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がんと代替医療|標準かトンデモか?琵琶湖か釧路湿原か?

『リバタリアンとトンデモ医療が反ワクチンで手を結ぶ話』という本を読みました。

インパクトのあるタイトルですが、この本はアメリカにおける代替医療(国が定めた標準医療ではない医療)を巡った医療ノンフィクションです。

本書のなかで「唯一真実の治療法」と呼ばれる代替医療は、邦題にあるような「トンデモ医療」ばかりで、レーザー、サプリメント、ヒル、祈り、更には自称エイリアンのドリンク剤にまでおよびます。

そして本書の凄いところは、これがただ単に「トンデモ医療」の実態を紹介しているのではなく、代替医療が現代のアメリカ社会におけるリバタリアンの思想と、どの様に結びつき「トンデモ医療」になってしまったのかを徹底的な取材で導き出しているところです。

「自由」という言葉には一般的にはポジティブな響きが含まれており、例えば民主主義ではない国家の国民や、日本の大企業のような制約の多い環境下における会社員にとって、束縛や労働からの「解放」を意味するものかもしれません。

しかし、本書を読むことで「自由」もはき違えてしまうと暴走することになるとわかります。

代替医療そのものを否定するわけではありませんが、標準治療を適切に行えば治療ができたはずの糖尿病やがんの患者がトンデモ医療(行き過ぎた代替医療)によって、放置されてしまう例が描かれています。

僕も標準治療でがんを治療して無事に回復しましたが、数字と論理で厳しい現実を説明される標準治療の難しさも知っています。「5年生存率」の様な用語と向き合うのは非常につらいものでしたので、こういう時に代替医療を求める気持ちもわからなくもありません。

「自由」を追い求めるからには責任も付きものですし、状況によっては「規制」も必要になってくるものだと、再確認できる一冊でした。

そこで今回は、あらためて「自由」と「規制」について考えてみます。荒唐無稽に思われるかもしれませんが、2つの日本の観光地を比較して考察していきます。


琵琶湖のテラスでコーヒーを飲む

ようやくコロナ渦が収束しはじめ、いろいろな場所に旅行ができるようになりました。

日本最大の湖である琵琶湖まで旅行に行った時のことです。湖の大きさや美しさに驚くのは言うまでもないことですが、湖畔で運用されている施設が非常に魅力的だったことに驚きます。

遊覧船のクルーズもあれば、琵琶湖をテラスから一望できるカフェ、そしてボートレースまで、琵琶湖の魅力を最大限に活かした様々な運営がされています。彦根城もあれば、ひこにゃんもいます。

琵琶湖という自然の魅力を最大限に活かすことで、多くの観光客を呼び寄せ、地元の経済にも多大な影響を与えている様子が伺えました。

もし琵琶湖周辺で事業を展開する事業者に厳格な規制が課されていたとしたら、この様な盛り上がりは見込めないでしょう。

クルーズも手漕ぎボートで漕がなければならず、カフェでコーヒーを飲むこともできません。ボートレースも行われませんし、ひこにゃんは誕生していたかどうかも怪しいところです。

「自由」が琵琶湖にレジャーと活況をもたらしたように思えます。

釧路湿原でカヌーを漕ぐ

琵琶湖とは対照的な日本の観光地として、北海道に位置する釧路湿原があります。

何が対照的なのかと言うと、釧路湿原は国立公園に指定されていることから、民間の業者に対して国の規制が厳しいという点です。

釧路湿原は日本最大の湿原であり、多様な生物が生息する自然保護区です。国の天然記念物に指定されているタンチョウをはじめとして、キタサンショウウオ、オジロワシ、キタキツネ、エゾシカなど、様々な動物が生息しています。

そして、釧路湿原には湿原内に流れる川をカヌーで川下りをするアクティビティがあります。

このアクティビティは規制の対象ではないのですが、モーターボートなどは禁止されているため、パドルを使って手漕ぎで進まなければなりません。もちろんボートレースなどは行われていませんし、湿原を一望できるカフェなどもありません。

国立公園の規制によって手付かずの自然を維持しているのです。

このカヌーを体験することで、モーターボートが存在する現代においてわざわざ手漕ぎをして進む意義を感じることができます。

湿原内を流れる音はパドルが水を漕ぐ時の音のみで、その他は鳥や動物たちの鳴き声しか聞こえることはありません。

この静けさは現代社会においては、逆に体験することが難しいものだと思います。ここでボートレースが行われたら台無しです。

水の音だけを優雅に耳にしながら、川を下っていくとエゾシカをはじめとした動物たちが次々と姿を現します。運が良ければタンチョウを見ることもできるはずです。

国立公園だからこそ成し得る規制ではありますが、規制がもたらしてくれる魅力について深く考えさせられる一例かと思います。

自由と規制

この考察から「琵琶湖のように規制緩和した方が良い」とか「釧路湿原のように規制によって自然を保護すべきだ」といった意見を言うつもりはありませんが、自由と規制のそれぞれがもたらした現象についてはわかりやすいものかと思います。

琵琶湖のように様々な事業と結び付けて魅力を拡大していくことは、自由がもたらしてくれる魅力だと言えます。

釧路湿原のように厳格な規制でしか、維持することができないものあるのです。

人間は本来は自由を求めるものだと思いますが、野放しにされた状態でいると「トンデモ医療」と結びついてしまうかもしれません。

何事も両極端には偏らず、それぞれの良い面と悪い面を考慮しながら、両輪を回すように意識し続ける必要がありそうです。

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