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映画『おもちゃの国』のモチーフから読み解く、ホロコーストの残酷な現実

「おもちゃの国」という言葉から思い浮かべるのは、おそらく夢のある純粋なファンタジーの世界ではないでしょうか。

映画『おもちゃの国』は、そんなタイトルの無邪気さとは裏腹に、わずか13分ながらもホロコーストの残酷な歴史を見事に描いています。

秀逸な構成と、様々なモチーフを巧みに利用したこの映画に隠されている重要なテーマとは一体何なのでしょうか。

今回は、『おもちゃの国』の作品解説をお届けします!


〈作品時間〉13:53
〈監督〉Jochen Alexander Freydank
〈あらすじ〉第二次世界大戦でナチスによるユダヤ人の虐殺が行われていた時代。仲の良いお隣の家族が、「おもちゃの国」へ旅行に行くという嘘を鵜呑みにしてしまう少年ハインリッヒは、彼もついて行くと言い出してしまう...

***

1942のナチスドイツ

映画の舞台は、ナチス政権 によってユダヤ人が迫害を受けていた、第二次世界大戦真っ只中のドイツ。

ユダヤ人は、他の民族と区別するために星形のワッペンか腕章を身に着けることを命じられ、収容所に連れていかれていた時代です。

主人公ハインリッヒの親友であるお隣のお友達、デビッドもユダヤ人であり、彼の家族は収容所に行かなければなりませんでした。

しかし、ハインリッヒの母親は、まだ純粋なハインリッヒをそんな世界の残酷さから守るため、彼らは「おもちゃの国」へ行くのだと嘘をついてしまいます。

母の言葉を信じて彼らについて行ってしまったハインリッヒ。

彼を連れ戻すため、母親は収容所行きの列車へと向かいますが、そこにはまだハインリッヒの姿はなく、デビッドとその家族の姿だけでした。

結局彼女は、デビッドを自分の子だと偽ることで、せめて子供だけでも助けようとしたのです。

ハインリッヒを探す母親と、デビットとの関わりという2つの時間軸を織り交ぜながら展開していく構成は、まさに監督の素晴らしい手腕であると言えます。

テディベアが表すこと

映画の中に度々登場するテディベアは、ハインリッヒの純粋さ、幼さを表しています。

確かに、ハインリッヒがテディベアを抱き締めるシーンなどからは、彼の子供らしさがより強調されているように感じますよね。

また、「おもちゃの国」の存在を信じているハインリッヒの無邪気さや無知さを視覚的に伝えているとも言えます。

ハインリッヒがテディベアを落としてしまう終盤のシーンは、デビッドに”「おもちゃの国」は無い”という真実を知らされ、彼がもう無知ではなくなったことを描写しているのだそうです。

こうしたモチーフが多く見られるのはこの映画の特徴の一つであり、
ハインリッヒの部屋にあったおもちゃの列車も、後に強制収容所に向かう列車を暗示していると言われています。


”ナチス警備員”の存在が描くテーマ

また、ナチスの警備員の対応を通して、この映画のテーマの一つである”平等”を描いているのも見どころ。

ナチス警備員は初め、ハインリッヒを探していた母を疑いもなくユダヤ人だと思い込み、「穢れたユダヤ人め」と罵声を浴びせていました。

一方、デビッドを自分の子供だと偽った場面では、ほとんど疑うことなく「お母さんにそっくりだ」と言い、デビッドをドイツ人の家庭の子供であるとすんなり思い込んだのです。

この二つのシーンをあえて対比させることによって、ユダヤ人とドイツ人の”命の平等さ”を伝えている点は、まさにこの映画の素晴らしい点なのではないでしょうか。


ホロコーストを比喩するピアノ

そして、映画の中で度々登場するピアノも、大きな役割を果たしています。

黒と白の鍵盤が並んだピアノは、ユダヤ人が収容所で着させられていた縦縞模様の囚人服を私たちに連想させているのではないか、という解釈もあるのだそうです。

その上を奏でるハインリッヒとデビッドの小さな手は、
そんな悪しきホロコーストを超えて結ばれた2人の強い絆を表しているかのようですね。

ラストシーンでその手に深いしわが刻まれていることは、彼らの友情がずっと続いてきたことを私たちに教えてくれています。


ナチスによるユダヤ人迫害。

私たちにとっては遠い昔の遠い国の話のように感じるかもしれませんが、
決して忘れてはならないその根本にある普遍的なメッセージを、この映画は伝えているのではないでしょうか。


詳しい理由は分かりませんが、実はこちらの映画、アカデミー賞を受賞しているものの、ドイツではあまりウケなかったのだそうです。

ですが、この映画はホロコーストと子供の純粋さの対比、そして、「命の平等さ」という重々しいテーマを、短い時間で見事に描ききった素晴らしい物語であることは、きっと、間違いありません。

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