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つむぎ

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詩人・佐藤咲生。
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2022年10月の記事一覧

詩「秋の朝」

丁寧に泣く生活
光が差して笑ってるひとみ
いちじくが実る頃

朝、顔を洗ったあとの
肌にふれる空気の感じで
季節が変わってゆくのに気づく
水を浴びる肌の
緊張ぐあいも傾きかげんも
いつもとは少し違って
清潔なタオルで水気を拭きとる
閉じる視界に
ただよってわたしは
いつどこのわたしをわたしだと思っていたのか
ふいにわからなくなる

新しさとは
いつもと同じ景色をいつもと同じように見せる光のことで

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詩「うるおい」

詩「うるおい」

ちぎったパンもいらないと、
透け始めた手を払いのける。
過去の記憶に抱きかかえられて、
背の向こう側をたしかめることが
一生できない。
吐きそうだった。
横たわる体の重さをだれにも量らせない。
そのために育んだ生傷の数々。

悲しくないことが正常なことだから、
生きる正常さとは異常であることです。
感情が非常食。
感情の機能性。
そして痛みと鈍さを
ただ証明していきます。
あの手が透け始めるまえ

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