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【短歌】 O I - 9
体内に蠢く井戸に悟られぬやうにしたためておく五ヶ条
溢れ出す血を掬つては脇腹に戻す 仕事と見なされぬもの
龍角散よりコンクリートの壁が良し 喉を塞げるものの質量
穴のない針や詰まつた排気口 その両方が感じる痛み
パンパンに膨れ上がつた茹で卵みたく常套句は現れてくる
茹で卵だけ残されて 後は更地になりたるやうな
【短歌】まりんすのう
あたらしき建造物のなかに措く実験動物用のふくろの
「こんなもの研究室に措くんですか」 業者ふたりが知り得ることの
コンビニにつま先の向くときに ふ とためらひがちによぎる ふ くろの
風に舞ふびにいる あれはいつの日かライブハウスでみたマリンスノウ
地上にもふるのだらうかまりんすのう地下のステージには降るけれど
マリンスノウひとつぶずつを見しをれば其れはいくつもの泡のあつまり
ダンサー
【短歌】マッド・パフェ
2023-06-02 近所の家の取り壊しが始まった
窓といふ窓ととびらを外された家がありもうじき逸れてゆく
シルエットから一軒家は建てられて崩れるときは其の逆となる
正面といふ感覚に苦しみてをり出来るだけ綺麗に崩す
一軒家 兼 団地にて食べられるマッド・パフェには正面が無い
閉ぢこめてしまへば雨の音だから晴れた日はクロオオアリを集める
2023-05-26 五芸祭
苔むした石を日向に
【短歌】眼をもたぬ空
流儀としては 辛く炒めてちさき器にちょんと盛るやきそばの
白妙のブラインド近し、ゆふぐれの街の相貌は窺ひ知れず
わたしたち軸をもたずに関節で笑いあったね荷台だったね
ビル街は圧しつぶされるごと建ちぬ 眼のない空に触れられてゐて
【短歌】蟻ののたまふ
2023-04-25
影よりもつよくゐるとは かういふこと、と蟻ののたまふ
針先を平らに詰めて銀盤をつくりてゐたりけふのかみさま
一段と匂ひのつよき部屋に居て透きとほる内臓を吊るひと
あんまし、変わらないねと云ふひとにインテリアコーディネートされたし
一秒に5ミリを数ふ秒針のかたへにありしマット・マトリクス
ぷりんたは染料たいぷ 手工業的なにほひの