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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第四話 いくらセレブでも、お金で買えないものがある


いくらセレブでも、お金で買えないものがある

今朝、ショッキングな話を聞いた。ついに秀くんの側室さんに、お子ができちゃった。その知らせを聞いた時、ズドン!と弾丸で胸を貫かれたように、わたしの心に穴が開いた。覚悟はしていたけど、どっと落ち込んだ。ペタンと畳に座り込み、しょぼくれているわたしに刑部卿局が言った。
「姫様、高台院様にお会いしてこられたら、いかがでしょうか?」

わたしがうなづくと、刑部卿局はただちに侍女達を呼び、新しい着物に着換えさせ髪をとかせ、車の手配をし、すぐにわたしを寧々ママのところに運ばせた。
わたしは寧々ママに向き合って座った。そして秀くんの側室にお子ができたことを話したの。寧々ママはいつものように静かに、わたしの話を聞いてくれた。わたしが話し終えると、きっぱり言い切った。

「その側室と正室であるあなたとは、立場が違います。
あなたは堂々としていればいいのです。」

それは、今のわたしが一番言ってほしかった言葉だった。
だからわたしはうれしくなって、ニッコリ笑顔になって元気になった。

気持ちの中ではわかって割り切っていても、いざそれを現実化されると落ち込んだり悩むのが人間よね。
しかもわたしはこの時、まだ十一歳。
寧々ママの親友のまつ様は、初めてのお子を満十一歳十一ヶ月で出産したそう。
だからわたしも無理ではないと思うけど、神様はわたしに秀くんとのお子を与えてくれなかった。
いくらセレブでも、お金で買えないものがある。それが子供だった。

寧々ママも生涯、子供ができなかった。
それでもずっとこうやって、秀くんパパの冥福を祈っているもの!
愛があれば大丈夫よね。きっと。

側室さんの産んだお子は、男の子だった。
赤ちゃんは、初伯母ちゃまのところに預けられたみたい。
秀くんがわたしに、直接話しにきたの。

「千、ごめん。側室に子ができてしまった。
男の子だったけど、養子に出すことにしたから。」

「えっ?!だって、豊臣の跡継ぎじゃないの?お義母様は反対しなかったの?」

「それがなぜか母は、反対しなかったんだ。
自ら初伯母様に連絡を取り、子を預けるようにお願いしたみたいだ。
いったん預かってもらい、そこから養子に出すそうだ」

「・・・・・・秀くんは、それでいいの?自分の初めてのお子、しかも男の子だよ。その子と離れ離れになってもいいの?つらくないの?」

秀くんはうつむいて、唇を噛んでいた。
そして顔を上げ、わたしを見てキッパリ言った。

「わたしは、その子を抱かなかった。
 抱いたら可愛くて愛おしくて、離せなくなるから。子は可愛いし、大切だと思う。
でもわたしにとって一番大切なのは、千なんだ。
できたら千との子が欲しい。
それが豊臣と徳川の架け橋になるのではないか、と思うんだ。
 だからこの子は、嫡男にさせられない。
手放して養子にする」

「秀くん・・・」
わたしはうれしくて胸がジーンとなり、秀くんに抱きついた。
秀くんはわたしをやさしく抱きしめてくれた。
秀くんの言葉にウソ偽りはない。
それは、わかる。
でもその瞳が、どこか遠くを見ていることを、実は知っていた。
秀くんは一体どこを見ているんだろう。
たった四歳しか違わないけど、秀くんの中身はもっともっと年を重ねた魂みたい。
生まれた時から、ううん、淀ママのお腹に入る前から、いろんなことを覚悟してこの世にやってきた人みたい、とわたしは思った。

こんなことを刑部卿局に話すと
「なんですか、それ?今はやりのスピリチャル何とかですか?」
と怪訝そうな顔をされる。
ママがそういうスピリチャル的なところがあるせいか、わたしにもそちらの能力が少しあるみたい。わたしも、もしかしたら宇宙人?!
どこかちがう星からやってきたりして・・・・・・ウフフ。
秀くんの側室さんは翌年、今度は女の子を産んだ。
その子も養女に出されたの。
でももう秀くんは、悲しい顔をしていない。
わたしは同じ女性として不思議だった。自分が産んだ赤ちゃんをどんどん引き離されて、側室さんは平気なんだろうか、と。あるいは側室さんはそんなにセレブじゃないのかもしれない、とも思った。
もし側室さん達の親に権力や財力があれば、そんなこと許さないわよね、きっと。
淀ママは親が財力や権力を持つ側室さんを、秀くんに与えない気がした。
それは一見、わたしを立ててくれているように見える。
だけどそれは、わたし、というよりも徳川のおじいちゃまを立てている気がした。
おじいちゃまに突っ込まるれる隙を与えないよう、淀ママは警戒しているのかもしれない。

わたしがそう勘繰るくらい、豊臣に嫁いでからどんどん豊臣と徳川の関係は緊張感を増していった。
それは奥に引っ込んでいるわたしにも、肌身で感じられるくらいだった。
寝起きしている場所は、徳川から一緒に来た侍女や家来たちがほとんどだから、露骨にそれを感じることはない。
でも表に出た時、ずっと大阪城を守っている豊臣の家来たちが、どことなく冷たく警戒した目つきで、わたし達を見ているのがわかる。
そんな目つきで見られると、お尻がこそばいようなムズムズするような居心地の悪い感じがした。

結局居心地が悪いから、秀くんから離れた自分の部屋で過ごすことの多いわたしは、この頃よくおばあちゃまのことを考えた。
おばあちゃまのお市さんの嫁ぎ先の浅井家は、実家の織田家と同盟が破綻した。
実家が敵になった浅井家にいたおばあちゃまも、こんなこそばゆい気持ちだったかもしれない、と思うと、妙にシンパシーを感じた。
そんな状況でも初伯母様やママを産んだ、会ったこともないおばあちゃま、お市さんはすごい人だ、と思うわ。本当に。
おじいちゃまを完全に惚れさせていたそうで、実際お二人はすごく仲がよかった、と淀ママが言っていた。

他のご夫婦を知らないから何とも言えないけど、わたしと秀くんも仲がいいとは思うのね。
だけど、う~ん、お市さんたちみたいな仲の良さではない気がするの。
お子もできないし、どこか浮世離れしている感じ。
例えるならわたし達は、大阪城と言う鳥かごの中でつがいで飼われている鳥のカップル。それしか思いつかない。

そうやって、また月日がうだうだ流れていった。
やがて十八歳になった秀くんは、ついにわたしのおじいちゃまに会うために京都に行くことになった。
今回も淀ママは大反対だったけど、何としても行く!と秀くんは宣言した。
この時、わたしは十四歳。

そしてやっと、自分にできることを見つけたの。


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