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『玩具修理者』小林泰三



手に取ったきっかけ

こちらは、とあるSNSでいつも仲良くさせて頂いている方がご紹介されており、それをきっかけで知りました。

私は基本的に本屋さんでも、図書館でもPOPで「ベストセラー」とか「空前の大ヒット」とか「ドラマ化」とかがついているものを何度か手に取って読んでも、面白いとは感じないタイプで…。

「あぁ、大勢の方とは感性が違うのだなぁ(変わり者なのだなぁ)」と気づいて以来、そういったものを頼りにはしなくなったのですが。

そのSNSで紹介されている本で「読みたい」と感じた本で「読まなきゃよかった」と思ったことは一度もないです。

ただ、どれもマニアックなので(笑)入手するのが難しいものも多いのが難点です。

良質なホラーを読みたければ「角川ホラー文庫」が手堅い

こちらの本は「角川ホラー文庫」です。

私はホラーはあまり好きではないのですが、ミステリやサスペンスが好きなことが影響し、いつの間にか良質のホラー(単なるスプラッタや猟奇殺人ではなく)を集めていくと、気づくと「角川ホラー文庫」の一角が出来上がってしまったのですね(笑)

ここに写っている本の中で、まだレビューをしていない本があり、それが膨大になりそうなので、今少しずつこちらで書き溜めており、いずれ登校したいと奮闘中です。

素晴らしすぎるので。

ということで、個人的に「この黒い背表紙」は、「買い」だなと個人的に思っています。『玩具修理者』を紹介してもらって、興味を持って本屋さんに行ったら、見事に黒背表紙だったので、買ってしまいました。

あらすじ

本書はタイトルとなっている『玩具修理者』と『酔歩する男』の二編が収録されております。しかも、短いほうの玩具修理者がタイトルとなっているという…。これはもう気になっちゃいますよね。

私はWebライターというものを生業としているので、どうしても、この短い話を最初に持ってきて「タイトル」とした意味とかを考えてしまうのです。

玩具修理者のあらすじは以下の通り

玩具修理者はなんでも直してくれる。どんな複雑なものでも。たとえ死んだ猫だって。壊れたものを全部ばらばらにして、奇妙な叫び声とともに組み立ててしまう。

ある暑すぎる日、子供のわたしは誤って弟を死なせてしまった。親に知られずにどうにかしなくては。わたしは弟を玩具修理者のところへ持っていくが…。

これは悪夢か現実か。

『玩具修理者』

あらすじの通り、『玩具修理者』については、ほぼこの内容を厚くしたものが本編です。

『酔歩する男』のあらすじ

ある一人の女性を愛した二人の男がいた。男たちの名前は血沼と小竹田。女はそれぞれと付き合っていたが、二人の男は「この世で愛する女はこの女しかいない」と思っていた。

ある日。女は二人の男を呼び出す。「話がある」とー。

待ち合わせ場所に先に着いた二人の男は、「何の話だろう」と推測し合うが、答えはでなかった。しかし、女が待ち合わせ場所に現れることはなかった。

女は電車に轢かれて、バラバラになって発見された。事故か自殺か。やがて警察は事故と判断し処理をしたが、二人の男は「世界にただ一人の愛する女」を失い狂気に走る。

「もう一度彼女に出会う方法を探して」

ひとりは医師としてクローン研究をするが、女を取り戻すことはできなかった。もうひとりも医師を目指したが受からなかった。諦めたかと思ったが、彼は別の方法で彼女と再び出会う方法を考え出す。

これが、崩壊への道だったー。

感想

『玩具修理者』について

私は『玩具修理者』→『酔歩する男』の順に読んでから、もう一度書名になっている『玩具修理者』を読みました。

すると、作者のこの時の興味や関心が見えてくるのです。

  1. 今みんなが普通に受け入れている「生きている」ということは、本当なのか?壊れたところを玩具修理者のような人に直してもらって、動いている、ナニカではないと言い切れるのかー。というように、現実と想像をしている世界との境目を曖昧にすること。とりわけ、読者にもその世界の方が自然なのでは?と思わせる力が巧みだなと感じます。

  2. 「人を呪わば穴二つ」の言葉通り、「特別な力」を使ってしまうと、「自分自身もこれまでの自分では済まない」という教訓めいたような、怖いような、上手い話はないというような、恐怖を与えてくれます。

最後まで玩具修理者は何者なのか明かされませんが、玩具修理者自身を修理したナニカがいたとしたら、それは何なのかー。

想像力も掻き立てられる面白い構成でした。

『酔歩する男』について

若干ネタバレを含みますが、これに触れないと感想を述べることが難しいため、含みます。ただ、この「ネタバレ」を読んでも、本書を読む楽しみは変わらないのでご安心ください。

このお話は、ゴリゴリの最先端科学を用いた「SFホラー」なのですが、「時間とは何か」についてとても考えさせられます。

また、あくまで私は「SFホラー」というのは、ある科学技術が完成した時、それを悪用したり、狂気を持って使用した人がいたらこんな未来もあり得るのでは?という「危うさの提示」だと思っているのですが…。

不思議なことに、この『酔歩する男』を読んで感じる「恐怖」はそこではありませんでした。

先にも触れたとおり、ゴリゴリのSFホラーで、「時間と空間を操る科学技術」というのか、それを捉えている「人間の脳や意識と無意識の領域」なのかもわからなくなるのですが…。

タイムリープものというのは、十年ほど前から何度も何度もこすられたテーマですが、これはそんなある種の”チープさ”を感じさせず、またこれまでタイムリープものでは「当たり前とされていたルール設定」を無視しているのです。

望んだ時間。決まった場所。そこに転移することができるというのが、大体のタイムリープものですが、これは「眠るだけ」で、次に目覚めた時、どの地点にいるかもわからないのです。

だから、ある時目覚めた時の行動としては、「望んだ結末」を手に入れられても、それは一瞬でしかなく。また、ひとたび眠れば、次はどこの過去・未来にいるかわからない。

そんな時間と空間の中を、ある意味では「漂うだけの存在」となってしまったある男たちを描いた物語です。

これって怖くないですか?最初は「愛する女を取り戻す・救う」という目的があったから頑張れるかもしれませんが、やがて寝るたびにまたリセットされたり、失った未来にいたり、出会う前の過去にも行ってしまう。次に目覚めた時、自分がどこにいるかわからない。

世界でひとりだけ。自分だけが世界から別のルールで動いている。しかも、自分の意思とは関係なく、永遠にー。

正真正銘のホラーですね。自分の身に起こったら、割と一番嫌なことリスト上位に入ります(笑)

二編を読んで、作者を想う

双方に共通するテーマは
・死
・愛するもの、大切なものを失う痛みは狂気
・大切な人を失った原因が自分に在ったと責めること
・現世とそれ以外の世界の境目とは何かー

私は鬱と診断されて約7年が経ちますが、なかなか人生ハードモードだったため、「トラウマ」は沢山抱えているのだと思います。

でも、そこに向き合う気力がないため、主治医には伝えていません。

ところが、つい最近「時効」のため、強制的にあるトラウマの1つである事件に向き合わなければならなくなりました。

フラッシュバック、あの時のあいつの息遣い、形相、声。
そういうものが、現実の生活をしている最中に、脳の中に映像として、まるでサブリミナル効果のような一瞬、差し込まれるのです。何度も何度も…。

また、思えば私は1歳くらいの頃から母に虐待され、父は一昨年他界しましたが恐らく発達障害(自閉傾向)。母も、母との断片的なエピソードを私の主治医に伝えただけで「お母さんは重度の精神疾患を持っているのは間違いない」と言われる家庭で育ちました。

父の仕事上の転勤に付き合わされ、約3年に1度の引っ越し。幼稚園・小・中は、転校で2校ずつ通う羽目になりました。行く先行く先で「新しい私」のはずなのにいじめられ。

小1を皮切りに、引っ越しても引っ越しても登下校中に、何度も中年男性から性加害を受けました。

私は「離人感」というか、自分で自分の手を見つめて指を動かせば、確かに私の手が動いているのが目に移り、自分で動かしているのは分かるのだけれど、世界で私だけひとり違う次元で生きているような、透明な檻で囲まれているような感覚をずっともってきました。

果たして、これは私の「意識」の話なのか、やがて未来に科学が発展したら、本当に「そういった透明な檻」のような、「違うルールで生きている存在」が発見されるのか。そんなことを度々考えたことがあります。

その意味で、本書は私のこれまでの疑問を、あくまでフィクションではあるのに、「本当にそうなのではないか」と思わされる怖さがありました。

暑い季節。良質のホラーを読みたいと思ったら「角川ホラー文庫」おすすめです♪

お手にとってみてはいかがでしょうか。

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