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(短編)殺伐院高校の決斗

殺伐院高校の校庭に一陣の風が吹いた。

時は夕刻。橙色の光の下でふたりの男が睨み合っていた。

一方の青年の学ランの裾がたなびいた。

野性味がありながらも整った容姿とそれに不釣り合いな右頬に走る傷跡。
すらりとした長身ながら引き締まった体。只者ではないオーラに溢れていた。

もう一方の男は対照的に岩山のようにごつい肉体の上に大雑把に個々のパーツを貼り付けたような顔つきの巨漢。
殺伐院高校を支配する番長、大文字 剛雷(だいもんじ ごうらい)である。
背後に数人の手下を引き連れて不敵な笑みを浮かべている。

「グワハハハ!!!真土 来男(まど くるお)!!!数多の不良校に転校しては大暴れし、転校しては大暴れを繰り返してきたおぬしも今日で年貢の納め時よ!」

「ほう、番長様が直々にお目見えになるとはね……」

真土来男、彼は札付きの不良である。悪名高い不良校に転入し、その学校を支配する不良たちを大方ぶちのめした後に去り、また別の不良校に転入し、不良たちをぶちのめす。
そんな不可解な暴力行為を幾度も行ってきた。
その動機は誰もわからない。
その真の目的は彼のみぞ知る。
彼はこの殺伐院高校に転入して初日に果たし状をもらい、今の状況に至るのであった。
「真土よぉ……!お前はやりすぎたんよ……。日本各地の不良共がよぉ……お前を恨んでるんでよぉ……すぐにもぶち殺してやりたいと血気にはやっていたんでよぉ……」

「その口調やめてくれねぇか?」

「だからよぉ……わしはよぉ……一つすんごい作戦を思いついたんでよぉ……心してかかるんよ」

「ほう……なら見せてみろよお前の作戦てやつを」

「ならいくぞぉ!カモォーン!不良アベンジャーズ!!!」


大文字のその声とともにウォーーーという轟音がなった。男たちの掛け声だ。すると殺伐院の校舎からひとりまたひとりと不良たちが吐き出されてくる。明らかに校舎のキャパシティを遥かに超えた数の不良たちが次から次へと出てくる。真土の体感30分を超えても不良の数は尽きない。勢いよく校舎の玄関から不良たちが飛び出し、番長の背後に並んでいく。その間も地響きのような衝撃は止まずボロボロの校舎が何度もグラグラと揺れ、倒壊しそうになっている。真土が立ちながらも、うつらうつらと意識が飛びそうにいなった頃合いで、不良の排出が止まった。見れば不良たちが校庭を埋め尽くしていた。凄まじい人口密度で集まった不良たちを目にした真土は、かつて少年時代にNHK教育の番組で見た蜜蜂が集まって形成するボールを思い出した。


「え、なにこれ……」

「見んかいよぉ!こいつらはよぉ!お前に潰された高校の不良共でよぉ!わしが地道にコンタクトを取ってよぉ……今日この日に集まるように頼んだんでよぉ……」

「いやそれにしても多すぎだろ。校舎によく入りきったな……」

「名付けて不良アベンジャーズ!こいつらでよぉお前をぶちのめすのよぉ!」

さすがに自分のような実力者といえどこんな数の不良を相手にしたらただでは済まないだろう。
いや、もしかすると一敗地に塗れるかもしれない。


だが。だが、やるしかない。あの日の誓いを忘れるてなるものか。俺は勝たねばならない。勝つしかないのだ。
真土来男は拳を固めた。こいつらを迎え撃つ。一人でも多くぶちのめしてやるとの思いを込めて。


しかし、その決意は無用になった。

不良の群れの隅にいる男がバランスを崩して倒れたことによって。
その男の転倒は周囲の者たちを巻き込み、彼らも転ばせた。そして巻き添えで転んだ男たちもまた、その周辺の男たちを倒した。
そうした不運な転倒劇が連鎖的に起こっていくうちに、いつしかドミノ倒しのように不良の群れが次々と倒れていった。
「な、なにが起こっているんでよぉ……」
困惑する大文字とその直属の手下たち。
超過密状態の人々の塊は、かような群衆雪崩を引き起こしてしまう危険性がある。そのことを彼らは全く想定していなかった。

番長たちが困惑している間にも、転落による衝撃がドンドン膨れ上がっていく。
そして、転倒の連鎖はこの場のリーダーたちを無情にも巻き込んだ。

「ぐえー」

転倒した複数人の体重が累積的に体に作用し強い圧迫を受ける(wikipedia「将棋倒し」より抜粋)。それが校庭を埋め尽くすほどの人数の場合、その累積した衝撃はどうなるのか。
番長は常人ならその肉体が四散するほどの衝撃をその身に受けていた。

不良アベンジャーズは全滅し、大文字は斃れた。

「ええ……」

真土来男VS殺伐院高校番長大文字剛雷率いる不良アベンジャーズの勝負は、真土の不戦勝の結果に終わったのであった。



おわり




お題(ランダムお題ガチャより)
No.5054ドミノ倒し
No.4860不戦勝
No.2868大文字

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