問題解決派と困難順応派|『日の名残り』に学ぶ人生の後悔
人生における大きな分岐点であっても、日常の些細な出来事であっても、生きていると様々な問題や困難に直面することになります。
人類はそれら諸問題に対して社会構造を変革したり、テクノロジーを駆使したりして問題解決を計り、現代の様に豊かな社会が形成されました。
そしてこれからも様々な問題が解決され、社会は発展し続けるように思えます。
しかし、ひとりだけでは解決できない大きな問題が多いのも事実です。
それでも人間は困難な環境を受け入れて順応することも可能です。人生において、問題を解決しながら人生を切り拓いていく人もいれば、困難な状況を受け入れてその状況に順応していく人もいるのです。
問題解決派の社会的インパクト
仕事をするうえで何か困難な状況があった時には、それをビジネスチャンスと捉えることで問題解決に繋げていくことが理想的です。
例えば、近年は京都などの観光地にインバウンドの旅行者が溢れてしまい、バスやタクシーが捕まりにくいオーバーツーリズムの問題が騒がれています。
この問題に対して、社会全体としてはライドシェアを解禁させようという議論が繰り広げられ、ようやく政府も関心を示すまでに議論が進んでいます。
また、社会全体ではなく企業もこの問題に向き合っています。最近見かけることも増えてきたLUUPというサービスでは、電動キックボードを利用者が街中でシェアして利用することができます。
実際に外国人観光客も多く利用しており、オーバーツーリズムという社会問題解決にも大きく寄与しています。
発生してしまった問題も社会や企業の力を通して、問題解決をすることができるのです。
困難順応派の発想力
しかし、こういった社会課題の解決は国家や企業にこそできることであり、実際に困難に直面する一個人は、これらの問題とどのように向き合うべきでしょうか。
自分が所属している企業のビジネスモデルに合致するのであれば、自ら行動することで問題解決に繋げることもできるかもしれません。
また、署名を集めたりロビー活動に参加することで、社会変革に貢献していくことも大切なことです。
企業での問題解決も社会変革も、しっかりと実践することで実際の成果に結びつくことは多くあります。社会は変えることができるのです。
しかし、社会を変えるには、どうしても時間がかかります。数年単位の月日を要するものなので「社会が変わった時に自分はもうそのサービスを欲していなかった」という様なことにもなってしまいかねません。
そのため、諸問題へ向き合う時に個人ができることは「困難な状況に順応すること」です。
例えば、オーバーツーリズムに直面した時には、ゆっくりと街中を歩いて散策するその情緒に価値を見出しても良いでしょう。時間をかけて歩くことで見えてくるその街の魅力を発見することに繋がるはずです。
もっと身近な問題を例とするため、物価高騰への対応を考えてみましょう。会社員であれば、自分の給料を上げてもらうことは難しいケースが多いので、自分だけで完結できる対策として節約生活を始めてみるのも良い対策です。
外食を辞めて自炊をすることで、料理の魅力に目覚め、自分で食材を安く買おうとする行動から、食材への関心も強まるかもしれません。
困難な状況に対して、問題を解決するアプローチがあれば、困難に順応するというアプローチもあるのです。
では、どちらのアプローチが自分に適しているのか、それを判断するために参考になる小説と逸話を紹介します。
問題解決派と困難順応派を見極める
ノーベル文学賞作家であるカズオイシグロの代表作に『日の名残り』という小説があります。この作品は、私たちが直面する問題解決と困難への順応というテーマにも、深い洞察を与えてくれます。
『日の名残り』は、二つの世界大戦を経て変貌する時代の中で、英国の伝統的な執事としての仕事に誠実に従事し続けた一人の男性、スティーブンスの人生を振り返る形で語られます。
彼は自らの信念に従い、執事としての道を追求し続けましたが、世界大戦によって変わりゆく世界の価値観と、自身が果たしてきた仕事の意味に深く向き合うことになります。この物語は、変化する時代の中での個人の役割と自己認識の探求を、美しく描き出しています。
本作の重大なテーマのひとつに「人生への後悔」があります。自分が果たしてきた役割は、変わってしまった世界において、果たして意義のあることだったのか。それを見つめ直すラストシーンが、カズオイシグロの美しい文章で印象的に描かれています。
この『日の名残り』の「人生への後悔」というテーマについて、ひとりの起業家の有名なエピソードがあります。
Amazon創業者であるジェフ・ベゾスがこの『日の名残り』を愛読書としてあげているのです。彼は本書の推薦文に「私の大好きな本。どんなにノンフィクションを読んでも得られない、人生の後悔による悲しみやリスクを教えてくれる」と書いています。
『日の名残り』を読むことで、人生に後悔を残したくないと強く思い、Amazonの創業を決意したのです。
僕もこの作品は過去に読んで感動したことがありました。しかし、ジェフベゾスのように「人生で後悔をしないように」といった感想は思い浮かんでおらず、やはり起業家というのは考え方が違うものだと驚いたものです。
僕が『日の名残り』を読んで強く感じたことは「人生に後悔は付きものだ」という学びです。
人生を振り返った時にたとえ強い後悔を感じていたとしても、人間はその事実を受け入れることができる。そして、その後悔を受け入れることで、その後の人生にも順応していくことができる。
僕はその様に捉えて本書のラストシーンで強く感動しました。
このように、ひとつの物語に対して「後悔をしない人生を生きる」と決断して問題解決に乗り出す人もいれば、「人生に後悔は付きものだ」と受け入れて困難に順応していく人もいるのです。
僕のような一般的な考え方の人には「困難順応派」の考え方が適しているかもしれません。
世の中には、ひとりでは変えられない現実が多く存在しますが、人間はどんな困難な環境にも順応していくことができるからです。
「問題解決派」の方がお金は稼げそうですが、「困難順応派」の生き方も悪くはないと思います。
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