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映画『バックログ』ーノンフィクション。あなたは衝撃的な現実を目の当たりにするー

私たちの見知らぬ所で、不条理なことが絶え間なく起き続けるこの世界。そんな中、最近大きな注目を集めているニュースのひとつが『性加害問題』です。

性加害とは、同意のない状態で行われる『性』に関する加害行為。現代では、被害にあった人々の勇気ある声に賛同する人が増え、何十年にも前にさかのぼる事実が次々と浮き彫りに。

もう、見て見ぬ振りは許されない事態にきています。

そんな事態をストレートに描いた映画が今、注目を集めています。その映画が今回ご紹介する『バックログ』。

性被害によって心身のダメージを受けた女性が主人公の物語。盛大に開かれたパーティーで起きた、たった一つの出来事が彼女の人生を大きく変えることに・・。

事実に基づいて描かれた、誰も無視できないストーリーが話題のようです。


あらすじ
舞台はアメリカ。サプライズによって催された21歳の誕生日パーティーに、嬉しそうに友人と抱き合う主人公・マロリー。そこに現れたのは、マロリーに好意をよせていたクリス。2人は話をしながらロマンチックな雰囲気を堪能していた。しかし、普段あまりお酒を飲まないマロリーが泥酔状態になったのをいいことに、クリスは彼女をレイプして逃げ去るのだった。心身的にもダメージを受けてしまったマロリーだったが、クリスには前科もあったので逮捕されることを確信し警察に任せていた。


そんなマロリーに警察から一本の電話が。「彼はレイプをしていないと主張し、弁護士を雇った」と事実と全く異なる内容に異変を感じるマロリー。私のレイプキットが検査されていない・・・。事態は簡単には終わらず、衝撃の事実と向き合うことになる。最悪な一夜をきっかけにやがて彼女の人生は大きく変わっていくのだった・・・。



・レイプキットの知られざる実態を描く

「あなたはレイプキットの存在を知っていますでしょうか?」

レイプキットとは「性的暴行キット」や「性的犯罪コレクションキット」とも呼ばれます。性的犯行の被害にあった場合などに、緊急外来などの公の医療機関に駆け込むと受けることができる検査。

犯人の特定や性的暴行の訴え、身体的証拠を収集するために医療従事者が使用するアイテムのパッケージのこと。

あるネット記事ではレイプキットが役立ったことで、レイプ犯を起訴し有罪判決まで獲得した事例が多くなったと主張されていました。

また再犯率が高いことが判明するなど、コストのかかる調査にはなるものの、被害にあった本人やその家族にとっては希望ともなるものでした。

しかしそんな希望も束の間。アメリカのニューヨークタイムズが報じた記事では、2019年の時点で約25万個のレイプキットが未検査のまま残されていていることが明らかになリました。

検事長の声明では、「レイプキットを検査することが、被害者のメンタルケアにもつながることを確信はしている」と発言。しかし、これだけの検査をするには州の法を改正する必要があると言われるほど、もう手に追えない状態とのこと。

これまで、主に女性が関与する犯罪は軽視されてきたと言われ、性別による偏見こそがこのような事態を招いたとしているようです。

そもそも全米でこれだけのレイプの被害があったことに筆者も驚きを隠せません。

これだけ多くの女性が我慢してきた中、このように公になってきた今、向き合わなければいけない事実だということがわかりますね。


・「孤独感」を引き立てる周りの存在

今回描かれたストーリーの中で注目すべきことがあります。それが主人公・マロリーが感じていた「孤独感」。

とても印象的なのがマロリーがレイプ被害から復帰し、再び大学に通い始めたシーン。

久しぶりに出会う友達に話しかけたマロリーでしたが、その対応は期待していたものとは全くの真逆でした。

友人から「マロリーが彼をレイプ犯に仕立てたんでしょ」と責められたマロリーは驚きを隠せません。

さらに追い討ちをかけられるようにかかってきた警察からの電話。

「レイプキットがあるでしょ?」の彼女の訴えに関して「これ以上の共有はできない」と逃げるように終わらされる会話。

まさに、これこそ被害者がリアルに抱えている「孤独感」なのかもしれません。

さらに注目していただきたいのが、電話越しに話す警察官の姿です。もう手に負えないほど溢れてくるレイプによる被害。

当たり前のようにかき消されるようになっているレイプキット。レイプによる苦しさを直接感じるものの、何もしてあげられないことへ警察官が感じる悔しさ。まさに板挟み状態・・・。

あれが警察側のリアルなのでしょう。警察官も戸惑うほどの彼女の姿に、できることは果たすべきだと感じている様子。

しかし、手に負えないほどのレイプキットの量にすぐに何もしてあげられることがない実態。まさに身動きがとれない事態・・・。

警察があの電話を切る姿は、いろんな思いがつまった瞬間だったのでしょう。


・注目すべき「勇気ある行動」と「価値ある姿」

どんな最悪な状況にも立ち向かうマロリーの姿には目が離せません。

「触れたくない過去」「恥ずべき経験」には誰もが目を背けたくなるものです。どんなに不利な立場にいようが、何年も向き合い続けるマロリーの姿にぜひ注目していただきたいです。

特に裁判で冷静に話すシーンは印象的。

「私の声は、何千人もの女性の声なんです。」


「私たちの声は聞こえているはずなのになぜ何も動かないの? 
 このシステムの何を信用しろというのですか?」

そしてこの映画で最も印象的な言葉があります。

「ただの番号ではなく、ただの埋もれた名前で終わらせないで・・・」

私は性被害を受けた何千人の中の1人ではない。『マロリー・ニュール』というひとりの人間が性被害を受けて苦しんでいるんです。

もちろんマロリーだけではありません。同じ性被害を受けた人々が、マロリーと同じくらいの苦しみを背負って生きているんです。

だから、ただの事実だけでは終わらせないでください。

そんな深いメッセージが込められている気がしました。涙をこらえながら発言する彼女の姿に、あなたも感じるものがたくさんあるのではないでしょうか。


・日本でも溢れてくる「性被害者の声」の実態


決してアメリカだけの問題ではないことを忘れてはいけません。こうした性被害者の声は日本でも増加傾向に。

ここ数年SNSなどを利用して、性に関するダメージを受けた被害者が勇気を出して声をあげるケースが注目されつつあります。

それも、被害を受けてすぐにあげられた声ではなく、何年にも前に起こった事実が浮き彫りになることが多いようです。

それは当の被害者が、この映画を生きるマロリーと同じ苦しみを数年も抱えて生きていたということを意味しますね。

実際に経験した人でない限り、被害者のリアルな苦しみを全て共感するのは難しいかもしれません。

でも、少なくともこの作品は「性被害者がどんな深い苦しみを持って生きているか?」を感じることができます。

こうした性被害の実態を蔑ろにしないためにも、世界が一度は見るべき映画の一つでしょう。

映画「バックログ」はSAMANSAで公開中!!

あなたにもぜひ、この社会問題を通じて伝えてくれる強く生きることの大切さを心から感じてみてください。

<SAMANSA 映画ライター shuya>

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