今夜は

海辺のBARは今夜も賑わっている。

風が、いつもより濃厚な潮の香りを運んできていた。
ここのBARは、美味しいお酒だけでなくフードも店員の気遣いも素晴らしい。
立地、内装や音響と素晴らしい理由をあげたらきりがない。ただそれだけの理由で、このBARが人気なわけではない。まだまだ素晴らしい理由がある。それは、またおいおい。

もちろん、隣に座り海を眺めている女性がいま一緒にお酒を飲んでいるというのも、素晴らしい空間に華を添えている。
女性は肩までの艶やかな髪に、色白で瞳が大きく、その瞳を輝かせて笑った姿が美しいので、お酒を共に飲むのが楽しい理由でもある。

かすかなメロディーが店内に流れた、時間だ。

店の一段ステップをのぼるだけの小さなステージに、客席から人が立ちギターを片手に唄を奏ではじめた。

毎晩メロディーを合図に一定の時間、音楽を嗜む来客やスタッフが思い思いの音楽を奏でるのだ。ジャンルはなんでもあり。飛び入り参加もOKで、セッションも可能だ。
基本一曲だけの約束だが、聴衆のアンコールが多ければその演奏者は数曲演奏することを許される。

それだけに、このステージに立つ者はそれなりの腕を持っている。そうするうちに何人かが演奏を終え、パラパラ拍手が起こる。すぐに次の奏者に変わる。

はじまった

伸びやかなで透明感のある歌声が心地いい。
なにより、その唄を紡ぐ彼女の活き活きとした表情が素晴らしい。聴いていても、観ていても楽しくなってくる。
それは自分だけでなく、周りの聴衆も同じようで、目を輝かせてステージを見つめるもの、手を止めてじっと聴き入るものが多く、今夜の奏者の中で彼女が一番この場を支配している。
一曲終わっても拍手が鳴り止まず、アンコールを数曲。
拍手に包まれながら、彼女が私の隣に戻ってきた。

「どう?」と聴く彼女の顔は、とても満足気で綺麗だ。
「とてもよかったよ、何か呑む?」と尋ねると、
「スッキリとしたものが欲しいな。おすすめ、あるかな」
「今夜だったら、特におすすめしたいものがある、それにしてみる?」
「それを」ということで、オーダーをする。

注ぎ口のついたミキシンググラスに、ジンとベルモットがあわさり、バーマドラーでくるりとステアされるとカクテルグラスに注がれる。
カクテルピンに貫かれた白い球体が、最後にグラスにそっと沈み出来上がりだ。彼女の前にコースターとともに供された。同時に私が頼んでいた、赤みがかったオレンジ色のカクテルも。

乾杯をする。
一口飲んで、彼女は微笑んだ
「おいしい。本当にスッキリとしてるのね、これオニオン?」
「そう、カクテルに使う用のもの。この『ギブソン』には欠かせないものなんだ」
「へぇ、『ギブソン』たしかに今夜のおすすめに合うかもね」
「見た目も今夜に合ってると思うんだ、オニオンが真珠に見えない?」
「言われてみれば、6月は、そうだね真珠だ」
「でしょ」

外に目を向けると、ちょうど波間がきらきらと青く輝いている。
タイミングがよかった、今夜は見ることができた。
この店が素晴らしい理由。それがこの景色を時たま目にできること。
私の素敵な友人に、心を込めて呟いた。

「誕生日、おめでとう」

#サンプンブンコ #誕生日 #ハラちゃん

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