サンプンブンコ

千文字を朗読するのにかかる時間は約3分。「3分で読めちゃう短編作品」を、シェアハウスの…

サンプンブンコ

千文字を朗読するのにかかる時間は約3分。「3分で読めちゃう短編作品」を、シェアハウスの住人たちで書いていきます。 #小説

マガジン

  • 長文文庫

    サンプンブンコ作家が描く、1000文字以上の作品。サンプンでは収まりきらなかった彼らの物語。

  • サンプン ファンタジー

    サンプンブンコのファンタジー小説のみを集めたマガジン。 ショートショートで語られるファンタジーをぜひご堪能ください。

  • (6 。6)

    ろくがつむいか

  • 【カレー】【お弁当】

  • サンプンブンコ作家たちの呟き

最近の記事

孤独に効く薬

 あれは、たしか数週間前のことだった。  定時で仕事を終えた俺は、いつも通る大きな池のある公園に、黒いテントが張ってあることに気づいた。興味本位で近づいてみると、黒いテントは入口が大きく開いており、中には木製のテーブルがあった。照明はランプとキャンドルのみで、テーブルの奥には、フードを深く被った人物が、少し豪勢なヴィンテージ感のある椅子に腰かけていた。  もう十数年この道を通っているが、こんなものを見たのは初めてだった。テーブルの上に並ぶものが気になり、テントの中へと踏み

    • ずっと知りたかったこと。

      『死んだら、是非貴方に伺ってみたかったことがあるのです。生物の生きる意味とは何なのでしょう?』 ―万物はいずれ死にゆく運命です。そうであるなら、より良き死のためにより良く生き、生きた証を残すのが、生命の意味ではないでしょうか。 『よく聞く考え方だと思います。ですが、その考えが私には不思議なのです。』 ―なにが不思議なのでしょう?お聞かせ願えますか? 『まず、その考え方は生物が「死にたくない」という願望を抱いていることを前提にしています。その願望は、いったいいつ

      • 幸福の在り処

        そこには、色とりどりの絵の具が散りばめられていた。いたずらっ子のふたりの妖精が、きゃっきゃと声を上げて絵筆を振り回す。飛び散る絵の具は、しゃぼん玉になり、ケーキになり、キャンディになり、浮いては消えて、また浮かぶ。まるでここは幸福の庭のようだった。 突如空間が切り裂かれ、雷鳴が轟いた。あたりは雨に濡れ、嵐の夜のように暗くなる。捻じれた空間から、烈火のごとく怒る悪魔がふたりの元に降り立つ。 「何故だ!何故こんなことをしたのだ!ここは我の庭ぞ!」 悪魔は哀れに震える二人をむ

        • 幻想情熱大陸 〜竜災復興請負人〜

          篝火を焚いた村の集会場には、人々の手拍子と明るい歌声が響いていた。 炎に照らされた彼らの表情は笑顔だが、皆一様に泥や汗に汚れており、中には痛ましい傷が見える者もあった。これが昼であったなら、崩れた鐘楼や穴だらけになった田畑も見てとれたことだろう。痛ましい爪あと。にもかかわらず人々が笑顔でいるのは、奇跡のように思われた。 人々の歌声を導いているのは、篝火近くに腰掛けている男だった。六弦の楽器をかき鳴らし、陽気な曲を奏でている。村人たちが歌う唄は、先程この男が繰り返し弾いてその

        孤独に効く薬

        マガジン

        • 長文文庫
          2本
        • サンプン ファンタジー
          3本
        • (6 。6)
          7本
        • 【カレー】【お弁当】
          4本
        • サンプンブンコ作家たちの呟き
          7本
        • 散文文庫
          5本

        記事

          女性には敵わぬと見つけたり。

          転職昇化(ジョブチェンジ)? 突然話を持ちかけられた私は若干のとまどいを覚えた。命からがらの仕事を終えた後、いつも中隊長レベルが打ち上げに使う酒場「酩酊の園」にて、各々詳細報告と、少々の愚痴と、帰らぬ仲間への鎮魂の場で。宗主は私に転職の話を持ち出したのである。要は攻撃系魔道士と回復系魔道士を率いる師の立場になってほしいと言う。 「優秀な魔道士はウチの宗族は確かに揃っている。もちろん君も含めてだ。ただ悲しいかな、彼らは己が道を貫く職人気質な者が多く、私の話をあまり聞こうとし

          女性には敵わぬと見つけたり。

          ミキ

           浪人の時期、職業選択肢の一つに物書きと翻訳家があった。素敵な訳文が施された、古い洋楽を聴いてからだ。夢を見果てた訳ではないが、きっと私よりふさわしい後進が現れるだろう。  二十年の時が経ち、形は違えども自分の名が記された出版物が世に出ることになった。さらに受験生の作文を指導する立場になり、私にあたってしまった生徒ははたして幸か不幸か。生徒は先生を選べず、先生も生徒を選べない。 ーー一番やさしくて、一番おっかなくて、一番厳しくて、一番頼られる先生になろうよーー  自分が

          父としての君に告ぐ

           昨夏、日帰りで帰省した私に、父は日曜大工のようにいくつかの用事を言い付けた。姪の宿題を実父母に代わり手伝うことと、夕飯の給食当番、もう一つは地元盆行事における町内会の助っ人だった。  彼は職場勇退後、地元盛岡に隠居の身となったのだが、実際は縁側で茶をすすっているのではなく、家の廊下で銃を構えている。昔取った杵柄で、射撃選手の育成に携わる。老体を酷使して。  その父親から、簡単に言うと戒名を書く仕事を仰せつかったのである。先祖菩提寺の山門近くに陣取り、地域の方々から送り出

          父としての君に告ぐ

          海底の声

          放課後の教室は海の底のような静けさをもつ。海面の海鳥や漁師たちの賑やかな声が遙か遠い世界のものかの如く、窓の外の校庭の音が遠くから聴こえてくる。ただ一枚の窓を隔てた世界には、水深2000m以上もの距離があるのだ。  そんな海の底でふらふらと彷徨う、まるっとした人影があった。それはとても弱りきった様子で何かを探す。  「ぼくの、教科書。」  泣き声混じりに呟くその言葉は、彼が探していた物の名前。トイレで見つけたそれは、彼を意味するある呼び方がマジックで汚く殴り書きされてい

          特別な日

          今日も昨日と同じ、代わり映えのしない一日が始まる。 毎日絶望とともに目覚め、他愛のない朝食を口にし、満員電車で肋骨が折れそうになりながら、他の誰かでもできる仕事をしに会社に行く。できる範囲で仕事をこなし、帰途。電車の窓に映る疲れた顔。ああ、あと何回これを繰り返すんだろう。 じゃあ、休日は?といえばテレビであのタレントが大絶賛してたカフェで大学時代の友人たちと待ち合わせ。近況報告タイム。あの子が結婚しただとか、子供が生まれただとか。あの人は会社を興したって。 わたし?…え

          今日のこと

          んー、なんて書こうかな。 書くのは昔から苦手だ。 でもどうやら今日は逃れられないようだ。 昨日帰り際にボスから、 俺の代わりに営業のメールを書いてくれと頼まれたのだ。 中国のお客さんたち向けに中国語でメールを送りたいらしい。 前にもメールのゴーストライターをやったことはあって、 おかげで、中国人のお客さんは皆ボスが中国語ペラペラだと思い込んでいる。 実のところ、ボスはチェコ人で、日本在住歴12年。 チェコ語と英語はペラペラだが、日本語は英語多めのルー大柴状態だ。 中

          ある世界の終わりに

          「世界は、あと一日で終わってしまう。」  彼の突然の宣告に私は驚愕した。テレビはそんなことひと言も取り上げてなどいなかったし、今日は雲ひとつない快晴で、世界が終わる様相からはかけ離れ過ぎていた。  「きみは世界の終わりをまるで、天気予報かなにかの類のようにでも思っているの?」  彼はそう言いながらけたけた笑う。世界があと一日で終わると言っているような様子にはとても見えない。  「そうだ、最後の日なのだから、しっかりお別れをしないとね。」  そう言うと彼は私の手を引っ

          有料
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          ある世界の終わりに

          Simple words

          大切な人に伝えたい言葉って、 ついつい考えすぎて、長くなってしまいがちだけれど、 本当に伝えたい言葉は、 実はとてもシンプルなんだ。 「誕生日おめでとう」 君と出会えてよかった。 これからも、ずっと友達だ。 #サンプンブンコ #誕生日 #MOJA

          今夜は

          海辺のBARは今夜も賑わっている。 風が、いつもより濃厚な潮の香りを運んできていた。 ここのBARは、美味しいお酒だけでなくフードも店員の気遣いも素晴らしい。 立地、内装や音響と素晴らしい理由をあげたらきりがない。ただそれだけの理由で、このBARが人気なわけではない。まだまだ素晴らしい理由がある。それは、またおいおい。 もちろん、隣に座り海を眺めている女性がいま一緒にお酒を飲んでいるというのも、素晴らしい空間に華を添えている。 女性は肩までの艶やかな髪に、色白で瞳が

          6月6日

          その日は朝からいつもと違った。 つけようとしたお気に入りのネックレスが壊れた。昨日まで元気だったお花は萎れ始めてたし、出がけに白いトップスにリップをつけて汚した。 会社に行くまでもひどくて目の前でバスは行ってしまうし、電車も遅延。 「なんで今日に限って…」 そう思わず口から溢れていた。 どうにかして会社に着いて一息をついていたら一本の電話がかかってきた。 取引先からのお怒り電話。 一日中目が回るほど対応に追われた。 「どうして今日なんだろう…」 またもや不満

          ネガポジ反転自己分析

          自分がどんな人間か、を言葉で表現するのはなかなか難しい。 たとえば、どんな髪型の子が好きー?とか聞かれて、ロングの女の子が好きーとか言うとミディアム以下の子が眼中に無いと思われたり、ロングの特定の誰かを狙っていると邪推されたりする、例のあの問題だ。 「あの人は○○が好き」というのはなんだかわかりやすく人を表現する方法のように思われがちだけど、それって実のところは体良くデフォルメしてるに過ぎないってことはなかろーか。聞き手のわかりやすい文脈で捉えられて、わかったような言い方で俺

          ネガポジ反転自己分析

          彼女と彼

           よく人のことを犬みたいとか、猫みたいとか違うものに喩えて表現する。人間観察が好きな私はというと、カレーで人を喩える。変だとか言われるけれど、それが一番しっくりくるのだから仕方ない。甘口な人は子供に好かれやすくて、辛口の人は大人っぽいみたいな。  例えば面倒見がよくさわやかで、みんなから頼りにされているバイトの山下先輩は、夏野菜カレー中辛、隠し味にはカルダモンスパイスとチャツネ。最近入ってきた口数の少ない後藤くんは、辛口カレーに隠し味はココアパウダーと生姜。自分からはあまり喋