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#30.ひとりで帰ろう

風邪をひいた。朝からなんとなく調子が悪いような、身体が重たいような、底冷えするような感じがしていたが、低血圧と寒さのせいと考え、とりあえず白湯をのんでモコモコ着込んだ。
昼ごろ、どんなに暖かい格好をしても一向に寒気がましにならないどころか、頭痛までしてくる始末だったので抵抗やむなく、体温を測ると中々な高熱が記されていた。
熱を出すて寝込むなんていつぶりだろうか。
もともと、そんなに身体が強い訳でもないし、季節の変わり目は体調を崩すことが多かったのだが、最近はそういうこともだいぶ減っていたので油断した。

仕事を放り投げて布団に潜り込む。
こういう時は寝るに限るだ。

先日の旅で疲れが出たのか、その旅先で拾ってきたのかはわからないが、生憎と今日は病院もやっていない。
出来るだけ暖かくして眠りについた。
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滑り台であそんでた。
小さい頃の話だ。

ひとりで、公園の滑り台であそんでた。

滑っては、登って、また滑る。

ひたすら滑って登って、また滑る。

滑る、登る、滑る、登る、滑る、登る、滑る、

周りで遊んでた子たちは、とっくのとうに迎えがきて帰った。
いつまで経っても、迎えは来ない。
ひとりで、ただ、滑って登って、また滑る。

迎えは来ない。そういう人じゃないから。
ただなんとなく、まっすぐ帰るのは嫌だから、
もう少し、あと少しだけ、
あと一回を繰り返す。

辺りはすでに真っ暗なのに、まだ帰れずにひとりきり。

ただでさえ暗い公園の外は、もっともっと暗い気がして、さっきのうちに帰っておけばよかったと、もう何度目かの後悔をした。

“へっくしゅん”

さむくて、くしゃみが出た。
このままここにいて、一生帰れなかったらどうしよう。
公園から大通りまで、10メートル弱の暗闇がどうにも怖くて怖くてたまらない。
あそこを駆け抜ける勇気が欲しいのに、滑り台のてっぺんで、膝を震わせるしかできないでいる。

バサバサバサ!

後ろで何かの物音がした。
ビックリ仰天、あわてて滑り台を駆け下りて、泣き叫びながら逃げ走った。
後ろは見ずに前だけ向いて、夢中になって走り抜けた。

急に視界が明るくなったと思ったら、いつのまにか大通りに抜けてきていた。

あれだけ怖く見えたあの道も、もっと怖い近くの物音と比べると、どうってことないように思えた。
意地を貼って公園に粘っていたのに、そのせいで怖い思いをして、とんだまぬけだ。

帰ろう。
ひとりで帰ろう。
大丈夫だから、ひとりで帰ろう。
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目が覚めた時、窓の外はもう真っ暗だった。
だいぶぐっすり寝た気がする。
一日寝てただけなのに、熱もすっかり落ち着いて健康になったなあと感慨深い。
途中、夢を見たような気がするが、目が覚めたときにはもう忘れてしまっていた。

体調が悪いときは、気分も落ち込んだり、心細さからか物寂しくなったりする。

ベッドサイドに置いておいたペットボトルの水を飲んで、きっちんに向かう。
たしかレトルトのお粥があった筈だ。

レンジで温めてもそもそと食べる。
食欲があることは良いことだ。
薬箱を漁ったら風邪薬があったので一応飲んでおく。
片付けもそこそこに、さっさと眠ることにした。
お粥を食べたおかげだかろうか、心なしか身体がぽかぽかする。
若干ぼんやりする頭に揺られながら、すとんと眠りに落ちていった。

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