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「場」のちから、ってある。昨日、サッカー合宿に行っていたコリスが帰ってきた。夕方バス停に迎えにいくと、日焼けした子どもたちが先生とさよならの挨拶をしていた。私に気付いたコリスがニッと笑った。いつも通りのコリスの顔を見て、ほっとした。合宿のちょっと前に、ソファの角に右足のくすり指をぶつけた。腫れてはいないけど、押すとちょっと痛いと言う。歩いたり走ったりはするけれど、サッカーボール蹴れる?サッカーできるの?と心配になった。

「足痛いしやっぱり合宿行かないでおこうかな」と、コリスが言い出した。どうしようかとふたりで話すけど結論は出ず、先生に電話した。「痛いと思ったら我慢せずすぐに言ってください。見学したりできる練習をしましょう」と、言ってくれた。前日夜も当日の朝も、家を離れる寂しさもあり、「やっぱり合宿行きたくない」と言い出した。「大丈夫、大丈夫、みんないるから寂しくないよ。足が痛かったら休んでいいと先生も言ってるし」。正直、コリスが合宿に行くことを想定して予定も入れてるし、合宿の費用は直前すぎて返ってこないし。本人の気持ちを尊重したいものの、大人の事情と体験してほしいの願いを込めて、コリスを送り出した。

 バス停に着くとコリスの顔つきが変わる。私の手をさっと離して、「もう帰っていいよ」と言った。壮行会のような先生の挨拶もあるので、親たちがズラリと並んでバスの出発を待っている。コリスは、そこにいなくていいと言う。「ママ、バス来るから行って」と、私が乗るバスの方を指差した。「じゃあ、行くね。行ってらっしゃい」。コリスに手を振り、自分が乗るバス停へと向かった。

 私が知るコリスはシャイだ。6月の試合では、低学年代表として選手宣誓を先生に依頼されたが、ふたつ返事で断った。その後、先生から私に電話がかかってきて、親からも話してみてと言われた。あっさりと断られた。娘が選手宣誓する姿をひと目見たくて、がんばったで賞という名のお金も積んでみたが、効果はなかった。じいじばあばも登場し、電話で「コリスの選手宣誓が見たい」と伝えた。ここでも結果は、同じだった。

「人前に出るのは嫌い」と、彼女は言った。なるほどそれなら仕方ない。頭でわかっちゃいるけど、なかなか諦めきれないのは私たち親の方だった。「またとないチャンス」「みんなやりたいんだよ本当は」とかなんとか言って説得を試みた。そこまで粘ってしまうのには、理由があった。得点を決めるわけでもなく、試合で大きく活躍するわけでもない。前回優勝チームにいたメンバーのなかで、上の学年の子が抜けてコリスが1番上になった。いろんなことが重なって、またとない選手宣誓の番が回ってきた。このチャンスを逃してはいけないと思っていたのだ。なんてコリスに失礼なことをしているのだろう。こういう場面って他にもあるのだろう。活躍してくれてと勝手に期待をかけといて、結果でわが子を判断している。コリスにもこちらの気持ちが透けて見えたのかもしれない。

コリスは聞く耳を持たず、選手宣誓をしなかった。それどころか、前に出てトロフィーを返す役割も嫌がった。人がいないのと◯◯ちゃんと一緒にでいいからと先生に頼まれて、渋々引き受けたものの、トロフィーが手から離れた瞬間、足早に席に戻った。カメラを構えていたが、早すぎてシャッターを切る間もなかった。

 そして昨日、サッカー合宿の帰り、解散場所でコリスと一緒に先生にさようならの挨拶をしに行った。先生が「コリスちゃん、リーダーとしてみんなを引っ張ってくれてありがとうね」と言った。「え?コリスがリーダーですか?」先生にたずねた。「そうなんです。コリスちゃんがいてくれて助かりました」。先生がコリスを見ると、コリスは恥ずかしそうにコクンと頷いている。「あら、ママには報告しないんだね」と先生が笑った。

帰り道、コリスに聞く。
「リーダーしたの?」
「うん。私以外の子が合宿初めてだったり小さかったから。私がリーダーしたの」
「足の指は痛くなかった?」
「足は、、、もう治った」
ええ!?足、治った?あんなに足が痛い、どうしよう、休もうかなと言っていたのに。
「治ったんだ、よかったね」

「場」のちから、を感じた。そして私は、コリスのことをまだまだ知らない。合宿から帰ってきたコリスは、足の痛みも良くなり、頼もしいリーダーの顔をしていた。


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