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迷い込んだtearoom

彼女は出張に来ていた。
滅多に来ないところだ。
車で走る景色は良い。
青空と山と雲の色がとても良い。
出張も悪くない。
ちょっと遠いかな?と思っていたがこんなに笑顔になってしまう景色が見れるならちょっと遠くても通勤できてしまう気がするのだ。

彼女は改めて思う。自分は山が好きなのだと…
山の景色はいい。天気は変わりやすい。
さっき晴れていたと思ったらもう雲行きがあやしい。
雲は近く太陽は心地よい。

山の空は近いのだ。
適度に風も吹いている。
木漏れ日が心地いい。

どうやって彼女がこのtearoomに迷い込んだかといえば、間違いが重なったからである。

間違いというよりはどこかで遅めの美味しいご飯を食べようと思い探して行った場所が休みだったのだ。

そのお店はローフードが食べられるという素敵なお店のようだった。坂道の途中のその店は二股になった上り坂の真ん中にあった。近づいていくとお店の名前の看板と赤い文字で書かれたclosedの看板。

仕方なく登ってきた坂道をUターンして下る。

迷い込んだtearoomは灯台下暗しだった。

出張先のすぐそばにあったのだ。

幸運な事にちょっと足を伸ばして素敵なカフェに行こうと思いそこがお休みだったからここへ辿り着いたのだ。

ここだけ流れている時間が違う。
大きな栗の木の下には毬栗が小さな山になっている。そばに置かれた古いけれどちゃんと出迎えてくれる2人掛けのベンチ。ベンチの上に無造作に置いてあるような毬栗も決して無造作ではなくまるで計算された配置のようである。

彼女は温かいカモミールミルクティーを飲みながら暑そうで眩しい日差しと雲の流れを見ている。緑の庭は心地いいのだ。栗の木には蔦が絡まり風にそよいでいる。

芝生の上をアゲハ蝶が飛び紅葉は大きく風に揺れる。
緑の中に一際目立つサルビアの可愛らしい赤い花。

微かに流れているであろうクラシックな音楽。
聴こえるのは彼女がカモミールミルクティーに入れた砂糖を銀のスプーンでかき混ぜる音と空気清浄機の風の音。砂糖ってゴリゴリって音がするんだという事に気がついた。

彼女はいつもは砂糖を入れないのだが、今日は何だか砂糖を入れた方が美味しい気がしたので入れてみた2杯目。

teapotはまだ熱い。ポットに被せるティー•コージーがあるからだ。最後まで熱いまま美味しくいただける。

3杯目とまではいかなかったがテラスを這うアリの数を数えたり、風をずっと眺めたり、大きくて分厚いガラスを這っているアリにも気がつく。

いろんな樹木があるのに誰も邪魔していない。色も形も自然なのに全て計算されているかのような景観。自然なのにではなく自然だからなのだ。緑の葉の色も同じ緑なのに同じ色はひとつもなくそれが隣り合わせであっても互いを引き立たせている。

遅れて来た紫陽花の紫が緑の中に映える。

この時間は何だろう?と彼女は問う。

きっと心を自然に近づけているのだ。

本来人間はもっと自然であっていいのだ。

思うままが心地いいし、ありのままが気持ちいい。

遠くに百日紅のピンクが見える。

あるものを感じることはとても大事なことだ。

サルビアの間からは1本の猫じゃらしがゆらゆらしている。

外のテーブルに置かれたどんぐりは小鳥が集めて来たんだよという感じ。白い小鳥の置物は今にも鳥の歌を歌い出しそうである。芝生を見れば日向と日陰のツートンになっている。彼女は時間が経っていることに気がつく。

美味しい時間。
優しい時間。
何も考えない時間。
あるものを感じる時間。
色を見る時間。

テーブルに映る木々の影が風で揺れて生きたテーブルになっている。

この緑は空まで演出してしまうのかとさえ思う。

龍雲が現れた♪

彼女だけに現れてくれた龍雲かもしれない。彼女は嬉しくありがたいと思う。全て捉え方なのだ。

素敵な場所に巡り会えた。ここは京都の庭園のようだ。庭は洋風だがそんな趣のある空間である。

所々に鳥がいたり蛙がいたり、可愛いらしくてクスッと笑ってしまう。

アゲハ蝶が今度は仲良く2頭で戻ってきた。

出張も悪くない♪

五感で感じよう(嬉





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