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リーディング小説「お市さんforever」第二十二話 私の言うことを聞かなきゃ、お仕置きよ!

私の言うことを聞かなきゃ、お仕置きよ!

「おのれ~~!もう許さん!!」その知らせを聞いた勝家は、怒りのあまり頭からモクモク煙が出ていた。

「なんじゃあ!あのくそ猿!!
信長様の葬儀はあれで、終わったんじゃ~~!
わしらの方の信長様の戒名が、本物じゃわい!
それをコケにするような真似、しくさりおって!!
 何を今さら、葬儀をするんじゃい!!」

私は勝家がくしゃくしゃにした文を手に取って、広げた。その手紙に秀吉が兄上の葬儀をする、と書かれていた。勝家にしたら、先日終わった「百日忌法会」こそが兄上の葬儀だった。が、秀吉にとって「百日忌法会」はオードブルで、今回開催する葬儀がメインだった。

えっ?なぜ私がそれを知っているのか?ですって?

メインイベントに対し、秀吉から私に
「できましたら、お市様にはぜひぜひご参加してほしいです」
という嘆願の手紙がきたからよ。
もちろん、行けるわけないからお断りしたけれど・・・・・・秀吉にしたらそれもちゃんと計画済みよね。
もちろん彼は、自分が大徳寺でいただいた兄上の戒名を使うわ。
これが、また勝家の怒りに火に油を注いだ。

「猿のくせに、ええかげんにせえよ!!」と畳をドンドン足で踏みつける勝家を横目に私は「まぁ、困ったわね」と言いながら、お菓子をつまんだ。勝家は秀吉の真の目的に気づいているのかしら?あのね、派手に葬儀をし自分をアピールし天下に見せつけるのが猿の目的。つまり、猿のお披露目ショー。それが秀吉の狙いだと勝家は分かっているのかしら?お菓子の甘みが口の中でねっとりし息苦しくなった私は、お茶に手を伸ばした。

やがて秀吉主催の兄上の葬儀が、華々しく行われた。兄上の棺は金紗金襴で包まれ、金と宝石をちりばめた大層豪華なものだったらしい。
もっともそのお棺に入っていたのは、兄上を模した木像だというから、笑っちゃうんだけど。だけどその趣味の悪いゴージャスさは、みなの度肝を抜くのに十分だった。

葬儀の列は三千人、警護は三万人とも言われた大パレード。
お経をあげる僧侶は数えられないほど、あまたいたそう。
壮麗で華やかなパレードに、京の人々はみなこぞって家を空け見に行った、とも聞いた。その場に秀吉は堂々と、兄上の位牌と遺品の太刀を持って現れた。この兄上の遺品の太刀も、どうやって猿が手を回し自分のものにしたかもわからない。

今までは主筋の織田家に遠慮をし、織田家の誰かを立てるフリをし勝家の出方も見ていた秀吉。
けれどこの兄上の葬儀で、彼は一気にその仮面を脱いだ。
華やかな自己アピールのパレードで、ググッと民衆の心をつかんだ。
誰もが
「ああ、信長様の次は羽柴秀吉様が意志を継いで、天下を治めるのか」
と思わせ、威光を知らしめた。その場に我が織田家の者はいたけど、ひっそり目立たない場所に配置されていた。もし私が参列していたら、そんなことは出来なかったはず。秀吉は私にお伺いを立て、私が参列できないことを承知の上のそろばんづくだった。
お金を山のように積み上げ、贅をこらした信長の葬儀。その名目に隠れた、自分を継承者として世間に認めさせるショータイム。奴はすべてうまくやった。

その夜、二人になった時に勝家が私の前で泣きわめくのなんの・・・・・・
「お市様~~~!
わしは、またしても猿めにやられてしまいました!
ああ、信長様になんと申し開きをするば良いのでしょうか!!」
勝家が鼻水と涙でグジュグジュした顔で訴える。これが若い美青年ならまだ絵になるものの、60歳のおっさんがするとただただ、キタナイ。私は泣いたふりをし、しかめた顔を見られないよう袖で覆った。そしてため息をついて言った。

「だけどね、勝家、仕方ないわよ。
悲しいけど織田には、兄上のようにカリスマ性や野心を持ち、猿の上を行く人物はいないの。
兄上のように猿を使いこなせないのよ。
ほとんどの家臣は猿回しの猿に反対に回され、いつの間にか立場を逆転されているの」

勝家は腕で押さえていた顔をぱっと上げ「・・・うまいですなぁ~ その例え・・・・・・」と一瞬呆けた顔になったが、またすぐ
「おっと、そんなところに感心してる場合ではありませんでした!
やっぱりお市様しか、猿に対抗できる人物はおらなんだ。
どうか、わしを回して下さい!!
わしは猿の代わりに、お市様の手足となって何でも言うことを聞きます。
回りますぞ!!」

そう言いながら勝家は私を見上げ、目をキランキランさせていた。
どうなのかしら?これだからМっ気の強い男って・・・・・・私は腕を組んで天井を見上げた。さぁ、どうやって勝家を回そうかしら?
だけど、そんなに素直に回ってくれそうにないし、なにか褒美を与えないとね。どんな猿も褒美もなしに、芸はしてくれない。
そうだわ、勝家にも目的をハッキリさせた未来のゴールを持たせればいいわ。そう思った私は立ち上がり左手を腰に当て、右手は土下座している勝家を指さし、女王のように命じた。

「いいこと勝家、あなたと私は一心同体よ。
 私は影で下がっているわ。
影からあなたを回す。
表舞台でスポットライトを浴びるのは、あなたよ。
私の言うことを聞かなきゃ、お仕置きよ!
 いい、勝家
あなただけが猿に対抗できるのよ!
 猿に勝てるのよ!!
しっかり、私の言うことを聞いて、お回り!!」

私の命令を聞くと勝家の目はトロ~ンとし、彼はうっとり恍惚の表情を浮かべた。そして私の足元にひざまずき、今にも足でも舐めそうな勢いで
「ははぁっ~~~。
仰せの通りにいたします。」と言った。

勝家に言葉のムチを贈りゴールをハッキリさせた私、これでよかったのかしら?!
嬉々として部屋を出ていく勝家の後姿を見ながらも、ぐるぐる渦巻く不安は消えない。だけどその不安を押し切って勝家はこれでよし、とした。

あとは秀吉ね。私は紙と硯を取り出し机に向かった。たっぷり墨を滴らせ、彼に甘~い蜜を忍ばせた密書を書き始めた。

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しなやかに生きて幸せになるガイドブック

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