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【短編小説】茜色に染まる


ベランダ。

水平線に茜色の太陽が沈んでいく、土曜日の夕方。



ヘッドセットをつけて友達とオンラインゲームを楽しんでいた。


なんともないいつもの週末。

「きたきたきた」

「おけ、サポート回る」

敵から逃げる私を友だちが援護する。


「ナイスー」


ゲームが終わるとスマホが振動した。

まただ。今月で何回目だろう。


視界に入った通知に無視を決め込み、画面に向き直した。


「どうする?今日この辺にしとく?」

「いーや、まだ行ける」

「オッケー」


また通知。


気にしない、気にしない。


また鳴る。


しつこいなあ。


大体知らないアカウントからのリプライなんて返すわけ無いじゃん。


どうせ相手は最近やたらDMを送ってくるスパムだ。


アプリの通知切ろっかな。ま、そこまではいっか。



「あ、ごめん、ちょっと座布団とってきていい?」

「何また腰痛いの」

「うん、寝違えたかも」

「ゲーミングチェア買えば?」

「流石に金ない」

「課金すんのに?」

「課金は人生だから」


そう言い残して友人が席を立った。

少し伸びをしようとヘッドセットを外し、ゲーミングチェアに思いっきり寄りかかる。


ゲーミングチェアがわずかにきしむ音がした。

窓の外からわずかに夕方を知らせる町内放送が聞こえてくる。


もうそんな時間か。


いつもの夕方、いつもの日常。


そんな平和な時間に、







ほんの少し、違和感があった。








玄関からかすかにガタガタという音が聞こえる。


なに。


宅配ならインターホンを鳴らすはずだし、誰にも合鍵を渡していない。


少し様子を見に行こうか。

足音を立てないように息を潜めながら玄関に向かった。


穴から外を覗くとそこには誰もいなかった。


なんだ、気のせいか。


ちゃんと鍵はかけたんだからきっと大丈夫。


そう信じて友人とのゲームに戻った。


「ごめんなんか外で変な音してて」

「大丈夫?」

「うん、誰もいなかったし大丈夫だと思う。続けよっか」

「オッケー」


その時、開けないはずのドアがガチャリと開いた。



侵入者は一歩ずつ、一歩ずつ、彼女への歩みを進めた。




ゲームに熱中していた彼女はそんなことには気づかない。




背後に立った、その人物は、



ゆっくりと彼女を抱きしめた。






「サプラーイズ」




肩を何かが這う感覚があった。

ゲーム音に混じってかすかに聞き覚えのある声がした。


途端、胃のそこから湧き上がるような吐き気がこみ上げてきた。



気のせいじゃなかったんだ。


「助けて」


かすかに絞り出した声も


「え?敵そっち行った?」


友人には届かない


「殺される」

なんとか助けを求める言葉も

「エリアは?」

うまく伝える事ができない


「メンヘラ男子に殺されそう」

「え?メンヘラ元カレともう別れたんじゃないの?」



「人聞き悪いなあ、僕はメンヘラでもないし殺しもしないよ」



しかし視界の端に映ったナイフはそうは言ってなかった。












あとがきのようなもの

執筆配信中、視聴者から頂いたキーワードを使って即興で20分かけて書いたシナリオに、見やすくなるように少し手を加えたものです。


キーワード

・メンヘラ男子に殺されそう

・夕方

・座布団

・ヘッドセット

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