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3日目:1輪の向日葵と飲みかけのグラス/3日小説①


~3日目:1輪の向日葵が見守る時間~


ジャケットを片手にする人
結んでいたネクタイをはずす人
綺麗にまとめていた髪留めをゆるめる人


街中には1週間の終わりを告げる合図をする光景がひろがっていた。
それは同時に私の時間が始まる合図だった。


いつもと違うのは、
商店街で買った向日葵がカウンターにあること。
少ししおれているような、でも綺麗に咲く向日葵。

明日には廃棄されるようなそんな花だったけれど、
何とも言えないその色合いと雰囲気に惹かれて購入していた。
廃棄前だからそのまま渡してくれようとしたけれど、
正規の値段を支払い、空の花瓶に水をはり飾った。


キラキラとした石をそこにひき詰めた花瓶に
凛と佇む向日葵。

週末だけあける小さなバーで今日も私は人とむきあう。
でも今日はこの向日葵とともに向き合う時間にしよう。



仕事、恋愛、家庭、、、、
様々な物語をここでは目にする。


今日のお客様は30前の目の大きな女性だった。
彼女は最近、転職をしたそうだった。
不安いあっぱいだったけれど現状を変えたくて、
エージェントにも相談をしながら今の会社に入ったそうだった。


その選択にいたった経緯、流れ、今の気持ちを静かに話した。

とても静かに、とてもゆっくりと、でも嬉しそうに、
優しく微笑むように飲みながら話した。
その笑顔は飾った向日葵のように優しい雰囲気だった。

そして2杯目の飲み物に手を付けるころ
少し酔い交じりの声で顔をあげて彼女は言った。

「この向日葵、なんかいいね。すごい元気出た」

写真を一枚撮り、彼女は店をでた。
その後ろ姿は凛と咲く向日葵のように力強かった。



その後も何人かのお客様と向き合った後、
今日という時間を私は終えた。
向日葵を持ちかえれるように処理をした後、
私は自分で淹れたコーヒーと向日葵を片手に
夜の帰り道を1人歩いた。


この仕事に限らずだが、人の人生という物語に触れると
いつもいろんな気づきがある。

どんな選択にも正解も不正解もなくて
それを決めるのはその人自身であるという。

でも少なくとも、今日の向日葵の女性のように
笑顔で過ごす選択をする人が増えたらいいなと強く思う。

そのために私はキャリアコンサルタントの仕事も
週末のバーの仕事も続けていくのだろう。

真夏のジャケットも一凛の向日葵も
まわりまわって誰かのためになるかもしれないのだから。
綺麗ごとも並べて歩く夜。

でも、そんな希望にあふれた気持ちに浸る時間があってもいいじゃないか。
人生、まだ捨てたもんじゃない。

そう思う人を増やすために、
また頑張っていこう。


今日という些細な時間が、
誰かの人生のターニングポイントになるかもしれないのだから。



ではまた週末に会いましょう。
おやすみなさい。


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