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健康診断の結果を産業医に見てもらうとき、どんな用意をすればいいですか?

事例

 ナインエス株式会社は新しく産業医を選任し、もうすぐ2回目の訪問日。人事部員の朝倉は、産業医の佐々木に何をしてもらえばよいのか、インターネットを検索しながら考えていた。

朝倉:「産業医の業務、と・・・。なになに、『事業者は、健康診断の結果について医師から意見を聴かなければならない』、か…。うーん、健康診断は各自に任せているし、社員から提出された結果も特に何もせずファイリングしてあるだけだしなぁ・・・。まぁいいや、ファイルを渡せば産業医の先生ならなんとかしてくれるでしょ。」

2回目の訪問当日。

佐々木:「こんにちは。今日もよろしくお願いします。」

朝倉:「よろしくお願いします。先生、今日は健康診断の結果を見ていただきたいのですが。こちらが今保管してあるうちの社員の健康診断の結果票です。」(ドサッ)

佐々木:「わかりました。この結果は全員分ですか?」(結構量があるな。これは時間がかかりそうだな・・・)

朝倉:「実は・・・お恥ずかしい話、半分ほどしか結果が出ていていません。健康診断を受けるのは従業員任せになっていて、呼びかけもあまりできていない状態なんです。」(正直、私も他の業務で手一杯でそっちまで構っていられないんだよね・・・)

佐々木:「なるほど・・・。一人一人見ながらだと、この量だと1時間以上かかってしまいますね・・・。」(昔の結果や健診機関からの書類も一緒に混ざってるのか・・・もっと効率的にならないだろうか…)

朝倉:「そんなに時間がかかるんですか・・・!」(まいったな、訪問が健康診断結果の確認だけで終わってしまいそうだ。書類を整理できればスムーズにいくんだろうけど、そもそも産業医が健康診断の結果を見て何をするのか分からないから、どうやって用意するか分からないな・・・)

<この記事の事例はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。>

事例の解説

 人事部員の朝倉は、産業医の佐々木に健康診断の結果をサッと見てもらおうとした様ですが、佐々木から「時間がかかりそうだ」と言われ困ってしまっているようです。この記事では、健康診断の結果を産業医に見てもらうときに、どんな用意をすればスムーズに進められるかを解説したいと思います。

*この記事で扱う「健康診断」は定期健康診断を指し、以下「健診」と略します。

産業医の健診判定とは、従業員が安全に働けるかのジャッジ

 健診の目的を一言で言えば、従業員が「安全・健康に働くことができる健康状態かどうか」を確かめることであり、健診結果を見て働けるかどうかを判断するのが、医学知識を持つ産業医の役割です。
 数値や所見に異常がない、もしくは異常があったとしても適切に生活習慣改善や治療を行っていて安定していれば、問題なく働くことができます。一方で異常があるのに治療せず放置しており、業務中に病気を発症して災害や事故を引き起こす可能性や、または業務が引き金となって病気を悪化させる可能性がある場合には、事業者の責任として業務内容の制限(就業制限)を命じたり、休業して療養に専念すること(要休業)を命じたりする必要があります。こういった対応を「就業上の措置(就業措置)」と言いますが、これらの就業措置の要否について、産業医の意見を聞く必要があります(就業判定)。

*この記事では、健診結果で産業医が就業判定することを「健診判定」と表現しています。

健診判定はどんな用意をすればよい?

 健診判定では、産業医は各従業員の健診結果から数値や所見を見て健康状態を評価していきます。健診判定をいかにミスなく、スムーズに行うかは、従業員の安全・健康を管理する面、産業医訪問時の時間コストの面の両面において大切です。

 スムーズな産業医の健診判定のために、おすすめするのが以下の2つのポイントです。

①直近の健康診断結果を用意しておく

 健診判定で使用するのは、基本的には直近で受けた健診の結果票です。健診機関からの送付状や、労働基準監督署への報告に使う集計表、過去の健診結果などは、見てもらう結果票とは分けておくとよいでしょう。
 また健診機関によっては、個人の結果票・会社全体の一覧表・有所見者の一覧表など、同じ人の結果が複数の書類に書かれていることがありますので、健診判定にどの書類を使うのか、産業医と相談しておくのが良いでしょう。

②人数をもとにスケジュールを確保しておく

 産業医の訪問時間は限られていますので、作業時間の見通しを付けておくのは大切です。産業医の健診判定は従業員1人につきおよそ平均1分~2分程かかります。1時間で60人前後の判定を行える計算です。スピード感は産業医の経験や判定のスタイルによって変わりますが、この目安をもとに健診判定にかかる時間を見込んでおきましょう。その上で、安全衛生委員会参加や面談など他の予定がある場合には健診判定を複数回に分けるなど、訪問全体のスケジュールと合わせて計画しておきましょう。

受診率100%を目指す取り組み・仕組みづくりを

 健診は労働安全衛生法によって事業者に対し実施が義務付けられていることに加え、従業員にもまた受診が義務付けられているため、受診率を100%にすることが望まれます。とはいえ、従業員の側も健診の重要性を理解していなかったり、受けられない何らかの理由があるかもしれません。現状の受診率を把握したうえで、従業員に健診の目的やどんな項目を行うのかを周知する、管理監督者が未受診者への対応を行う仕組みをつくるなど、産業医にも意見を求めながら、会社として受診率を上げる取り組みや仕組みづくりを進められるとよいでしょう。

 健診判定は多くの時間が割かれる業務ではありますが、他の産業医活動にもつながる重要な業務の一つです。人事担当者と産業医が連携することでスムーズに行えるとよいですよね。朝倉さんと佐々木先生の二人三脚はまだスタートしたばかり。温かく見守っていただけたらと思います。

(おまけ)健診判定をスムーズに行うための取り組み

 本編ではまずおすすめしたいポイントに絞って紹介しましたが、産業医の目線で「こんなことをしてくれるとやりやすかった、スムーズにできてよかった」という取り組みをトリセツプロジェクトチームの産業医から集めました。
 もちろん人事担当者のみなさんも日々の業務でお忙しいでしょうし、情報管理の問題などもあるため、全てできるわけではないと思います。取り入れやすいものから、またどんな形で用意をすればよいのかを産業医とも相談しながら、人事担当者・産業医の双方にとってベストの方法を探っていただきたいと思います。

○個々の従業員の仕事の内容を分かるようにしておく
 産業医が「安全・健康に働くことができる健康状態かどうか」を見るときに、健診結果だけでなく、従業員の仕事の内容も重要な情報です。仕事の環境が健康状態に影響することもありますし、危険を伴う仕事であればそれだけ健康状態も慎重に見る必要があります。
 具体的には次のような情報があると、より適切な意見を出してもらいやすくなります。
 ・業務の内容(デスクワークか、体をよく動かす仕事か)
 ・勤怠の状況(残業時間、勤務シフト、深夜勤務の状況など)
 ・危険を伴う作業の有無(機械操作や運転、高所作業、重量物取扱いなど)
 ・作業環境(暑い・寒い、暗い、空気の汚れ、騒音など)

職場のことを産業医に職場巡視などを通してよく理解してもらっておくことも、スムーズな健診判定につながります。

○過去の健診結果を見られるようにしておく
 健診判定を行う時に、内容によっては過去の数値や治療状況をさかのぼって確認したい場合があります。また会社の健康度を把握するために確認をしたい場合もあります。その際に、過去の健診結果が手元にあるとやりやすいです。
(健診結果に数年分の結果が載っている場合には、この対応は不要です)

○異なるフォーマットが混ざる場合は、フォーマットごとにまとめておく
 本事例のように受診を各自に任せてある場合などは、受診した医療機関によって結果票の様式が異なることがあります。この時は、同じフォーマットごとにまとめることで、よりスムーズに健診判定を行うことができます。可能であれば会社として社員が健診を受ける機関をある程度統一してしまうのも一つの方法です。

○総合判定のアルファベットごとにまとめておく
 医療機関で健診を受けると、A判定やB判定など、総合判定や項目ごとにアルファベットで判定が書かれています。産業医にとっても大切な情報で、「この人はD判定で要受診だからじっくり見よう」といった意識が働きます。総合判定のアルファベットごとに結果がまとめてあると、限られた時間内で異常がある人から優先的に見て行くことが可能になり、健診判定の大幅なスピードアップが期待できます。
 この方法は従業員が同じ医療機関で健診を受けている場合には効果が高いですが、機関によって判定の基準や表示が異なることがありますので、従業員ごとに受診する機関が異なる場合は、一度産業医に相談するとよいでしょう。

本記事担当:@tszk_283

記事は、産業医のトリセツプロジェクトのメンバーで作成・チェックし公開しております。メンバーは以下の通りです。
@hidenori_peaks, @fightingSANGYOI, @ta2norik, @mepdaw19, @tszk_283, @norimaru_n, @ohpforsme, @djbboytt, @NorimitsuNishi1
現役の人事担当者からもアドバイスをいただいております。

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