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#エッセイ|いつ妊娠すれば怒られないの?


社会人1年目の頃。

先輩である女性社員が妊娠した。

OJTとしてお世話になってたこともあり、
私はとても嬉しかった。

妊娠のことを世間話として上司に話を振ると、
「腸(はらわた)が煮えくり返る」と彼は言った。

「あいつ、結婚報告の時からすぐ子どもが欲しいなんて言いやがって。こっちの身にもなれよ。」

怒り狂う上司を目にし、
マネジメントの苦労をひしひしと感じた。

でも、妊娠を希望する女性は、
いつ妊娠すれば怒られないのだろう?


少し前、会社の組織編制でチームが変わった。
新しいプロジェクトを担うチームで、
上司はかなり意気込んでいた。

すでに入籍をしており、30歳を迎える私は、
高齢出産のリスクを考えると、
そろそろ妊活を始めたかった。

だがいま妊娠すると、仕事に穴をあけてしまう。
では、いつになったらいいのか。

その上司とは仲が良かったので、
思い切って相談してみた。

「子どもが欲しいと考えています。でも仕事のことを考えると今すぐは難しいのは理解していて、すぐにとは思っていません。いつ頃であれば影響が少なく済みそうでしょうか…

上司は少し考えて、
「いつでもいいよ、と言いたいところだけど、できれば半年は待ってほしいな。その頃にはプロジェクトも落ち着いていると思うから。」と答えた。

世の中にはいろんな会社、いろんな上司がいる。

私のような相談をした人の話を聞くと、
明らかに怪訝な顔をされたり、
迷惑だとはっきり口にした上司もいた。

私は「半年待って」と言われたが、
上司はかなり優しい方だと思った。

35歳以上は高齢出産になることを考えると、
半年」という期間は決して短くない。

それでもゴールが分かると、心が軽くなった。


上司への相談から半年が経った。

そろそろと思っていたが、
思ってもみないことが起きていた。

端的に言えば、
あの相談をした上司からパワハラを受けたのだ。

きっと、新プロジェクトを任され、
多方面からプレッシャーがかかっていたのだろう。

私は優しく相談にのってくれた上司の役に立ちたくて、
率先して仕事をもらうなど、フォローをしていたつもりだった。

しかし、状況はどんどん悪くなっていった

  • 指示された仕事をしていると「なんでそんなことをしているんだ、そんな指示出す訳ないだろ」と言われる

  • 「こんな資料、愚の骨頂だ」「頭使ってないの?」等と毎日言われる

  • 金曜の定時後に大量の仕事を振り、「月曜の朝までにやって」と言われる


「ハラスメント」に関しては、その人の受け取り方によるところが大きい。
また当事者間の関係性にもよるだろう。
一概にどちらが被害者・加害者ということはできない。

ただ私の心身は、この状況を上手く処理できなかった。

不眠、動悸、食欲不振が続き、
ある日過呼吸を起こした。

これまで過呼吸になった経験がなく
パニックになってしまい、
それがトラウマになったのか、
その後も過呼吸が頻発するようになった。

日常生活もままならず、
「適応障害」との診断を受け、数ヵ月の休職となった。

自分は、人よりもメンタルが強い方だと思っていた。
だから余計にメンタル不調になった自分を情けなく感じた。

本題から逸れるので、詳細は割愛するが、
メンタル不調による休職は、
目に見えないからこそ誰にも理解されず、
目に見えない自分の心との葛藤が果てしなくつづく。
本当に本当に辛いものだった。


数か月後。
何とか、本当に何とか、やっと。
症状が回復し、医師から復職の許可が出た。
復帰後は、休職の背景から異動になった。

「やっと働ける。人の役に立てる。」
あの辛い日々を思うと、本当に嬉しかった。

それと同時に心身が健康になった影響で、
妊活への意欲も戻った。

だが、妊活に関しては素直に喜べない。

「今の私は妊娠していいのか」

あの上司に関していえば、
言われた半年はちゃんと待った。

だが異動先の部署からすれば、
私の妊娠希望なんて初耳で、
正直なところ迷惑に感じるだろう。


では、いつなら妊娠していいのだろう?

「復帰後、数ヵ月経ったら?」
なんて思ったが、数ヵ月は具体的に何ヵ月なのか?

「仕事が落ち着いたら?」
と思ったが、どんな状況なら落ち着いたと言えるのだろう。
それに復帰直後も迷惑をかけそうだが、
仕事に慣れてくれば、プロジェクトの担当になる。
担当になってから妊娠が分かると、
それもまた迷惑をかけてしまいそうだ。

そもそも、妊娠時期のコントロールなんて不可能なのだ。
妊活をした人ならわかると思うが、
妊娠というのは、ほんとうに奇跡に近い。

私も妊活を始めてから知ったが、
排卵日を狙ってタイミングをとっても、
健全な男女であったとしても、
妊娠確率は20%ほどらしい。

仮に今なら大丈夫と思える日が来たとしても、
その時に妊娠できるとは限らないのだ。

今なら大丈夫と思えて妊活をスタートしても、
すぐには授かれず、結局は数か月後に妊娠したとする。
その時は果たして「妊娠しても大丈夫」な時なのだろうか。


未来のことは誰にも分からないように、
いつ妊娠すればいいかなんて、
誰にも分からないし、誰も決められないのではないか。


妊活女性が悩む一方で、
マネジメント側からしても、
「部下の妊娠」は非常にセンシティブな問題だ。

リソース調整という観点でいえば、手間が発生するのは間違いない。
これを「単なる仕事」と捉えるか、「面倒」と捉えるか。
上司によって差が出るところだが、喜んで対応する人は多くないだろう。

かといって、予防策を打つこともできない。
妊娠を希望する社員がいつ妊娠してもいいように、
負荷の少ない仕事を割り当てる。
これは「女性社員のキャリア形成を阻害している」としてパワハラ、マタハラと言われてしまう。

そもそも「妊娠を希望する社員」かどうか、
本人に確認することもできない。
「子どもは欲しい?」と聞くと、ハラスメントと言われてしまう世の中だ。

マネジメントも八方塞がりなのだ。


” 新しい生命が、この世に誕生する。”

本来は喜ばしい出来事なのに、
誰も両手を挙げて喜べない。

「世知辛い」と言ってしまえばそれまでだが、
直面している女性たちは、
どちらを選んでもいばらの道を、
苦しみながら選択し、進まなくてはいけない。

妊活を始めて、この国で少子化が進む実態をひしひしと感じた。

" 年を取るごとに妊娠確率は下がる。
 年齢を考えると猶予は少ない。

 でも仕事で迷惑はかけられない
 妊娠すれば上司は冷たい目で見るのだろう。

 かといって年齢のせいで妊娠しなかった時、
 会社は責任を取ってくれない。
"


夫とも何度も話し合い、結論を出した。

" 妊活を再開する "

異動先の上司のことを考えると、本当に申し訳ない気持ちになった。
休職明けの私を受け入れてくれた恩を仇で返すことになってしまう。

いっそ、子どもを作らない方が平和に働けるんじゃないか。
そんなことも考えた。

だがそれは「会社の言う通りにしてくれる良い人」でいたいという想いと、
将来もしも妊娠できなかった時、
会社のせいにすれば、自分を責めなくて済む。
その方が楽になれる、という想いからだと気づいた。

そんなのはただの逃げだ。

私は、自分の人生に対して責任がある。

子どもが欲しいという気持ちを殺したまま生きて、
果たして幸せになれるのか。
そんなふうに生きる人生って何なんだ。

いろんな感情と対峙していく中で、

  • 仕事の代わりはいるが、妊娠は誰も代わってくれない

  • 妊娠の時期はコントロールできない

  • 妊娠していい時期なんて、誰にも分らないし誰も決められない

という点から、最終的に妊活を再開することにした。


結論を出した今でも、
本当にこれでよかったのかと何度も悩んでいる。

結論を出したからと言って、スッキリとはしないものだ。

だが、私は前に進まなければいけない。
自分の人生に責任を持たなければいけないから。

妊娠するかどうかは神のみぞ知るところだが、
もしありがたいことに妊娠できたとしたら、

妊娠するまでの間も、妊娠してからも、
勤務可能な期間は精一杯働くつもりだ。

私は仕事が好きだし、誰かの役に立ちたい。

だから産休・育休が終わった時に、
「待ってたよ!」と笑顔で言ってもらえるように成果を出したい。


【最後に…】
私は妊活を再開しましたが、
これはあくまで私個人の選択です。

この選択が私にとって、
吉と出るか凶と出るかは分かりません。

また同じ選択をしても、
人によって、状況によって、
最終的に出る結果は変わると思います。

ただ、今回の経験によって、
私のように仕事と妊活で悩んでいる方が、
本当に多くいらっしゃることを知りました。

私自身この悩みにぶつかり、
「この世はなんて生きにくいんだ」と、
心を握りつぶされるような苦しさを感じました。

世の中や上司を変えることはできないけれど、
同じように悩んでいる人がいると知ってもらうことで、
何か参考になったり、ほんの少しでも気持ちが軽くなればと思っています。

" 妊娠を望むすべての女性が、両手を上げて喜べる、そんな妊娠ができますように。"

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