マガジンのカバー画像

【カレー】【お弁当】

4
運営しているクリエイター

#小説

彼女と彼

彼女と彼

 よく人のことを犬みたいとか、猫みたいとか違うものに喩えて表現する。人間観察が好きな私はというと、カレーで人を喩える。変だとか言われるけれど、それが一番しっくりくるのだから仕方ない。甘口な人は子供に好かれやすくて、辛口の人は大人っぽいみたいな。
 例えば面倒見がよくさわやかで、みんなから頼りにされているバイトの山下先輩は、夏野菜カレー中辛、隠し味にはカルダモンスパイスとチャツネ。最近入ってきた口数

もっとみる

選択は時に、どちらも正解をはらんでいて。

ある日突然、母は言った。

「お父さんとお母さん、どっちについていく?」

妹はぽかんとして、訳が分からない、といった様子だった。でも、私にはわかる。父と母は、とうとう別れるのだ。正直、別れること自体には安心していた。受話器を持って泣く母を、もう見なくて済む、と思ったからだった。

「私はお父さん」

迷わずいう。母は驚いたような、悲しそうな顔をして、そう、とだけ言った。もちろん、母のことは好きだ

もっとみる

チキンカレー弁当

付き合う女にはカレーは作らせないことにしている。

若い女が世話を焼こうとして料理を作るのを眺めるのは楽しいものだ。「男のために料理をするいい女」という自分に酔い痴れている女は口説くのも簡単だ。そういう姿を見て可愛らしいと思えるようになったのは、トシのせいかもしれない。

だから女が料理をすることは歓迎できる。
しかし、カレーだけは作って欲しくなかった。欲しくなかったのに、帰宅したら最近付

もっとみる