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猫のうんちが臭わない人のカルテ、春

【猫のうんちが臭わない人のカルテ、春】

「だからね?朝、鼻詰まりを感じる事がありますでしょう。レベルでいうとどのくらいか、どういう時に感じますか?」

「えっ、、っと そーうですね、レベル、、
朝、猫のうんちの臭いに気づかない事がありますね、、」

「猫のうんちね。
朝起きて 猫のうんちが 臭わない、と。」

呼吸器内科にて、お爺さん先生が復唱しながら私のカルテにそう書き込む。
医者らしい達筆で書かれたその文字、
なんか五・七・五刻んでるし、
川柳みたいになっちゃってるし、

今後この病院に通うたびに
「ああ、猫のうんちが臭わない人か」
「あれから臭うようになりましたか?猫のうんちは」

なんて聞かれるんだろうか、と上の空になっていたら
ちゃんと聞いてねと喝を入れられた。
後ろで看護師さんが笑っている。

世の中は花粉症が流行り始めて、開花宣言と共に
少しずつヌルく、鼻の奥にツーンとくる朝がなくなって

春が来ている。

日が長くなったからって余裕ぶってると
すぐに夜になる。
世の中は変わっても、結局自分は変わらないままだなと感じる、というか
いちいち考えようとしてしまうのが
こんな季節の変わり目なんだろう。

自分を変えようと
気合いを入れて本を買って、
立ち寄った静かなカフェで
無意識にインスタを開いて、手が当たって出てきたリールの爆音で慌てて本を閉じ、珈琲を吹き出す。

「ちゅ 可愛くてごめん」じゃないんだよ。

春が来ている。

ずっとずっと、そこにいるもんだと安心していたものが
突然居なくなる事に気づくのも春だ。

尊敬していた人がいきなり仕事を辞めた、
国道沿いを走ると視界に入っていた、あの外飼いの犬を気づいたら見なくなった、
そういえば、あの芸能人は亡くなったんだった。

ボーっとしてたな。

そういえば、私の名前には"はる"が入っている。
とはいえ冬生まれだし、春という季節にこれと言って思い入れは無いんだけれど

この、寒いとあついの中間のヌルい気温と、
花粉症のせいと、春が来た喜びで
人の心がすこしボーッとする雰囲気は
私に似ている。

ボーっとしていて、助かることも実は多いのかもしれない。

朝一は、これからも猫のうんち、臭わないままでいたいな。

やっぱり春が来ているな。

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