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【vol.8】税理士・作家 田村麻美さん 「夢に向かって、戦略的かつがむしゃらに」

足立区で税理士として活躍する田村麻美さんのもとに、事務所HP「足立区の女性税理士 田村麻美.com」のブログのおもしろさに目を止めた編集者から書籍出版の話が舞い込んだのは2017年1月のこと。それから約2年の時を経て、デビュー作『ブスのマーケティング戦略』は刊行した。昨年11月には、同著の漫画版の連載がスタートするとともに文庫版が発売。現在、新作の執筆に取りかかっている田村さん、ひたむきに夢に向かう姿は人を惹きつける魅力にあふれ、豪快なようでいて繊細な素顔が垣間見えた。著書、作家業、税理士業について語っていただいた。(写真:全力疾走する田村さん)


── 2018年12月に出版されたデビュー作『ブスのマーケティング戦略』(文響社)は、税理士として「お金」をテーマにした本ではなく、「容姿」をテーマにご自身をブランディングし、マーケティング視点による異色の自伝ですね。

 税理士がお金の本を書くのは普通のことですし、すでにお金の本、税金の本は世に多く出回っているので、私が書いたところで既存の本との差別化はできないと感じました。それより、かねてより容姿に自信のない女性に勇気や希望を与える本を書きたいと考えていて、そこに「マーケティング」を絡めて書かせてほしいと担当編集さんに交渉し、形にできたのが『ブスのマーケティング戦略』という本です。仮に商業出版の依頼が来なくても、もともと死ぬまでに自費出版の自伝を出したいと思っていました(笑)。


──恋愛での実体験を明け透けに吐露しつつも明るく突き抜けた軽快感があって、さらにマーケティング論のマニュアル的視点が加わることで、すっと胸に落ちる感じがありました。

 無名な一個人のエッセイ本では普遍的なものにならないので、そこに説得力を持たせたいと考えました。ちょうど執筆の依頼をいただいたころから通いはじめた、早稲田のビジネススクールでのアカデミックなマーケティング論を織り込むことで、私だけが特別なわけではなく、戦略的にやれば誰でも結果が出せるという普遍性・説得力を持たせることを意識しました。

 包み隠さずに自分の人生を語る内容だけに、最初は顔を出さずにペンネームでいくことも考えましたが、誰が書いたかわからないものを手にとってもらうのは難しく説得力にも欠けると思い、ここは一か八か「顔を出そう」と腹を括りました。


──環境(市場)を変えることで、自分(商品)の需要が変わることを子供の頃から意識されてきましたが、そうした行動が実はマーケティングに即していることに気づいたのはいつでしょうか。

 税理士事務所を開業した29歳のころです。周りの税理士は、東京の千代田区や渋谷区、新宿区などでの開業が多いのですが、そもそも経験値の低い自分(という商品)がそんな一等地で売れるのかな…と。逆に税理士が一等地に比べれば少ない地域の方が売れる確率は高まるのではないかと思い、住まいのある足立区で開業することにしたのです。

 つまり「どこだったら自分が売れるか」という視点が幼少期から刷り込まれているんですよね。恋愛もビジネスも同じなんだと気づきました。これはマーケティングの「市場戦略」なので。


──当初読者ターゲットとしていた容姿に自信のない女性以外からの反響もあったのではないですか。

 はい、ありがたいことに、起業されている年輩の社長さんも共感してくださったり、サラリーマンの若い男性がビジネス視点で読んでくださることも多いようです。そこから企業研修の講師としてお声がけいただくこともありました。

 もちろん、私が本当に届けたかった自分の見た目に自信がなく、恋愛に一歩踏み出す勇気がない女性たちからも熱いお手紙をいただくことがあります。「結婚できました」「彼氏ができました」「今まで勇気がなくて合コンなど出会いの場に行けなかったけれど、やはり自分は恋愛がしたいので行動します!」など、少しは皆さんの背中を押すことができたのかなと。

 エッセイ要素が強い一方、一応マーケティング論を絡めていたため、発売当初は書店のPOPを「エッセイコーナー用」と「マーケティングコーナー用」の表裏両面を作成して、どちらを使うか(どの棚に置くか)のご判断は書店さんにお任せしました。最初の頃はマーケティングコーナーに置かれることも多く、男性の方が読者層としては厚かったんです。

 うっかりマーケティングを学ぼうと手にとってしまった方が私のしょうもない生き方に意外と共感してくれていて(笑)。自分を商品と見て売り込んで行くのは、一会社員としても大事な視点だよねと。
 現在はエッセイコーナーにおかれていることが多いようです。

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(写真)オンライン取材時の田村麻美さん。粋でカッコよく、かつキュートな印象

──昨年11月には文庫版(集英社)も発売になり、ネット上で漫画版(よみタイ)の連載もされています。また新作も動き出していらっしゃるとのこと。作家業は税理士のお仕事と比べていかがですか?

 『ブスのマーケティング戦略』は書籍化まで約2年かかり、新人なので途中で見捨てられないかな…(笑)という不安も正直ありました。今後、万が一税理士として働けなくなった時のためにもう一つの軸・執筆業も育てていきたい考えはありますが、いわゆる出版業界で売れたと言えるのは10万部〜20万部の世界。本を売るのは本当に大変なことですね。

 一方、税理士の主な契約形態は顧問です。月額課金制なのでいわゆるサブスクの先駆けなんですよね。他の資格業と比べると割と顧問業として成り立っている業界なので、収益予測が立てやすく安定している面はあると思います。ただ、税理士も二極化していて、メディアや執筆活動、セミナー活動を専門にやっていて、あまり顧問料を取らないようにしている方もいらっしゃいます。


──顧問業では複数のお客様を抱えられるので、二足のわらじは難しい面もあるのでしょうか。

 お客様によって関与の頻度が変わったりもしますので一概には言えませんが、例えば昨年からのコロナ禍は国の給付金が何種類もあって、とても忙しかったです。通常12月〜3月は繁忙期で家にもあまり帰れないほどですが、4月以降は緩やかになるところが今年はまだ忙しい時期が続いています。

 なかでも税理士としてやり甲斐を感じるのは、いろいろな業種の疑似体験ができることでしょうか。さまざまな業種のお客様がいらっしゃるので、同じコロナ禍でも業界によって売り上げが上がっているところも下がっているところもあって、俯瞰して小さい範囲ですけど、経済の流れを実態として見られるのはとても勉強になりますね。

 実は、『ブスのマーケティング戦略』にすごく共感したからと、税理士顧問のご依頼を数件いただいたこともありました。こういう内容なので税理士としては逆ブランディングだと思っていましたが…(笑)。これだけ明け透けに書いたので「この税理士は嘘をつかない」という印象も持っていただけたのかもしれません(笑)。まさかこの本がきっかけで税理士の顧問先が増えるとは思っていなかったです。

──著書からは、ムードメーカーであり誠実そうなお人柄がうかがえました。お客様にもそうした部分が響いたのかもしれませんね。

 意図していませんでしたが、ありがたいお話です。
 29歳で開業しましたが、平均年齢が高い税理士業界では子供みたいな年齢…。しかも女性の比率が15%程度の世界なので、舐められてはいけないとすごく尖っていた時期もありました。「先生」と呼ばれる業種でもあり、自分より遥かに先輩である社長さんに上からいってしまうこともあって、もちろん状況によってはそれが必要な時もありますが、判断を見誤っていた時もあったように思います。最初のうちは怒鳴られたり、解約になった時もありましたが、組織の形もいろいろ変えていきながら現在はパートナーと一緒に税理士法人化し、同時に自分も大人になったこともありそういうこともなくなりました。

 冒頭で「いつか自伝を出したかった」とお話ししましたが、幼少期の自分が一番読みたかった本を書きたかったことも『ブスのマーケティング戦略』を企画した理由の一つなんです。確かに私はとても戦略的に生きてきましたが、正直その戦略が正しいのかどうかもわからない状態で、ただただ闇雲に走ってきました。当時の自分に「それでも大丈夫だったよ」と伝えてあげたかった。

 そして、もし当時の私と同じような悩みを持っているお子さんがいたら、経済的に自立ができ、結婚ができて、可愛い子供を授かることもできて、幸せに暮らせている、私の一つの成功例のようなものを読むことで「こういう風に生きてもいいんだ!」と、救われてくれたらこんなにうれしいことはありません。そうした本を出版することは自分の中では一つのゴールでもありました。一つの夢を達成し、今はまた新たなゴールに向けて走りはじめています!

【PROFILE】
田村 麻美(たむら まみ) 1984年生まれ。埼玉県出身。立教大学経済学部卒業後、同大学院で経済学研究科博士課程前期課程修了。2015年に東京都足立区にTRYビジネスソリューションズ株式会社を設立し、“東京都足立区でいちばん気さくな税理士”として税理士業務やコンサルタントを行う。早稲田大学経営管理研究科(MBA)修了。小学生のときに「自分は見た目を武器にできる人ではない」ことに気づき、見た目以外の武器を身につける努力を行う。自身の体験をもとに「見た目に自信のない女性が幸せな結婚&ビジネスでの成功」を叶えるための戦略を論じた画期的なエッセイ『ブスのマーケティング戦略』がロングセラーとなっている。

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