女性には敵わぬと見つけたり。

転職昇化(ジョブチェンジ)?

突然話を持ちかけられた私は若干のとまどいを覚えた。命からがらの仕事を終えた後、いつも中隊長レベルが打ち上げに使う酒場「酩酊の園」にて、各々詳細報告と、少々の愚痴と、帰らぬ仲間への鎮魂の場で。宗主は私に転職の話を持ち出したのである。要は攻撃系魔道士と回復系魔道士を率いる師の立場になってほしいと言う。

「優秀な魔道士はウチの宗族は確かに揃っている。もちろん君も含めてだ。ただ悲しいかな、彼らは己が道を貫く職人気質な者が多く、私の話をあまり聞こうとしないのだよ。君に、その仲介役を頼みたい。先の戦も【殿軍】の二つ名に恥じぬ救出劇だった。これはその礼だと思ってほしい。」

今回の場合、職としては上級職<僧正(ビショップ)>への転職となる。一定数の魔法詠唱の数ー長文系、短文系、印梵系ーが条件であり、上位互換と引き換えに能力アップ/レベルダウン、レベルは振り出しに戻る。但し、師の位は宗族からの任官・叙勲の話であり、任務の危険度は跳ね上がる。が、宗族からの待遇と保護、特権は一族の安寧と等しい。何と天秤にかけるべきか。猶予を与えてくれた宗主の顔は心なしか余裕に満ちている。こちらの悩みと返事をすべて見抜いているかのように。

ー転職の話?

ー師の位とともに、だってさ。

ー怖いの?

ー立場上君から遠くなることが、ね。

近々公私ともにパートナーになる相手にまずは報告。先の戦でも、ともに味方の撤退援護にまわった歴戦の魔道士だ。作戦行動中、「身内は一番最後だよ。」に対して、「君の援護が必要なときは、二人とも駄目な時。」と、反論しつつも肯定してくれた女だ。故に、もちろん今回の報告に対して彼女は賛成も反対もない。
決まったら教えてね、と一言残して寝室へと去っていった。


返事を伝えるべく、期限の日、宗主の執務室に向かう。

ー師の称号、謹んでお受け致します…って、何故君がここに居る?

部屋には宗主だけでなく、見慣れた顔がもう一つ。

ー決まったら教えてもらう約束だったでしょ?それと、身内は一番最後らしいから、一番最初に聞きたかった。

どの局面においても彼女は彼女か。天秤の片方が杞憂であったことを若干後悔する。昇進祝いを買いに行こう、祝福が施された戦闘衣を新調しようと息まいている彼女を制すように、宗主。

「辞令として、受け取ってくれ。」

私には宗族の秘蔵「豊穣の杖」。効果は一部呪文詠唱短縮、統率部隊の魔力消費量若干軽減。彼女には同じく宗族の秘蔵「太陽の杖」。効果は対毒、対呪耐性付与、短文系魔法炎属性付与。そして宗主からもう一つの辞令。

「君達、二人で二つ名を共有しなさい。『連理の枝』でどうだろう?」

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