幻想情熱大陸 〜竜災復興請負人〜

篝火を焚いた村の集会場には、人々の手拍子と明るい歌声が響いていた。
炎に照らされた彼らの表情は笑顔だが、皆一様に泥や汗に汚れており、中には痛ましい傷が見える者もあった。これが昼であったなら、崩れた鐘楼や穴だらけになった田畑も見てとれたことだろう。痛ましい爪あと。にもかかわらず人々が笑顔でいるのは、奇跡のように思われた。

人々の歌声を導いているのは、篝火近くに腰掛けている男だった。六弦の楽器をかき鳴らし、陽気な曲を奏でている。村人たちが歌う唄は、先程この男が繰り返し弾いてその場で教えたものだ。

竜災。文字通り、竜によってもたらされる災害だ。
雨は運河を溢れさせ、風は村をなぎ倒し、雷は山火事を起こす。人の営みのあらゆるものを破壊しつくして、最後には人の心をも壊してしまう。
この村も運悪く気まぐれな竜の通り道となってしまい、多くの前例の通り滅びゆく運命にあるはずだった。
だが、この男がやって来た。東の異国風のマントを羽織り、意匠の凝らされた帽子をかぶって。

ー助けにきた、というから見てみれば、軍でもなく男がひとり。しかも持ち物は楽器と香辛料だけ。最初は冗談かと思いましたよ。

「みなさん、驚かれますよ。でも、こういうときこそ大事なものたちです。」

ー確かに、あなたのおかげで皆に笑顔がもどっている。感謝いたします。

「このあと出てくる料理を食べたら、きっともっと喜んでもらえますよ。」

ー持ってきた香辛料を使っておられましたな。このあたりでは採れないもののようだ。

「安定供給されるように交易路が整えば、ここの新名物になりますよ。高原の鹿はクセもありますが、いいスパイスがあれば見違えるんです。」
「この楽器だって、ただ弾きにきたわけじゃない。ここの乾燥した気候は楽器作りに向いている。工房を作れば職人も吟遊詩人も集まって、宿場町としても賑わいます。」

-なんと。そこまで考えて?

…男は目を細めて、微笑みで返答した。

この男は、かつて武器商人だったという。弩や槍を傭兵たちに売る仕事。その頃は人の命を奪う道具を商うことに悩み、自信も無かった。
「今思うと、武器商人だったことが問題ではなかったんですよ。」
男は篝火を見やりながら呟く。
「いくらで売るか、だけしか考えてなかったんですよね。何を、誰に売って、それが何を意味するか。そこまで考えて、はじめて商いというものです。」

今やこの男は大商会に身を置き、竜災の報せに常に目を光らせ、誰よりも早く現地に乗り込んでは、最も必要なものが何かを見極め、その調達を指揮している。いわば竜災復興請負人だ。
「今の私なら、それが必要だと思えば迷わずに武器も売れます。音楽や料理の方が好きですけどね。」

男の帽子には、麦の穂を咥えて飛ぶ梟が金糸の刺繍で描かれている。「生きる希望を運ぶ智慧者」を意味して、商会から贈られたものだ。
篝火の方では、焼きたての鹿料理が供されていた。村人たちは笑顔と歓声でそれを迎える。
今まさにこの村に灯された希望の火を受けて、男の横顔は煌めいていた。

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