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縞なしシマウマ。

2.

縞模様を落としたシマウマは、自分が無くした縞を探し続けるうち、いつの間にかニンゲンたちのいる世界にやって来ていた。


シマウマはビックリした。だってキリンよりも背の高い建物や、チーターよりも速く走り続ける車を見るのは初めてだったからだ。

シマウマはさっそく道行く人に聞いてみた。

“ねえねえ、あのね、僕の縞模様しらない?どこかに落としてしまったんだ。”

『きゃっ!なんでこんなとこに馬がいるの?』
髪の長いお姉さんはびっくりして何処かに走っていった。

『お前、動物園から逃げてきたのか?捕まえたら謝礼貰えたりする?』
背の高い男の子が悪い笑顔で追いかけてきた。

『なにこれー!動物?本物みたい!』
女の子の群れが高い声で騒ぐ。

シマウマは知らなかった。ニンゲンたちと言葉が通じないことを。

シマウマはパニックになって逃げ出した。
チーターより長く走る車を追い越して、キリンより高いビルの隙間を縫うように駆け抜けた。

ドシン

硬いなにかぶつかって立ち止まる。
全身を打ちつけて身体中が痛い。
どうにか前に進もうとしていると頭に影が落ちてきた。

『おまえ、どうした?迷い込んだのか?』

影からそんな声が聞こえる。
シマウマはその優しい声を聞いて、暴れるのを辞めた。
頭の上に、ひとりの子供が立っていた。

シマウマがぶつかった硬い何かは、スクラップされた鉄屑たち。
迷路みたいなそこに迷い込んだシマウマの出す騒音に慌てて駆け寄ったのだという。

『びっくりしてこんなとこまで来たんだな、可哀想に、家までの帰り道は分かるか?』

子供の質問にシマウマは首を横に振った。

自分の縞を探すうち、ここがどこなのか、自分がどこからきたのか、大切なはずのことは全部忘れてしまったのだ。

落とした縞を探すはずが、縞模様だけじゃない大切なことも全部、全部ぜんぶどこかに落として来てしまったことに、ようやくシマウマは気づいたのだった。

『行くとこがないんならさ、しばらくここに居たらいい。お世辞にも良いところとは言えないけれど、それでもちょっとは落ち着けるんじゃない??』

そういってその子供は、優しくシマウマの頭を撫でた。撫でる小さな手のひらがあんまりにも暖かくって、シマウマはぼろぼろと泣き出してしまった。

“うわーん、うわああーーーん。”

シマウマの目からこぼれた涙は、シマウマの顔をびしゃびしゃに濡らした。

すると

真っ白なシマウマの白の下から、黒い模様がうっすらと浮き出てきたのだ。

『お前、もしかして…!』

何かに気づいた子供が、近くからホースを持ち出した。そのホースで雨を作ってシマウマの頭から水を被せる。

みるみる白が溶け出して、溶けた下から黒い縞模様が浮き出てきたのだ。
足元にできた水溜りにうつる自分の姿をみて、シマウマはびっくり驚いた。

あんなに無くしたと思っていた大切な縞模様が、最初からなくなってなんかいなかったことに。

『お前、白いペンキでも被ったのか?本当はシマウマだったなんて、驚きだな!』

子供も一緒になって驚いて、それから2人してしばらく笑った。
子供が何を言っているのか、シマウマが何を言いたいのか、お互いに分かるはずもないのだけれど、それでもなんだか分かる気がした。

シマウマは、帰り道がわからなくなったし、なんだかスクラップ工事の味気のなさが酷く気に入ったので、これからもそこで過ごす事に決めた。

町外れのスクラップ工事から時々、馬と子供の楽しそうな笑い声が聞こえてくるようになったのは、また別のお話。

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