囚人番号と背番号|刑務所からファンの待つ球場へ
先日、会社の健康診断を受診したところ、物凄く効率的だったことからベルトコンベアーに乗せられたような違和感を感じてしまいました。
この経験を経て「管理される」ことへの違和感を抱きながら仕事をしていたところ、当たり前ではありますが、自分も会社員として社員や顧客を管理番号を付与したデータで「管理している」という事実に気づきました。
記事では、効率的な運営に対して少し批判的なニュアンスを投げかけながらも人間の心理とのバランスを強調しています。
しかし、組織が大きくなり扱うデータが膨大になるのであれば、データとして管理するのは当然であり、健康診断を受診する側もそういった状況を受け入れて全体の効率化に理解を示すべきです。
社会が効率的に変化していくことは、違和感をグッと堪えて受け入れるしかないのでしょうか。
先日、メジャーリーグの大谷翔平選手がエンゼルスからドジャースに移籍するニュースが話題となっており、移籍先のドジャースでもエンゼルス時代と同じ背番号「17」を付けるということも大きく報じられていました。
そして、さっそくドジャースの背番号「17」付きのユニフォームも発売され、多くのファンが買い求めていたようです。
この時、冒頭で述べた経緯があったため「背番号も選手を数字で管理しているのではないか」という些細な疑問を抱くこととなります。
しかし、大谷選手の背番号のニュースから「管理されている」といったネガティブなイメージは一切伝わってきません。むしろ背番号は象徴となって野球界を盛り上げているように見えます。
同じ管理番号だとしても、この違いは一体何なのでしょうか。
背番号も導入時は囚人番号と批判された
まずはインターネットで背番号の起源について調べてみました。
野球においては、初めて正式に背番号を採用したのは、1929年のニューヨーク・ヤンキースが起源のようです。ちなみに、サッカーでも1928年のイングランドリーグでアーセナル対チェルシー戦において初めて背番号が採用されています。
野球では50年以上も背番号が存在しない状況で興行として成り立っていましたが、当時は観客にスコアカードが販売され、選手ごとに割り振られた番号が表示されているスコアボードと照らし合わせながら試合を観戦していたため、特に不便を感じることなく試合は行われていました。
しかし、多くのスポーツがそうであるように、野球もホームチームとビジターチームが存在しており、このスコアボードに表示される番号はホームチームにおいてのみ固定されていたのです。
そのため、ビジターチームのファンにとっては毎試合バラバラの番号が表示されることとなり、そのサービスを向上させるための業務改善で取り入れられたシステムが背番号だったのです。
この時に、身にまとうユニフォームに番号が割り振られることを「番号を振られるのは囚人みたいだ」と批判した選手が多かったそうです。
その後、批判の声はありながらも全球団での背番号採用は決まり、定着に向かって運営が進んでいきます。
そして次第に名選手が生まれることによって選手と背番号を紐づけて認知するファンも増え、背番号は選手を象徴ようになったのです。
顧客に開かれているか
この様な歴史を見ると、管理されることを嫌がる心理はいつの時代のどんな人にもあるものだということがわかります。
しかし、背番号がここまで象徴的なものに変化したことには、囚人番号や社員の管理番号とは異なる変化を経た理由があるはずです。
最も大きな理由としては、背番号はファンという顧客に対してオープンな情報であるということだと思います。そして、管理番号という情報として付与されるのではなくユニフォームとして身にまとうことで、選手と一体化して認知されることで象徴にもなりやすかったのでしょう。
顧客にオープンにするということは、その選手が背番号とともに市場に開放されることを意味します。それにより球場に足を運ぶファンやテレビで応援する視聴者が選手の活躍とともに背番号にも価値を見出すことに繋がっていくのです。
例え効率化のために管理される情報だとしても、世の中にオープンにした情報として市場を味方につけることができれば、背番号のように本来の目的をはるかに上回る価値を生み出すこともあるのかもしれません。
また、その価値の創出に消費者として参加するだけではなく、提供する側にまわる自由があるのも現代社会の特徴です。
野球に纏わる仕事に就くことで直接的に価値を生み出すことに貢献できますし、既に大人になって転職が難しいようであれば、地元の野球チームで指導をすることや身近な子供たちを球場に連れていってあげることで、間接的に未来のプロ野球選手の誕生に貢献することができるかもしれません。
資本主義の発展と管理社会の到来が結びつくと、どうしても過剰に管理されてしまうというネガティブな発想を持ってしまいがちですが、背番号の例を考えてみるとポジティブな捉え方もできるのではないでしょうか。
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