#10 毒親の進化③
前回からの続きです。
怒鳴られる---
そう覚悟して車に近づいた私だったが、あの人は意外にも満面の笑顔で車から降りてきた。
「あがっていい?」
断る選択肢はないのに敢えて疑問形で言う。私が受け入れた形を取りたかったのだろう。
あの人は私の部屋に数日いた。
私は普段通り大学やバイトに行っていた間、あの人は部屋の中を漁っていた。大学の友人の情報が欲しかったのだろう。
私も悪魔がいつか来るだろうと、出来る限り手掛かりは残さないようにしてはいたものの、情報は盗まれていた。
知らぬ間に私の友人の連絡先を調べ、連絡をとり、内緒で会いに行きお小遣いを渡す---
男友達、女友達、関係なく連絡していたようだ。口止めもするようだが、私の友達はみんな教えてくれた。
男友達は、お前の母さんいいな!などすっかり騙されていたようだが、女友達からは心配された。お金渡して口止めとか理解できない。
自分の油断を悔やんだ。
家を出だけで悪魔から逃れられるわけじゃなかったんだ。浅はかだった。
ある日、バイト先のイタリアンレストランに行くとあの人がいた。
店長に菓子折りを渡して、連絡先を伝えたそうだ。
さすがにお金は渡さなかったようだが。どこまで私の行動範囲に干渉すれば気が済むのか。目的は何なのか。
そしてその後はお決まりのように、店長のダメだしをする。
何がしたいのかさっぱり分からなかった。
悪魔からの脅迫
私の交友関係を支配した(つもりの)あの人は、毎日のように電話をかけてきて、xxちゃんはどうしてる、xxくんは元気?など、聞いてくる。
何で知ってるの?と聞いても、はぐらかされて会話にならない。
自分の方が友達を知っている、仲が良い、という図式にしたいようなのだが、私も理解できないので大して相手にしないでいた。
電話に出るのも億劫になる。出ないことも多くなった。
当時は携帯電話は無いので、固定電話のみ。留守番電話つきの電話機だ。電話に出ないと留守番電話のメッセージが流れて、相手が伝言を残すために話しだすと電話機から声が聞こえる、というものだ。
あの人は留守番電話にメッセージを残す。
はじめは普通の口調だ。
何度も留守番電話状態が続くと、あの人は悪魔になっていく。次第に、狂ってしまったのかというほど支離滅裂のメッセージになる。
そして、メッセージは脅迫に変わる---
部屋で居留守をしていた私は、電話機を見つめながら途方に暮れた。
そんな日が続いた。
こんなのが一生続くのだろうか。
就職、結婚、これから出会う人達は悪魔に何をされるのだろうか。
一人で生きて行く力をつけようと頑張ってきたけど、家を出ただけではダメだった。まだお金を出してもらっているから立場が弱いのは当然の話だった。
早く社会人にならねば。自立せねば。
でも自立したら私は幸せになれるのだろうか。悪魔は追ってこないという保証はない。悲しみ、不安、絶望。
一度電話に出ると普通に戻る、また電話に出ないと家にやってきては暴言からの脅迫になる、という繰り返しの日々。
お金を出してもらっている以上、耐えるしかなかった。就職のため、大学卒業は私の中では必須だった。
自立すれば何かが変わるかもしれないという一縷の望みにかけて、卒業まで乗り切り、私は社会人になった。
しかし悪魔は追ってきた---
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