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みんなの“調整役”であり続ける

シリーズ 「発酵」の魅力を"伝える"人々③

こんにちは!SAKE Spring フード担当さっこです!
知れば知るほど奥が深い「発酵」の世界。
発酵の道を極め、ワークショップや講座を開催するなど"発酵の伝道師"としてご自身で活動を始められた方にスポットを当てます。
第三回は滋賀の自然を守りながら糀ブームを築いてきた「ハッピー太郎醸造所」さんをご紹介します!

「ハッピー太郎醸造所」とは…?

「醗酵(はっこう)でつなぐ、しあわせ。」をコンセプトに、糀(こうじ)やどぶろく、鮒鮨(ふなずし)など醗酵商品の販売・手前味噌の会などワークショップの開催を通して、醗酵食のすばらしさや生産者の顔を伝えるべく活動。
一口食べると身体が喜び、整っていくような商品が魅力的です!

▼コンセプトムービー
びわ湖のほとりにて語る 大事にしていること・コンセプト・農家さん・湖のスコーレ ドローン PR動画

『ハッピー太郎』さんって何者?!

ハッピー太郎さん(池島幸太郎さん)
  • 滋賀県大津市育ち。小さな頃はさまざまな場所に移り住んでいた。

  • 京都大学 文学部を卒業。学生時代は交響楽団の代表を務め、トランペット奏者として音楽漬けの日々を送る。恩師と訪れた蕎麦屋で飲んだ日本酒がおいしく、興味を持ち、お酒造りの道へ。

  • 酒蔵で12年修行(日本海酒造、冨田酒造、岡村本家)

  • 田舎暮らしと都会暮らしを経験し、農家→加工→消費者のつながりが断絶していることを体感。全てが繋がる豊かさを願い、自家用に味噌や鮒鮨を作り始め、2017年滋賀県彦根市に開業。主に糀屋として地元での販売をしつつ、「話せる醗酵屋」として高品質の発酵食品を作り続け、全国にファンが広がった。

  • 2021年12月に現在工房を構えている滋賀県長浜市「湖のスコーレ」に入居。池島さんの夢だったどぶろくの醸造を始める。


みんなの“調整役”であり続ける

メガネに麦わら帽子がトレードマークのハッピー太郎(池島 幸太郎)さん。

滋賀県の契約農家のお米を使った『ハッピー糀』など、ハッピー太郎さんが造る糀は素材にこだわり、独特の力強い糀が特徴的で、みるみる売れ、“醗酵”といえば「ハッピー太郎さん!」と言われるくらい発酵界のスーパースターです。

そんな順風満帆な人生を過ごされていると思っていましたが、現実はそんなにハッピーなものではなかったのです……。

牛乳配達のアルバイトで生計を立てる!?壮絶な3年間を乗り越えて…

独立したての2017年、酒蔵の経験で培った糀造りを武器に、糀の販売を始めました。
しかしその当時、“醗酵”ブームはありつつも、『糀とは?何に使うの?』というくらい認識されていなかったそう。
お客さんも家庭で使うには手を出しにくい……という方が多い状況でした。

「いいものを造れば売れる!」そう確信していたハッピー太郎さんでしたが、糀の市場がまだまだ狭いことに気づきました。

ー最初はどのように糀を広めていったのでしょうか?

お客さんは小さなお子さまを育てているお母さんが多く、お子さまやお年を召したお母さま、乳がんや糖尿病を患う家族のために『いい素材で料理してあげたい』という思いで私のもとを訪れていました。

そこで「この糀はどんなお米を使っているのですか?」とよく聞かれました。
お客さんはオーガニック志向の方が多く、産地や農薬のことについて気になっていたのです。
しかし一般的に販売されている糀でお米の生産者の顔がわかるものがほとんど無い。
酒業界ではお米の産地や造り方などが開示されているのに、糀業界のトレサビリティははあまりオープンではなかった。そこに消費者とのギャップを感じたわけです。
だから私が「糀屋」として生産者の顔が見える糀を広めようと思いました。。
情報を事細かに開示している糀屋は珍しく、徐々に口コミで伝わっていきました。

ただ糀が信用されるには時間がかかるんです。
例えばお味噌造り用の糀は、醗酵して1年たたないとその糀が本当においしかったか分からない。
そうするとリピートや口コミをしてくださるまでに時間がかかる。
これは事業としては成り立たず、最初はかなり苦労しました。

しかし私には『糀』しかなかった。酒蔵を辞め、自分ができることは糀造りだけでした。
最初は牛乳配達のアルバイトをしたり、なんとかして生計を立てていました。

ーなかなか苦労されていたのですね……他にはどんな活動をされていたのでしょうか?

他には滋賀の食材を使った醗酵食を配合した『醗酵カレー』をマルシェで提供したり、手前味噌の会を開催して醗酵コミュニティを作ったり、自分が好きな滋賀の食のことをSNSで発信したり、色々な活動をしていました。ほとんど前例のない起業なので手探りでしたね。

『手前味噌の会』の様子

開業してから3年後の2020年、私の糀がおいしいとリピートしてくださる方が多くなり、やっと軌道に乗り始めました。

幸せ広がる『糀』の秘訣とは!

ーハッピー太郎醸造所さんの糀は“力強く完熟している”と人気がありますが、どのような特徴があるのでしょうか?

糀は「味噌屋の糀」の作り方をしていて、私の甘酒・お味噌・どぶろく、全て同じ作り方のものを使っています。
一般的に、酒蔵で作られている糀は透明な液体(清酒)が美味しいためにデザインして作ります。きめ細やかな温度で管理したり、すっきりしたお酒にするために糀菌の成長を限定し乾燥させながら作ることが多いです。。
しかし、味噌、甘酒、どぶろくは濾さずに糀ごと頂くものなので、糀そのまま食べて美味しいと思える柔らかい触感や深いコクを大切にしております。。そのため、細かい温度管理というよりも、糀菌が好きなだけのびのび成長するように手助けする感覚となります。
また、清酒はすっきりしていることが価値を持ちますが、味噌や甘酒は濃厚であることが価値を持ちます。そのため糀の作り方に違いが出てきたように思います。味噌屋の糀で作ったどぶろくは濃厚にもなりますが、濃厚で綺麗な味わいも実現可能で、それはお米を選ぶことが大切になります。

ーお米はどんなものを使用しているのですか?

用途によってそれぞれ違う農家さんから仕入れており、直接生産者さんのもとを訪れ、どんな育て方をされているのか、お話を聞いてから買わせていただいています。特にどぶろく用のお米は基本的に農薬や肥料を与えていないお米を使っています。

独特の取り組みとしては、整粒のお米だけでなく、ふるいから落ちたお米も積極的に使用します。
食べるお米としては使えず、はじかれてしまうボロボロのお米。どうにか活用してあげたいと思い、“はみだし米”として使用しています。
これを糀にするとすぐに崩れるので、つぶつぶした食感が残りにくく、なめらかになってお味噌にも溶けやすい。
お子さまも飲みやすいと人気が出ました。
このお米はハッピーどぶろくにも使用しています。田んぼの土が綺麗であれば雑味も少ないですし、こちらのお米の方が溶けやすくとろとろして飲みやすく、どぶろくにはぴったりでした。

どんな個性も、受け入れてまるごと活かす。居場所を作ってあげたいですね。田んぼ全てを受け入れ、無駄にしないことが豊かさに繋がると思っています。

ー糀などの醗酵食は造る人のエネルギーが伝わるのでしょうか?

プロとして、常に80%以上の出来にする必要があると思います。
自分のメンタルや体調に左右されてはいけない。どんなに熱が出ていても、糀造りはかかさずに行っていました。
そこで自分のコンディションに影響されないものづくりの方法を考え、一晩管理しなくても育つ、“人にやさしい糀造り”をするようにしました。

麹室はコンパクトな作り。外から覗けるので運が良ければ作業を見れるかも…!

ーお酒造りで大切にされていることはありますか?

僕自身のお酒の哲学はないんです。
僕は落とし所を見つける役。“調整役”なんです。クリエイティブな人にも憧れていましたが、そうなれずにもがいている自分がいました。
しかし、滋賀という自然・生産者さんを活かし、ここの空間(湖のスコーレ)を尊重するお酒を造ることでここでしか出来ないものが私にも作れるようになりました。

生産者さんを前面に推し出しているのも、僕自身が農業に向かないから。
実は生産者さんになろうとして田んぼをしたりしてましたが、なんせ毎日田んぼに行くのが苦手で草だらけになってしまって収量も取れなくて品質も最悪で。
作物を育てる苦労を知ってから、それが出来る生産者さんを心から尊敬するようになりました。
自分自身、汗をかいた経験があったから、農家さんの苦労が分かる。
だからこそ、原材料に使っている素材は、どんな人がどこで作っているのか、しっかりと伝えていきたい。生産者の素晴らしさを表現したいと思っています。

ラベル貼りは全て手作業。地元のお母さん方がお手伝いしてくださるそうです。

ーハッピー太郎さんのどぶろくは低温発酵。時間もかかると思いますが、どうしてこの作り方を続けるのでしょうか?

ハッピーどぶろくはお米だけのどぶろくなので、田んぼの美しさ、作る人のピュアな気持ち、その方々の背中が見えるようなどぶろくに仕立てたい。
だから低温で仕上げているんです。低温だときれいに醗酵し、お米の味わいが分かりやすい。
生産者さんの味を表現するためにこの技術を選びました。
something happyは副原料が主役でもあるので、それに合わせてもっと自由な醗酵温度を選んでいます。

いざっ!ハッピーどぶろくを試飲!

新作も含め、5種類のどぶろくを試飲させていただきました!

なんだ、このなめらかさは……!どぶろくといえば荒々しい味わいを想像していましたが、とっても柔らかい口あたりで包み込んでくれます。お米の旨味・甘味が広がり、ハッピー太郎さんがお米を大切にされていると言っている意味が伝わってきました。

右から順にご紹介。(あくまで大国個人の感想です。)
①ハッピーどぶろく(辛口)
「湖北はみ出し米」を使用。キリッと辛口で、お食事とも合わせやすいさっぱりとした味わいで、どぶろくってこんなにすっきりしているの?!と感動の体験でした。

②something happy 政所と共に
滋賀県の奥永源寺地区に位置する、鈴鹿山脈の「政所」地区で栽培される貴重な在来種の煎茶を使用。まるでお茶を飲んでいるように茶葉の香りがしっかりと感じられ、ティータイムに持っていきたいお酒です。

③something happy フレッシュハーブティー
広島県三原市の梶谷農園さんのハーブを使用。その時に畑で採れたハーブのブレンドを使用しているとのこと。スッキリとした香りが鼻から抜け、リラックスしたい時にいただきたい一杯。

④something happy ハニカム葡萄
滋賀県彦根市「ハニカムファーマーズカンパニー」のぶどうを皮ごと40kg使用しているそう。ぶどうの皮の香りがしっかりと感じられ、ほどよい渋みが感じられ、思わずハニカミたくなります。

⑤something happy オリエンタルホエー
「湖のスコーレ」チーズ製造の副産物「ホエー」を無駄にしたくないという思いからどぶろくに活用。副原料としてスパイスを使っています。ミルク感とスパイスが相まってまるでカレー屋さんでいただくラッシーのよう!
※湖のスコーレさん店頭のみ販売。

ハッピー太郎さんの解説を聞きながらいただくどぶろくはより一層おいしく、生産者さんの顔や土地の情景が浮かんできました。
どぶろくの概念を覆す、ハッピーな気持ち溢れるどぶろくをぜひ楽しんでみてください。

滋賀県のいいところって?

ー地元ではない滋賀県に住み続けるハッピー太郎さん。滋賀県の良さとは何でしょうか?

滋賀県人で琵琶湖を目にしたことがない人は一人もいないと思います。みんなどこかで琵琶湖を意識している。僕の生まれは大阪で小学生の時に滋賀県に引越し、外から来てみて、この地域の琵琶湖への愛に気づきました。
地元の人は滋賀県の自然や食材・郷土料理に誇りを持っている。琵琶湖独特の生態系、自然を大切にする思いが地元の人にはあると思います。どぶろくには伊吹山の石灰岩層を潜り抜けた地下水を使い、ピュアな口当たりと後味にミネラルを感じられる硬水で、それがここ独自の醗酵をもたらしているように思います。
琵琶湖を巡って、“水”で僕らは繋がっている。それを表現していきたいなと思っています。

色々な経験をしたことが今に生きる。
たくさんの失敗もしてきたが、全て繋がってきた。
生産者・消費者、みんなの“調整役”でありたいと語るハッピー太郎さん。
お話を聞くだけでこちらまで元気が出て、身体や心が整い、研ぎ澄まされる感覚になりました。

インタビュー終了後は湖のスコーレに併設されているカフェで、ランチをご一緒してくださりました!

手前『近江牛の伊吹山発酵カレー』マルシェで販売していた醗酵カレーがもとになったメニュー!やさしい辛さのカレーにはなんと滋賀県の発酵食「鮒鮨」の飯が添えられ、クリーミーな味に変化を遂げます! 
左奥『特製クロックムッシュ』味噌フロマージュのまろやかさとセミドライトマトの酸味が絶妙にマッチ!発酵生姜を効かせた塩糀卵も絶品です。

ハッピー太郎さんが作った醗酵食を活かした料理やどぶろくがいただけて、思う存分醗酵を楽しめるスポットとなっています。
*お料理は季節により変わります。

滋賀県にいらした際はぜひハッピー太郎醸造所へ行ってみてください!

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『ハッピー太郎醸造所』

場所:滋賀県長浜市元浜町13-29「湖のスコーレ」内
   JR長浜駅から徒歩7分
HP:https://happytaro.jp/
ECサイト:https://happytaro.thebase.in/
note:https://note.com/happytarokotaro/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCndglEfAcnfzJJOYgCQS1Sg


そしてなんと、12月の「SAKE Spring 2023 大感謝祭」ではどぶろくのワークショップと“フードロス座談会”に登壇してくださいます!!
手軽に作れる白味噌とどぶろくやお味噌・甘酒など、醗酵を知り尽くせる会が京都で開催されます!
ぜひチェックしてみてください!

▼「SAKE Spring 2023 大感謝祭」公式サイト
https://www.sakesp.com/daikansyasai2023

▼「サケスプラボ “簡単白味噌を作ってシン・ドブロクを味わおう~ハッピー太郎の旧くて新しい糀の世界~”」購入サイト
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02crzigpmyb31.html

▼「フードロス座談会ー日本酒とお米の話ー」購入サイト
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/020i72gjpeb31.html

written by さっこ


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