きます。
本章の後半に、「成功した企業の戦略ストーリーは、ほとんどが事業を始める前からあったわけではなく、後付けなんじゃないか?」という疑問に答える内容があります。
これについて筆者は「そのとおりです」と肯定し、その上でこう書いています。

しかし、それでも戦略はストーリーだというのが私の見解です。

楠木 建『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』

最初からストーリーの全体が細部まで出来上がっていたかというと、確かにそんなものはない。しかし、そうだとしても優れた経営者はごく初期の段階からストーリーの原型をつくっている。

楠木 建『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』

物語で言うと、大まかなプロットは構想した上で、書きながら細部については修正し、あるいは上手くつながらない部分については大胆に修正を加えていく、といった意味合いでしょう。
最初に構想するプロットの精度はひとそれぞれなのでしょうが、少なくとも思いつきで一歩を踏み出し、ラストまで辿り着いた物語が「優れたストーリー」になるかというと、かなり可能性は低いとわたしも(実感として)思います。
この点も、ビジネスと創作が極めて似通った点じゃないかと感じた部分です。


と、いうわけで今回はここまでです。

本書は7章構成ですが、第6章は事例の解説、第7章はまとめなので、論理の説明は第5章までです。
ここまででわたしは十分驚きに見舞われているのですが、残る2章についてはさらに創作との類似性にやられることになります。

お読みいただきありがとうございます。
さらばでした!

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