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空想日記

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あなたの知る私ではない『誰か』から届くメッセージ。日記のようで、どうやら公開して欲しいみたいだったのでここで。ちっぽけな世界のちっぽけな私のここから、私の元に届く誰かからの日記。… もっと読む
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2021年6月の記事一覧

まじない

まじない

空になった香水の瓶と、あの子がくれたプレゼントのリボン。
捨てずにちゃんととっておいて?あの人を瓶に閉じ込めるから。
思い出のあの場所で拾った貝殻底に敷き詰め、囁かれた愛の言葉の上澄みで満たして。これでもう心移りなんて出来ないだろう?

たんぽぽの綿毛で優しく包む。
これでもうあの人が傷付く事はない。

まじないの言葉はあの日の約束。
祈りを込めてリボンをかける。クローゼットに仕舞い込んだままにな

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縞なしシマウマ

縞なしシマウマ

1.

縞のないシマウマ、まっしろシマウマ。
黒の縞をどこかに落とした。
シマウマはほとほと困り果てた。

このままじゃぼくは仲間はずれ。一体どこに落としたんだろう?

シマウマは聞いた。仲間たちに聞いてみた。

『ねえみんな、ぼくの縞知らない?どこかに落としてしまったみたいなんだ。』

だけどみんなは知らん顔。どころか怖い顔で脚を蹴り上げる。

『お前みたいなのはシマウマじゃない、白馬ってんだ、

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縞なしシマウマ。

縞なしシマウマ。

2.

縞模様を落としたシマウマは、自分が無くした縞を探し続けるうち、いつの間にかニンゲンたちのいる世界にやって来ていた。

シマウマはビックリした。だってキリンよりも背の高い建物や、チーターよりも速く走り続ける車を見るのは初めてだったからだ。

シマウマはさっそく道行く人に聞いてみた。

“ねえねえ、あのね、僕の縞模様しらない?どこかに落としてしまったんだ。”

『きゃっ!なんでこんなとこに馬が

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悪魔ちゃん

悪魔ちゃん

『ごめんね。』

そう言って悪びれもなく笑う君は、幻みたいにふわっと消えて居なくなった。
突然現れて突然居なくなるなんて、わがままで自分勝手な君らしい。
最後まで君の気分で振り回して、人の心も知らないで。
再開の約束も、別れの言葉もいらないけれど、いつかまた君と巡り会えたらその時は、文句の一つくらい言わせてよ。

***

消えて居なくなってしまいたかった。
そんな気分だった。
だからといって行動

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セプテンバーブルース

セプテンバーブルース

ループするリズム、時々崩れる。
その瞬間の心地良さ。
変わらない日々、時々訪れる目の覚めるような偶然。

昨日はとても面白かった、今日は乾涸びるほどに退屈で、明日はどこになにがあるのか。

いつもと違うコンビニで買ったアイスカフェラテ、意外と悪くない。意外と。思ってたよりもずっと。

セプテンバーブルース、センチメンタル魂の叫び。誰にも聞いてもらえなくとも、いや、誰にも聞いてもらえないから、誰かの

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貝殻のまほう

貝殻のまほう

貝殻に記憶を閉じ込める秘密の方法。
おばあちゃんが小さい頃に教えてくれた。

必要なもの。
お花、空、貝殻。

貝殻を空で作った染料でそめる。
空の染料はなるべく雲ひとつない晴れの空が好ましい。
上手な人は満点の星空でもいいけれど、初心者は青空がおすすめだ。

貝殻を空で染めたら好きな花をひとつ。
貝殻の上で花占いして。

すき、きらい、すき。

祈りをこめた花びらたちが貝殻の中に溶けていく。

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堕ちた天使

堕ちた天使

瞳に宝石を嵌め込んで完成した、天使の剥製。
神様に嘘をついて羽をもがれ、この世界に堕とされた。

ぼろぼろと舞い散る羽の中、偶々その場に居合わせた私を見上げ、天使は涙をこぼして言った。

“これで良いんだ、これで良い。”

そのままぱたりと動かなくなった天使、その涙があまりにも美しくて私は、堕ちた天使を剥製にすることにした。
白鳥の羽、白兎の皮、最高級のシルク、希少な金糸。どれも上等なものを用意し

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歩く

歩く

歩く、歩く、歩く。

あてもなく、目的もなく、ただただ前へ進むだけ。
何かがしたい訳でも、逃げ出したい訳でもなんでもないけれど、なんとなく、ただなんとなく、前に進んだ方が良い気がして、だから、理由もなく歩く。

上を向いたりする訳じゃないから、空の鳥にも気づかないし、夕焼けに架かる虹にだって気づけやしない。
下を向いて歩いているから、影を追う自分の足が見えるだけ。
左右に抜き差ししてるだけ。

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花の色

僕の仕事は花を作ることだ。
簡単そうに思えて、これが意外と難しい。

満月の晩に雲を渡って夢を摘む。大きい方が良さそうに思えるけど、実はそうじゃない。小さくてもしっかりとしたのを選んで摘んでいく。

そのまま、摘んだ夢たちをざるに並べて、たっぷりと月光浴をさせる。これを忘れると綺麗に咲かないことが多いので重要な工程だ。

小瓶に注いだ悲しみの涙の泉から汲んだ水に浸す。光もなにも届かない暗い場所に置

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旅人

旅人

レラの雪山に咲いた透明の花を手折って、むしゃむしゃと頬張る。
別に美味いから食ってる訳じゃない。
こんな辺鄙なところで花を咲かせてるこいつらが悪い。
ただそこにあったから食べただけだ。

俺様は旅人、しがない旅人。
行くあてもなくただ旅をする。ちょっとばかし食い意地が汚いのが玉に瑕んの、立派な旅人様である。

俺様は歩く。ずかずか歩く。俺様の行けないところなど、一つとしてないからだ。広い歩幅でずん

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神様ってば、そういうところ。

神様ってば、そういうところ。

たくさんの本に埋もれて、息苦しさに目が覚める。

そんな毎日。

伝承とか、民謡とか、昔話とか、そういう語り継がれてきたお話を調べるのが好きで、そんでもって好きが高じてそれを調べる仕事についたはいいものの、未だにこうやって本に埋もれていつのまにか気絶をして朝を迎える。

最近までずっと、冬前の飢饉が神の仕業だという伝承を調べていた。
古くから物語として知られているけれど、改めて全国各地に似たような

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恐ろしい世界

恐ろしい世界

『外の世界は恐ろしいから、ここから出てはいけないよ。』
魔法使いは女の子に言いました。
女の子は、恐ろしいところには行きたくないのでこくんとうなずき家のドアにし怒りと鍵をかけました。

『外の世界は恐ろしいから、窓から顔を出してはいけないよ。』
魔法使いは女の子に言いました。
女の子は恐ろしい世界を目の当たりにしたくなかったので、分厚いカーテンを締め切りました。

『外の世界は恐ろしいから、誰のい

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ある青年の手記

ある青年の手記

『隣の芝生は、』

才能が欲しかった。
周りのみんなは褒めてくれる。
すごいね!上手!才能あるよ!

こんなこと、誰だってできるよ。
言いかけた言葉を飲みこむ。
反感を買うと目に見えているから。

失敗を恐れて前に進めない僕は、綺麗事並べただけの物語(笑)のようなダサい文章を、必死になってかきあげて満足してる。

ただの自己満足。

「作品に自分の哲学を込める」

あるようでないようなペラペラの人

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ミミズクと夜

ミミズクと夜

ミミズクの内緒話し、夜の森にこだまする。
滝壺にクマがおこっちたとか、峠の鹿に子どもが生まれたとか。

小さな声は森に響く。みんなはそんなミミズクの噂する声が嫌いじゃなかった。だってあまりにも平穏だから。

たんぽぽが綿毛のドレスに着替えたのも、蜜蜂の蜜が豊作なのも、みんなミミズクの噂で知った。みんなミミズクの内緒話しに聞き耳立てた。

それを知らないニンゲンたちは、ミミズクの声が怖いので、聞こえ

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