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創作小説

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創作なんて大それたものでもないお話たち
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#恋愛

Pasta di Status Quo

Pasta di Status Quo

平井くんとの出会いは、マッチングアプリがきっかけだった。でも、私と平井くんがマッチングした訳ではない。平井くんがマッチングした別の女性と食事をしていたカウンターの隣に、私、望月みのりとコトネが座っていたのだ。

「ねぇ、もっちーの隣の二人組、絶対アプリきっかけのデートじゃない?あの感じ、初回かな?」
コトネがわくわくした表情で私に小声で耳打ちするまでメニューに夢中で気づいていなかったけど、チラッと

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ラブはノベルティ

ラブはノベルティ

恋愛感情がない訳ではない。初恋は小三の時で、クラスで一番足の速い田代くんのことが好きだった。そのあとも好きな人は断続的にいて、中学生の時は同じ委員会になりたくて朝が弱いのに朝当番のある美化委員に立候補したり、高校生の時はルールも分からないのにバレー部の試合を見に行ったり、大学生の時はバイト先で自分ではなく相手のテスト期間に合わせてシフト希望を出したりしていた。

でも、なんか、その程度で満足だった

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はないちもんめならよろこんで

はないちもんめならよろこんで

待って、そんなにいっぺんに聞かないでよ、ちゃんと話すから。一旦飲み物飲むね。

ふう。…きっかけは、多分察しついてると思うけど、リエちゃんの結婚式。帰りの電車の中で「青柳くん、森ちゃんのこと狙ってなかった?」ってアリサちゃん言ってたけど、その通りだったの。私は気付いてなかったけどね。
あれが半年?もっと前だっけ?で、その後LINE来て何回かサシでご飯行って、流れで付き合ってからもう3ヶ月くらい。一

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燃やして燻らせて

燃やして燻らせて

「ほんと、百害あって一利なしって分かってるのに、どうしてやめないのかしら。ミユもいるっていうのに、まったく」

ベランダで肩身狭そうに煙草を吸う父の背中を見ながら、まだ”タバコ”が何かも分かっていない小さな私に、母はよくぼやいていた。ベランダから戻ってきた父から漂う独特な匂いは別に嫌ではなかったが、母の機嫌が悪くなるのは嫌だったので、父が禁煙をすると聞いたときは歓迎した。私は小学四年生だった。

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あなたの方がよっぽど、

あなたの方がよっぽど、

ユリさんは正しい。私だってその正しさを同じ感覚で飲み込みたかったのに、それができないのはきっと私たちの何かが徹底的に違うからだ。

「初めまして、片岡ユリです。なんだか名前の響きが似てますね。よろしくお願いします」
年下の私に対しては深すぎるくらいのおじぎをしたユリさんは、韓国ドラマのヒロインの敵役に出てきそうな人だった。すらっとした体型が目立つネイビーのワイドパンツ、涼しげな奥二重、いかにも社交

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苦い・甘い・酸っぱい、それから

苦い・甘い・酸っぱい、それから

好きなのに、大事に思っているのに、どうして私は彼女の気持ちを分かってあげられないんだろう。

「初めまして、金岡サユリです!よろしくお願いしますっ」
ぺこっ、という音が聞こえそうなおじぎをした金岡さんは、朝の情報番組のアナウンサーみたいだった。コーラルピンクの健康的な頬、毛先がくりんとカールしたポニーテール、明るい水色のフレアースカート。
「先月中途で入社したばかりで緊張していたんですけど、女性の

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憎き、愛しき、"かわいい"へ

憎き、愛しき、"かわいい"へ

※この物語はフィクションです※

「ナナってぶりっこでキモいんだよね」

代わりばんこに雑誌のちゃおを買って貸し借りする仲だったアユミちゃんが、机を囲む女の子たちに冷たい目で言い放つのを聞いた瞬間、すっと手の先が冷たくなったのを今でも鮮明に覚えている。血の気が引くというのはこういうことか、と当時小学四年生だった私は身をもって学んだ。

私と仲良しであるはずのアユミちゃんによる私への嫌悪感の表明は、

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