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『線は、僕を描く』読書感想文

こんにちは。今日の週末noteは読書感想文です。先日読んだ作品が素晴らしかったので記録したくなりました。砥上裕將/著『線は、僕を描く』 ひょんなことから水墨画を始めることとなった青年の成長物語です。(内容に少し触れていますので、これから読む方はご注意ください。)


文章で伝えた水墨画という芸術

読後感は、その作品によって様々だと思う。
深く考える余韻があるもの、明らかになるストーリーや仕掛けに驚くものなど多岐にわたる。
最後のページを読み終えた後に感じるそれが、この作品の場合は“静かな竹林に差し込む光”だった。

私を含め多くの読者は、水墨画には明るくない。
そんな私達はこの一冊を通じて主人公青山霜介と共に確かな“体験”をする。するとどうだろう。もう自分のすぐ近くに水墨画という芸術がある。
読む前はぼんやりとしてその世界がわからなかったはずなのに今は実際の作品が見てみたい。筆致をこの目で確かめたい。生命を感じたい。

普通なら画で伝える水墨画の美しい世界を、作者は瑞々しい文章で描いた。文章から画が見える。そこに登場人物の静かな心の動きを丁寧に表現し、単に墨で絵を描くだけではない世界をあえての読みやすさで真っ直ぐに伝えている。計算されたひき算で構成された今作は1作目とは思えない程。これこそが驚きでありこの作品の素晴らしさだと思う。

作者による水墨画動画公式ページはこちら

湖山先生の名言は宝物

心に傷を抱えた青山霜介は師匠篠田湖山と出会う。
必然ともいえるその出会いから生まれた数々の教えや名言は青山霜介と読み手の心を揺さぶる。実直な主人公と共に考え共に頷く。
湖山先生と同じく水墨画家の翠山先生もまた じわりと紙に広がりゆく墨のように心にしみる言葉を届ける。まず何を自然にするのか、現象はどこにあるのか、拙さが巧みさに劣るのかについて読みながらメモを取った。宝物になるコトバを忘れないために。

私事で恐縮だが、幼稚園に通う幼き頃から今に至るまで細々と書道を続けている。いつも大体手本通りには書けてもなかなか味わいが出ない。まずもって起筆から勇気のなさが見て取れる。文字には心や人柄が出るとつくづく身に沁みて思う。まさに作品は写し鏡のようだ。


書もまた書き直しが出来ない一発勝負の世界。そんな文字を表す世界から見た水墨画は植物等が生き生きと描かれ表現の幅が大きく、とても魅力的に映った。何故今まで手本に同封されていた水墨部の案内を読まずにいたのだろう。書きたい。描きたい。そうだ今日は墨汁ではなく墨をすろう。きっと今なら美しいものを感じられるから。


(このnoteを読んだことがある貴方なら読了後の私の行動が予測できるはず。…はいその通り!)

そして私は図書館へ向かった


早速図書館で水墨画の本を借りた。なんと素晴らしい四君子の本まであった。ありがとう○○市。




『四君子を描く』芸艸堂編集部/編
 
蘭に始まり蘭に終わると知り手に取った。その蘭から竹、菊、梅を鑑賞。書でいう臨書、水墨画の臨模に最適。とても見やすい臨本でもあり四君子とはを知ることができました。美しい一冊。





『図説水墨画用具の奥の手』藤原六間堂/著
 
書と道具は何が違うのかがよくわかりました。
筆墨硯から、紙や筆洗い皿まで丁寧に解説。
巻末の制作プロセスで流れがわかりました。





『今日から始める水墨画』大月紅石/著
 
なるほど。お教室にもし通ったらこんなふうに習うのかがわかりました。線・面・点の表現にテクニック。四季の課題や風景の作品は伸びやかで自由な美しさがありました。



***


芸術✕小説というこの作品の試み、水墨画というのが新鮮でした。私がそうであったように読めば水墨画を見る目は間違いなく変わると思います。さらに『線は、僕を描く』は ただ芸術を文章で説明するのではなく、画が見える心を動かす小説でした。


あなたの世界が今日も広がりますように。


お読みいただきありがとうございました。





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