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センスのない努力を続けてきた:『「仕事ができる」とはどういうことか?』(3/3)【間違いだらけの読書備忘録(11)】

こんにちは、さらばです。
現在、以下の本について備忘録を書いています。

  • 楠木 建 山口 周『「仕事ができる」とはどういうことか?』

1、2はこちら。

芸人は努力するな

さて、この備忘録の結びの項として、物語をつくるひととしての視点で書きます。

本書でわたしが最も惹き付けられたエピソードは、2011年に芸能界を引退された島田紳助さんについて語られるくだりです。楠木さんの発言にこのような記述があります(該当部分がこちらで記事化されています)。

島田紳助さんが、吉本の若手に対して明確に言っているのは「努力するな」ということなんですね。
(省略)
若手は不安でしょうがないのでじっとしていられない。すると何をやるかというと、やたらと漫才の練習をしちゃうわけです。だけどそんなことは伸助さんに言わせたら順番が違うと。「どうやったら売れるか」という戦略のないままにひたすらに漫才の稽古をする、そんな不毛な努力をするならまずは「笑いの戦略を立てろ」と伸助さんは言っている。
(略)
だけど、それをほかのみんなはやらない。なぜかというと、努力していると安心するからです。

楠木 建 山口 周『「仕事ができる」とはどういうことか?』

実はこのくだりをWebの記事で読んだのが、本書を手に取ったきっかけです。
漫才の実力を上げるのは「スキル」で、どうやったら売れるか(=成果が出るか)を考えるのは「センス」です。センスを磨くことなくスキルだけを向上させても意味がないというのが、ここで言われていることでしょう。

正直ぐさりときました。

物語をつくる人間として、わたし自身にほとんどそのまま当てはまる内容だからです。
わたしの場合は「書き続けること」が最優先の目的ですし、その意味においては同じではありませんが、そもそもどうやったら売れるかを考えたことはありませんでした。
とにかく実力を磨き続けようという意識はあったものの、それは大きなくくりで言えばスキルの話だったのでしょう。

創作におけるセンス

でもじゃあ、こういうことを全く知らず、考えなかったのかというとそうでもないのです。
それこそ大学のころから「文章の上手さと物語の面白さは関係ない」なんていうことは周囲でもよく語られていましたし、物語を紡ぐ技術があっても、なにを描きたいかという情熱がなければ意味がないということはずっと意識してきました。

しかしそれはあくまで創作物そのものの質を上げるという意味でのセンスであり、いわば内側の話でした。もちろん「物語の面白さ」というところにセンスが関わらないとは思いませんが、本書で言うセンスは創作物そのものについての話ではなく、その外側にあるもののことです。

自分の競争優位性の確立の仕方を考え抜き、ポジショニングを決める。
実のところこれは、売れるとか売れないとかを抜きにしても非常に重要というか、創作者にとって根源的な話ではないかと思います。
それと向き合うことなく、ひたすら書き続けることに邁進してきたわたしは、やはりどう考えても「センスがない」のだなあと改めて思い知ったところです。

ただしポジティブに考えれば、このセンスは本書で繰り返し語られているように、生まれ持って決定されたものではありません。才能、という言葉で片付けられるものではないということは、今回の学びとして深く心に刻み込もうと思います。


あ、あと最後に。
「センスのいいひとは育てられないけど、育つ」というくだりから、わたしが思い出したのはトキワ荘です。
手塚治虫さん、藤子不二雄さん、石ノ森章太郎さん、赤塚不二夫さんなど著名な漫画家が居住していたことで、漫画の「聖地」としてよく知られたアパートですね。

つまりレジェンド的な漫画家が同じ場所に集まったのは偶然ではなく、同じ場所に集まったからこそレジェンド的な漫画家が多数輩出されたのだろう、ということです。
本書の文脈になぞらえて言えば、センスのいいひとを「総合的に」学ぶ上で最高の環境だったのでしょう。この意味で、漫画家のアシスタント制度というのは理に適っています(ただ、近年ではオンラインでのアウトソース的なやり方も広まっているそうなので、センスを学ぶという観点では今後通用しなくなってしまうかもしれませんが)。


いずれにせよセンスとはなにかを言語で理解し、それを磨くために考えながら実践し、具体と抽象の往復運動を繰り返すことでしか、センスを磨くことはできないのだと知ったので、今さらですが自分を意識的に育てていこうと思います。

というか、わたしの「趣味:戦略」というのは、『ストーリーとしての競争戦略 -優れた戦略の条件』と本書の二冊が起点となっています。
戦略とは総合であり、センスです。結局戦略を描けるようになるということは、センスのいい人間を目指すこととほとんどイコールなのだと思います。

そういう意味で、本書はわたしにとって、大いに気付きの多い一冊でした。
著者のおふたりに深い感謝と敬服を示しつつ、備忘録の結びといたします。


お読みいただきありがとうございます。
さらばでした!

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