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#39.ふわふわとした浮遊感

あさ、いつものように起きて身支度を整えていると、玄関のチャイムがなった。

ドアを開けるとお隣さんがいた。
挨拶の言葉を声にする前に、足元をすりぬけてロロが家の中に入ってきた。

今日は週に一度、隣の家のロロを預かる日だ。
いつもはすぐに散歩に行くのだけれど、今日はあいにくの雨。うちの中で過ごしてもらう。

先日の旅先でのお土産であるぬいぐるみは、早速ロロのおもちゃとして振り回されていた。
しばらくロロと遊んでから仕事に取り掛かる。
仕事は仕事なのだけど、いつもの作業とは違い事務的な内容なのでとても時間がかかる。
雨のせいもあってかあさから気分もどんよりだ。

作業が少し進む度にロロに癒されてを繰り返しているので遅々として進まない。
まあロロがいなければもっと進まないのだけど。

一旦昼休憩を挟み、ついでにロロにおやつ休憩を取ってもらっていたら、お腹がいっぱいになったせいか、寒いからと着込んであったかいせいかうつらうつらしてきた。
このまま寝てはまずいと思いつつ眠気にはついぞ勝つことは出来なかった。


ふわとふわとした浮遊感が、夢の中なのか現実なのか、判断するのは難しい。
多くの場合が夢の中での出来事だと思うが、夢の中では夢を現実と思っているし、
あ、これ夢だな
などと思っても、実際にふわふわと部屋に漂っていたらまだ夢の中にいるんじゃないかと思う。
それが夢でもなんでもなく現実だった今、まじでパニクっている。

確かソファの上で寝落ちたはずなのに、身体の下にあるべきソファはなく、自分自身が浮遊している。
自分だけでなく、家具や小物にいたるまでこの部屋のものがみんなぷかぷかと浮いていた。

その真ん中を陣取るようにすやすやと寝息を立てているヤツが犯人である。

ロロだ…。

宇宙イヌは愛玩動物とはいえ、その飼育は簡単ではない。
基本的に野生の宇宙イヌやロロのように虐待を受け自分で身を守る必要のあった個体は、寝ている時などの無防備な時間、周囲の重力を変える事ができる。
野生の個体はそれによって身を守るのだが、室内飼いの個体にそれをやられると大変だ。

なんせ家中のものがひっくり返るのだから。
あわててロロを起こして無重力状態を解かせる。その時、ごちんと床に思い切り尻を強打したが気にしないことにした。
結構大きな音がでたのでびびっているだけで、特に支障はない。
あるとしたらちらかってしまったこの部屋だけだろう。
幸い大きな家具がひっくり返るほどではなかったので、倒れたりぐちゃぐちゃになった家具を元の位置に戻しておく。
ちなみに、目が覚めて状況を理解したロロは、なんだか申し訳なさそうな顔をして隅っこに行ってしまったので反省はしているようだ。
イヌにも表情筋があるのだと言わんばかりに悲しそう顔で項垂れていて、全身で反省をあらわしていた。

(その反省顔があまりにも可愛かったので2秒で許した。)
宇宙イヌは群れ全体で眠りにつき、その群れを守るために仲間ごと宙に浮く仕様にもなるので、仲間認定されたと喜ぶことにした。

静かな雨の日の、ちょっとしたハプニングであった。

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