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【読書感想文】新型コロナが明らかにしたクソどうでもいい仕事を暴く「ブルシット・ジョブの謎」

新型コロナの世界的な感染の広がりは、世界経済を縮小させた。一方でエッセンシャル・ワーカーの重要性を認識させるとともに、意外に経済が持ち堪えたことを示した。エッセンシャル・ワーカーとは医療従事者、運送業者、介護士など、社会を構成する重要な職業である。ブルシット・ジョブはその対極にある。

ブルシットジョブとは

ブルシット・ジョブとは本書の定義によると下記のようになる。

ブルシットジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化し難いほど完璧に無意味で、不必要で、有害でさえある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、被雇用者は、そうではないととりつくろわねばならないと感じている。

ブルシット・ジョブの謎

わかりやすく言うと、高い給料をもらっているけど、実は社会的にまったく無価値(あるいはマイナス)な仕事である。最近話題になった典型的な例は、東京オリンピックの高橋元理事であろう。高橋元理事のようなコンサルタントはオリンピックという一大イベントに寄生し、莫大な利益を上げた。

それ以外にも投資銀行の銀行家、広告代理店、税理士などがブルシット・ジョブの例として挙げられる。彼らは高給取りのエリートであるが、社会に良い影響を与えているとは限らない。むしろ稼げば稼ぐほど社会的価値を破壊していると言う。

エッセンシャル・ワーカーとブルシット・ジョブ

エッセンシャル・ワーカーは社会を構成する重要な職業である。しかしほとんどが激務で低賃金である。資本主義社会においては大量の人間が同じ作業をする仕事は(金銭的な)価値が低くなる。水の価値は高いのに経済的価値が低いことに似ている。

エッセンシャル・ワーカーの賃金を上げるのは、現在の資本主義においては難しい。資本主義は希少で珍しいものほど価値が高くなり、量の多いものは効率化(低賃金化)するのが正義であるからである。これは企業の努力だけでどうにかなるものではない。国や自治体による保護や規制が必要になる。

本書ではベーシック・インカムの導入によってエッセンシャル・ワーカーの賃金と地位が向上すると主張している。

ブルシット・ジョブの不可分な役割

ブルシット・ジョブが社会に役立たないことはわかった。しかしじゃあ禁止しようと言うのは無理がある。ブルシット・ジョブが生まれたのは資本主義や支配層の陰謀ではなく、社会のさまざまな因果関係が複雑に絡まった結果である。

そして全てのブルシット・ジョブが無価値なわけではない。半沢直樹のような熱い銀行家もいるだろうし、小さな企業の新製品を画期的な方法で世に広める広告代理店もいるだろう。管理職にも無能な人間も有能な人間もいる。要は権限と責任と報酬が適切に配分されることが必要なのである。

最近政治と宗教の問題が取り立たされて、カルト宗教を規制すべきだと言う風潮がある。しかし実際にすべての宗教をカルトかどうか分類することは不可能である。それと同じように、すべての分野にグレーゾーンはあり、グレーゾーンを全廃することは制度を崩壊させる極論である。


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