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幸福の在り処

そこには、色とりどりの絵の具が散りばめられていた。いたずらっ子のふたりの妖精が、きゃっきゃと声を上げて絵筆を振り回す。飛び散る絵の具は、しゃぼん玉になり、ケーキになり、キャンディになり、浮いては消えて、また浮かぶ。まるでここは幸福の庭のようだった。

突如空間が切り裂かれ、雷鳴が轟いた。あたりは雨に濡れ、嵐の夜のように暗くなる。捻じれた空間から、烈火のごとく怒る悪魔がふたりの元に降り立つ。

「何故だ!何故こんなことをしたのだ!ここは我の庭ぞ!」

悪魔は哀れに震える二人をむんずと掴んだ。震える妖精は何も言えずにいたが、耐え切れずに片方が、こいつがやったのだ!とでも言うように相方を指さす。相方はぎょっとしたような顔になり、同時に心底傷ついた。というような顔をしたが、片方は助かりたい一心で眼をつむっていた。そう、今だけ相方には悪者になってもらおうと思ったのだ。いつもの追いかけっこのように。

悪魔は相方を縛り付け、絵の具や絵筆をひとつひとつ捻りつぶして見せた。いくつかの絵の具をつぶした後、とうとう相方の順番がきた。しかし片方は耳を塞ぎ、目をつむり、世界や相方の恐怖を遮断してやりすごしていた。気づいたときには悪魔は去り、つかの間の恐怖は嘘だったのように光や鳥が舞い戻ってきた。

肩に止まった蝶に気が付き、ああ、ようやく終わった、と顔を上げ、急いでぼろぼろの相方に駆け寄ると、相方は言った。

「ああ、僕はもうだめみたい。でも、君がいなくなるよりずっといい。今まで本当にありがとう。君と過ごした日々は最高だった…」

ああ!僕はなんてことをしてしまったのだ!片方を待っていたかのように、儚く最期を迎えた相方を前に、片方は生まれて初めて、胸が縛り付けられたような、首筋に冷たいジャムが流れるような、体が熱くなるようなおかしな感覚に襲われた。幸福の庭を追われても、悪魔に断罪されたとしても、君と一緒にいられるなら、いつだって最高だったはずなのに!

片方は泣いて泣いて、ひたすら泣いて暮らしました。蝶が舞っても、雨が降っても泣きました。そしてある時、妖精の涙を受けていた相方の砂から、小さな芽が生えてきました。妖精はついに涙をぬぐい、それを大切育て、決して消えない罪と共にいつまでもいつまでも穏やかに暮らしました。

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