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複雑骨折



夕飯の支度をしていると電話があった。友人からだった。事故で病院に運ばれ、このまま入院になるからいくつか家の荷物を持ってきて欲しいということだった。私も彼女も、親類に頼れず、配偶者はなく、友人と呼べる相手も互いしかいない孤独な身の上である。キャベツを炒めていた手を止めて、私は病院に向かった。すぐ近所だった。幸いに怪我は打撲と左脚の複雑骨折だけで済み、自分の体よりも私に迷惑をかけることに気持ちを沈める彼女をなんてことはないと慰めた。家の鍵を受け取り、勝手を知る部屋から着替えや細々とした荷物を病室に運んだ。面会時間の終わった八時頃に帰宅した。台所で、冷蔵庫から出して解凍していた豚肉が、腐っていた。



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