待ちぼうけのワルツ
古びたピアノの蓋を開ける。
触るのはだいぶ久しぶりのことで、恥ずかしいやら埃が積もって指の跡を残す。
色褪せないままの白い鍵盤をそっと押してみる。
大丈夫、音色は美しい。あの時のままである。
一生懸命に弾いてたあの頃はもうとうの昔で、ピアノよりもきっと私の指の方が錆び付いていることだろう。
それでも時折、こうして椅子に座り彼女と向き合いたくなる。
下手くそでも、錆び付いていても、また私と一緒に子犬のワルツでも踊ってくれないかしら。
そんな気持ちで鍵盤に触れる。
辿々しい子犬のワルツ。
白と黒の鍵盤の上、楽しそうにはしゃぎ回る。
あんがい、悪くないんじゃない?なんて自画自賛してたら、自分の足にもつれて転んでしまった。
笑って誤魔化して、少し前からやり直し。
へたっぴだけど、錆び付いているけど、走ったり、転んだりしてるけど、楽しくワルツを、あなたと2人。じゃれつく子犬と遊んでる。
もう動けなくなってようやっと、踊りは終わる。
お別れの時間、引き伸ばしたいのは私か彼女か。
古びたピアノがここに一台。
今日もあなたが来るのを待っている。
へたっぴなワルツ踊れる日をもう一度夢に見て。
錆びれたステップで構わないから。
彼女はひとり、待ち続けてる。
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