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わたしを「趣味:戦略」に駆り立てた1冊:『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(3/6)【間違いだらけの読書備忘録(5)】

こんにちは、さらばです。
現在、以下の本について備忘録を書いています。

  • 楠木 建『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』

1、2はこちら。

競争優位性を語る上での前段

第1章は「戦略とはなにか?」について書かれていたのですが、第2章"競争戦略の基本原理"は、「競争優位性とはなにか?」について書かれています。
本書のタイトルにもある本題は第3章からです。そこまでに166ページを費やすあたりが、この本の文脈の豊富さを物語っています。

第2章の内容について、まずはざっくりわたしの理解を書き出します。

冒頭では"戦略"とひとくちに言っても"全社戦略"と"事業戦略"があるという話から始まります。前者は会社のリソース(人・物・金)をどの事業にどのくらい振り分けるかといった、「事業でどう勝つか?」以前の戦略、後者はこの「事業でどう勝つか?」という戦略だということが語られます。
そして後者の言い換えが"競争戦略"であり、本書で扱われている対象です。

ここで話は「じゃあどうやって競争するか?」の前に、事業で「目指すべき勝利とはなにか?」という内容になります。
結論としては"長期利益"で、それを生み出せる企業が競争戦略の勝利者ということです。

ただ、長期利益を生み出しやすいかどうかは、そもそもその事業が属する業界構造による、というのが続く話です。ここではマイケル・ポーターさんの「ファイブフォース理論(その業界がどれくらい儲けやすい業界かを計る考え方)」の基本的な考え方が解説されます。

ここまでの内容については、わたしが師匠から学んだことや自分が業務上考えたことを整理するのに役立ちました。特にファイブフォースについては本格的に学んだことがないので、ここでひとまず大枠の考え方だけでも理解し直せたことで「わたしのやってる事業の属する業界はどうだろう?」と考えるきっかけになりました(なお、ほぼ全滅という結果です……)。

それを踏まえた上で、本章で最も多くの文量を割いて語られる、「違い(競争優位性)のつくり方には2種類ある」という話が始まります。
それが"SP(ポジショニング)"と"OC(組織能力)"です。

競争優位性にもいろいろある

わたしの職場で競争優位性の話になると、ほとんどが「商品そのものの違い」に終始します。
それも要するにカタログスペックの差別化で、比較表に「ここが違います!」と書くために無理矢理差を作っているような内容です。

前々から「その違い意味あるの?」「ユーザーからしたらどうでもよくない?」という内容が多いなと思っていました。つまり「違い」は確かにあるけど、「競争優位性」にはならないということです。
こういう、商品そのものの程度の違いだけでは長期間有効な競争優位を生み出しにくいということは、本章にも書かれています。

じゃあどうすれば競争優位性としての価値がある"違い"を生み出せるのか?
ひとつめがSP(ポジショニング)という考え方です。

文字どおり他の企業とは違うポジション取りをして存在感を出すということで、例えば「こういう顧客に特化する」というのがそれにあたります。
これは逆説的に「"こういう顧客"以外の顧客は狙わない」というトレードオフが前提になり、特定の方向に舵を切るからこそ他社が"真似しにくい"ということです。特定業種向けとか、ハイブランド商品に特化した企業なんかが解りやすい例でしょうか。
そして、上記の「商品の違い」といったものは、このSPに紐付くものであれば意味があるということです。ポジショニングに紐付くような違いになっていないなら、競争優位性にはつながらない、と。


もうひとつの"違い"が、OC(組織能力)です。
こちらも文字どおりですが組織の能力、業務遂行の流れの中に競争優位性をつくり出す方法だそうです。例えば「工場のオペレーション能力が高い」とか「売れ残りにくい商品の発注数決定方法が確立されている」とか。

OCによる違いは経路依存性が高いので、仮に他社が表面的な形だけ真似しても同じ効果を得にくいとのこと。また、どの業務が成果に紐付いているかの因果が一見解りにくいことも模倣しにくい理由です。
さらに組織能力なので、いきなり高くはなりません。時間の経過とともに効果が上がっていくもので、これが競争優位性を保持しやすい一番の理由かもしれません。


このSPとOC、どちらがいいというものではなく両方ある企業が最強なのですが、どうやら往々にして偏る企業が多いそうです。
本章の中では海外企業ほどSPに偏りやすく、日本企業はOCに偏りやすいとありました。

どちらがいいというものではないのですが、どちらも永久に競争優位性を保持できるものではなく、賞味期限が切れてきたときの影響の出方には違いがあるそうです。
SPに依存しがちな企業は駄目になってくるとすぐに傾くので、ある意味経営者がすぐ気付けて手を打てる。けど、OCに依存しがちな企業は表面化するまでに時間がかかり、気付いたら手の施しようがなくなってしまいやすいとのこと。これはOCの場合、組織能力である程度は業績を維持できてしまうという背景だそうですが……職場のことを想像して震えました。

創作者にとっての競争優位性

ちなみにこのSPとOCを「創作者(作家)としての競争優位性」に当てはめて考えてみると、こんな感じになると思います。

  • SPで違いをつくる創作者:作家としての強力な個性で、「○○というジャンルならこの作家」といったポジションを確立する。

  • OCで違いをつくる創作者:作品そのものに強力な個性がない場合でも、作家としての能力で継続的に作品を発表し続ける。

前者は例えば「妖怪モノの推理小説ならあの作家だよね」とか「熱い展開の冒険漫画ならあれだよね」とか、そういう感じです。
後者は「絶対に締め切りを守る」とか「ひと月に一本の長編が書ける」とか「媒体のカラーに合わせてそつなくこなせる」とか「色々な出版社に強いコネがある」とか、そういうことになるんじゃないかと。「(小説で)文体が独特」というのもOCかもしれませんが、そういう作家というポジショニングとも取れますので、明確な線引きは難しいですね。

そもそも作家の場合は個人の違いの前に、ユーザーから見ると媒体の違いが先に来ることが多いと思うので、漫画や小説の場合、出版社がこのSPやOCをどう考えているかもかなり影響します。
例えばとある作家について、業界全体で見るとSPやOCによる違いがなくても、その媒体(雑誌とか)の中でSPやOCによる違いを作れれば、競争優位性を確立して生き残れる可能性はあるでしょう。

ただ、物語というのは嗜好品の側面が強く、競争が極めて激しい環境にあるので、完全にOCに振り切った作家が生き残れるかというとやや疑問です。
一定以上はSPによる違いを作れないと、いくらOCが優れていても消費者に存在価値が認められにくいんじゃないでしょうか。

ちなみにわたしは以前、物語づくりにおいてこの「違いを作らなきゃ」という思いがかなり強かったのですが、それが「誰かの需要に繋がっているか」ということを全く考えていませんでした。
つまり上に書いたわたしの職場の例と全く同じで、「違い」はあるけど「競争優位性」にはならないということです。


さて、そんなわけで今回はそろそろ終わりにします。

第2章に書かれていることは本題に入る前の、いわば"仕込み"です。そういう意味では、とても勉強にはなりましたがまだまだエキサイティングな内容ではありません。
ただ、これらの理解が前提となって、第3章以降どんどん面白くなっていくんですよね。

お読みいただきありがとうございます。
さらばでした!

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