桜木 利春

詩を書いています。 佐倉あたりに出没します。 基本フォローはお返しします。

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最近の記事

雪のとける朝

雨のしとりは雪をとかし ぱしゃりぱしゃりと音立てて 子どもたちの登校に 透け始めた朝の夢。 昼の日差しが覗くころ 雪の形はなくなって ぜんぶ透けて水になる みんなは忘れて昼寝した。

    • 雪の日の夜

      雪の日は、しん、としている。 ゆきかう人もいなくなって 街灯に雪が、りん、とゆれる。 こころなしかさみしくなって 一人ぼっちの街路樹に 今夜はさ、冷えるからさ 一緒に帰れたらいいのにね 遠くでベルが、ちん、と鳴った。

      • 無題

        歩きつづけるうちに シャツの色は褪せてゆき 夕映えの色が写り込む 流れ落ちてしまった色は 排水口に溶け込んで やがて海を染め上げた。 海の色はシャツの色 シャンブレーみたいな 青と白のまだら模様 私の滲んだ汗は海 潮風みたいなべたつきの やるせない懐かしさ 伸びすぎた影と夜の 境界線の不明瞭さ。

        • ふるい写真の夕べ

          ノウゼンカズラのオレンジ色 夏のベンチに忘れられた本 夕立に濡れて読めなくなった。 川沿いの道をゆけば オオヨシキリの挨拶が 聞こえてくる、気がしている。 いつ貸した本でしょうか 今では縁遠く どこにいらっしゃるのでしょうか。 濡れたこの道もずいぶんと 変わってしまったようですが 聞こえてくる、気がしている。 ノウゼンカズラのオレンジ色 私のむかしの写真の色。

        雪のとける朝

          クレバス、あるいは五つのソネット

          宿酔いの朝には 喉の渇きと ふらつく体 それから レモンのひと齧り。 ふたたび まどろみかけるうちに 世界がゆがんで 反転したり 傾いたり 知っていることを 忘れてしまったり 知らないことを 知った気になったり * 〈半ば混濁しかけて〉 冷たい息吹のような風 君の唇を乾かした 冬の、砂漠みたいな風。 まぶたの中に 投げ込まれた砂塵に 目の前が霞んでしまって おぼつかない足取りで 帰路につく夜明け前 凍ったアスファルト沿いの 霜げた草を踏んづけた。 アイスピックの音がこだま

          クレバス、あるいは五つのソネット

          無題

          灯火の 中心に 座する 束の間 安泰の 外縁に 蠢いた 蛆虫よ 我が身 朽ちて 散桜の うちに 見たり 消えた 蝋燭の 残り滓

          時計ブランコのシャンソン

          垂らした秒針の刻む 影のうねりと二重の意味 はちみつの儀礼の祭壇に 老師の杖のなびきがある 九月の落葉は川辺にあり 伝う山脈は遺児 空と土がはるかに 交わるところが海である 天体観測の様相は 緊迫した定めを断じ 御業の書の恩恵は 等しく我らを分解する 数字は分解されうる もともと土でできているから 飲み薬は太古を求める 破片、もまたしかり。 筆の並びと歯並びと 木々の催し物の幕間に 猿が柿の実を投げたり それを人が拾って食べたりだとか 思えば皆、真 すべては 段ボール箱のサー

          時計ブランコのシャンソン

          燃やしているのか、自らの情熱のかわりに……

          燃やしているのか 自らの情熱のかわりに。 まだあどけなさの残る空を 焚き付けているのか。 知らなければ良かった世迷い言のために 惑わされているね 枯れかけたえのころぐさの 伸びやかなのぎの硬く脆くなる頃に似て 意志が柔軟さを失い 自らが呼び寄せた秋のために ひどく憔悴して瞳孔は閉じ 見ることも聞くことも 感じ入ることもやめ いつか君の言っていた 魂の燃える音さえ どこかに忘れてきたのだね 置き去りにされた場所では 風も吹かないから いつしか君の魂は 消えた蝋燭みたいになって

          燃やしているのか、自らの情熱のかわりに……

          桜木とお散歩@関内

          昨日、ほぼ丸一日睡眠するという愚行を犯し、「明日こそはちゃんと起きるぞ」と、決意した桜木。 さて2連休最後のお休みの日曜日、桜木は無事起きることができるのか?? A.M 8:30 ♪ぺーぺぺーぺぺーぺぺーぺ(目覚ましのビューグルの音) あ、あと少し(*_*)ムニャムニャ A.M 10:00 ♪ぺーぺぺーぺぺーぺぺーぺ(目覚ましのビューグルの音) あ、あと少し(*_*)ムニャムニャ ?:?? 桜木、スマホを開く 1:30。……え、1:30?!(╬⁽⁽ ⁰ ⁾⁾ Д ⁽⁽

          桜木とお散歩@関内

          愛するものたちの歌

          ふかしぎな夜 神妙な 心持ちで 窓ガラスの揺れる不安と 明日への 浅はかな期待と 黄色いカランダッシュの鉛筆 ジェームス・ロックの帽子 タグ・ホイヤーの時計 お気に入りの詩集 友達は いるだろうか わからない 一方通行で 構わない。 水晶の一塊 僕にとって 図らずも 水晶の一撃。 それから 不確かな関係性を求めて だって僕は 自分がわからない 情熱はもう 燃え尽きてガス化して 目に見えない わずかなガスの揺らめきが わずかに鼻に 感じ取れる。 ふかしぎな夜 神妙な 心持ち

          愛するものたちの歌

          河川へのいざない

          (横並びに葦たちは手招きをし、対岸の僕に向けて呼びかけている。僕は横目に彼らを見下しながら、川沿いの小路を歩いている。) こちらへおいで こちらへ この世の裏には喜びがいっぱい 覗いてごらん、波紋の水面を 笑ってごらん、水面に向けて 歪んでいるのは 君の、不安定さ加減 手を触れれば崩れてしまう 脆い、君の自尊心 こちらへおいで こちらへ 水に手を、浸してごらん それからこの陰に 入っておいで 風はあの世をまたいでくると 聞きはしなかった? こちらへおいで こちらへ この世の

          河川へのいざない

          昼下り(夏の日の)

          なぜ? と、僕は問います なぜ、夕方にはしぼんでしまうのですか? 木槿は答えて言う 夕方にしぼんでいるのでない 昼に開いているのです なぜなら昼の太陽が 虫たちの目を開かせてやるから だからここだよ、私はここだよ ここにいるのよ、ほらあなたの目の前に その生け垣の向こう側 ほほえみの素敵なあの御婦人が 大好きだった私が咲いているのよ 夕方になんか来ちゃだめよ 私の顔が見えないでしょう? あなたの顔も見えないでしょう? 僕はこの生け垣の向こう側 静かな十字路を曲がったところ 小

          昼下り(夏の日の)

          扉の前に今しがた。……

          扉の 前に 今しがた 日は差し込み 夏の ベランダに 今しがた 陽炎立ち 喜々として男 釣り竿を持って川辺に 一人座り 釣り糸を投げ入れ 日暮れまで 一人座り 猫柳が 彼の背を撫で それは俺の 浅はかな イメージ。 騒がしい野外の 夏の日 布団の中に 一人眠り 今しがた。……

          扉の前に今しがた。……

          四行詩(2022年6月11日)

          私は死に向かって歩いているのだけれど なぜか昨日の方が死に近い いくつもの死を後ろに残してきたとして 私が向かっているのは本当に死か

          四行詩(2022年6月11日)

          夏が来ると、言った。

          湿り気を帯びた小道の 先の先へと 春の彩の褪せた小道の 先へ先へと 轍はまだ新しく 泥の光沢は残っている 人を小馬鹿にしたような 小鳥たちが喚き立てる 君は言った、君たちは言った 夏が来ると 夏が来ると、言った。 芽吹きの季節は時代遅れ、と。 一つきりの小道の沿線は やや乾き、やや湿り 私は無心に歩いている。 足跡はまだ新しく 砂利混じりに 泥の光沢は残っている。 人を小馬鹿にしたような 小鳥たちが悩んでいる 君は言った、君たちは言った 夏が来ると 夏が来ると、言った。

          夏が来ると、言った。

          荒地 Ⅰ 死者の埋葬(1) by T. S. Eliot

          四月は極めて残酷な月、死んだ大地から ライラックの花を芽吹かせ、記憶と欲望とを ごちゃまぜにし、鈍った根を 春の雨で目覚めさせる。 冬が僕たちを暖めてくれた、忘却の雪で 星を覆い、乾いた球根に 小さな命を宿らせながら。 夏が僕たちを驚かせた、シュタルンベルク湖を越えてやってきた 夕立ちを引き連れて、僕たち柱廊に立ち止まって それから日差しの中、ホーフガルテンに行って コーヒーを飲みながら一時間ほど語り合った。 私、ロシア人じゃないわ、リトアニア出身の、正

          荒地 Ⅰ 死者の埋葬(1) by T. S. Eliot