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暁に恋して

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#ラブストーリー

短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~12.end~

 12.

 号泣した後の記憶はところどころ抜け落ちている。どうやってトイレから出て来たのか記憶がない。お金を払った覚えもなければ、バッグをどうしたかも覚えていない。

 でも飲み会が終わったらしいことは覚えている。カラオケボックスから外へ出たことも覚えている。だけどその先は記憶がない。

 私は今、全身に風を浴びながら道を進んでいた。身体を貫くほどの冷風が今は心地よい。それが私の体内を浄化してく

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~11.~

  11.

 高校生の飲酒は法律上禁止されているけれど、ストイックなスポーツ選手でもない限り、飲まない人はいないんじゃないかしら。

「あなたがお酒を飲み始めたのはいつ頃からですか」というアンケートを採ったら、きっとほとんどの大人が「高校時代」と答えると思うのだけど。

 私達は、校内でイベントがある度に、終わるとクラスで集まって飲み会を開く。みんな学生だから、場所はやっぱり学校の近くの繁華街に

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~10.~

 10.

「嫌だよ」
「え?」

 倫世と手分けして校内を捜し回った挙げ句、私が霞君を見つけたのは十分後のことだった。

 霞君は三年生のクラスでやっていた餅つき大会に参加して、あべかわ餅を食べているところだった。私は手短に事情を説明し、協力を頼んだ。それに対する彼の返答がこれだったのだ。

「どうして? どうして嫌なの?」
「ていうか、どうして人の頭を膝蹴りするような奴の手伝いを俺がしなくちゃ

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~9.~

9.

 そして学祭の当日がやって来た。

 このときばかりは、教師も生徒も普段とは違ういい表情。校内にいるのに開放感がある。いつもは陰に潜んでいたロマンスが発覚したり、新たに生まれたりするのもこんなときだ。

 校内は至るところ賑やかだ。最初に校門の上に造花で彩られたアーチをくぐるだけで、もう心穏やかにはいられない。それは関係者も来客も一緒みたい。こちらが作り出すテンションにすぐに溶け込んでくれ

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~8.~

8.

 その日から、彼を見つめる私の視線は、前より一層熱を帯びたものへと変わった。自分でもそれが判っているから、出来るだけ視線を向けないようにしているのだが、彼はまるで極性の異なる磁石のように私の瞳を吸いつける。

 気がつけば、私は霞君のことばかり考えている。

 家にいるときは何をしているのか、食べ物や映画の好き嫌いはどうかとか、そんなことも考えるけど、もっと強く私の興味を引くのは、普段は髪

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~7.~

7.

 気がつけば、客席にはもう私一人。幻想的な気配に身を嬲られているうちに、時間の感覚を失っていた。でもあえて腕時計を見る気はない。けれど、時間の経過を如実に示す現象が、私に「LADIES ROOM」と書かれた扉を開けさせた。

 用を済ませて鏡の前に立ってみる。まだ頬が熱い。冷たい水で顔をジャブジャブと洗ってしまいたい気分だが、そういうわけにもいかない。

 ジン・トニックに奪われたリップを

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~6.~

6.

 そして二日後。私は全裸のまま、床に散らばした服の海の真ん中に鎮座していた。

 バイト先には休みの連絡を入れ、放課後まっすぐに帰宅して服選びを始めたのだが、二時間経っても何も決められずにいた。霞君との約束は午後八時だったから、まだ充分に時間はあるけれど、このまま同じことを繰り返していても私が全裸でなくなる日が来るとは思えない。けれどそれは楽しい選択だから、私は少しも苛々しない。

 いっ

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~5.~

   5.

 地球上で一番最初に「当番」とか「日直」という制度を考えたのは誰だろう。ついでにそれを男女ペアでやらせようと思いついたのは誰だろう。

 外国では男は幼少時から紳士として教育され、女性に対して常にフェミニズムを発揮すると聞くが、私の今までの人生の中で、この国の若い男が紳士たりえたというようなことを見たり聞いたりしたことがない。

 男の子はたいてい、「掃除とか面倒臭えことは女がやるも

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~4.~

  4.

 私はつくづく卑怯な人間だ。

 まだ彼に傘を返していない。あのときどんなにありがたく思ったか、一緒に傘の下にいたあの時間がどれだけ楽しかったか、まだ彼に伝えていない。

 それは恥ずかしいからではない。

 クラス中から半ば村八分にされている彼に話しかけることで、みんなの自分に対するイメージが悪くなることを、みんなから彼と同じような扱いを受けることを恐れているからだ。

 だから二人

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~3.~

3.

 キーを差し込んで部屋に入ると、薄暗く冷え冷えとした空気が私を迎えてくれた。この家が家族で埋まるのは、深夜から朝にかけてのわずかな間だけだ。普段ほとんど人のいないこの広すぎる空間を、私は時折もったいないと思う。

 鞄を置いて制服を脱ぎ、そのままベッドに倒れ込むと自然と溜息が漏れた。誰の視線もない一人きりの場所で、私は少しホッとする。大の字になった四肢の先端までが徐々にリラックスしていくの

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~2.~

2.

 学校はいつだって恋愛とエッチの話題でいっぱいだ。教科書は本能を理性で抑制するよう要求するが、そんなことに一体どれほどの効果があるというのだろう。

 自分の身体が大人の性に目覚めれば、当然異性のそれにも興味が向く。それが恋愛感情に変わることもあれば、そうでないこともあるけれど、自分の身体の変化と共に発生する感情を抑えられるわけがないと思う。

 抑えられずに溢れ出し、右往左往することが私

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短編小説「暁に恋して」作 清住慎 ~1.~

1.

「てめえ、今実佳のスカートの中覗いたろ!」

 隣を歩く有里の声に、私はようやく気がついた。
 私達は、仲間で固まって音楽室へ向かう階段を上っているところだった。

 今時の女子高生なら、制服のスカートはマイクロミニ。当然下着も見せパン。だから見られてもどうってことはない。階段の上り下りに気取って手や鞄なんかで隠す子がいるけど、隠すくらいなら最初から穿かなきゃいいのにって思うから私は隠さな

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