マガジンのカバー画像

空想紀行文

5
運営しているクリエイター

記事一覧

詩『蛹星』

詩『蛹星』

永く生きてあればきっと ふやり離れてくのだろう
目をぎゅっとつむる
幾光年を泳ぐ蛙 そのさいごの色をおもって
うつわは焼き上がる
生まれたからには蝶になりたいだなんて考えてしまうよ
皮膚はまだ柔らか
生まれたからには蝶になりたいだなんて考えてしまうよ
皮膚はまだ柔らか
表面張力が打ち負けて ぷるんと溢れてくる歌
思わず本をとじる
冷たさに滲む涙 朝を肺いっぱいに
頂に挑もう君と
頬は解けやすいから

もっとみる
散文詩 『ラピス・ラズリ』

散文詩 『ラピス・ラズリ』

ラピス・ラズリ   

鉱石のような恋をしなさいと母さんは言いました。
私は青紫色の瞳を感じて、誘われるようにカーテンを綴じます。
むかし飼っていたハムスターのお墓を柔らかく思い出しながら
君が赦した金属光沢をするらり撫でるのです。

 ふと嗅いだマスカットの匂いにつられて家を出る。外はぞっとするほど暗くて、足下だけが上からの光を反射している。遠くの工場が琥珀色に光って深く煙を吐いているのが見える

もっとみる
短編『明日は明日の雨が降る』

短編『明日は明日の雨が降る』

明日は明日の雨が降る

覚(さと)は早起きだった。朝の退屈を楽しむのが好きなのだ。
PODD(時間律隔離寝台)は過保護で、いつでも二度寝していいのよとベッドを暖めつつ、コーヒーのためのお湯も沸かし始める。
「わたしの意思なんて」
知ってるくせにね。そう思いながら、朝ごはんのメニューを頭の中で考える。考えた内容が意識に上ったときにはすでに、PODDはフライパンにエクストラバージンを引いていた。今日は

もっとみる

短編『シェル・マインド』

シェル・マインド

「私は貝になりたい」なんていうけどさ
人間はほんと俺たちのことわかってないよ
貝って大変なんだぜ?
ひらくか、とじるかだ
いろんなひらくがあるし、いろんなとじるがあるんだ
たべるときは胃の中の酵素をゴロゴロさせるんだ
そして戦う
みてくれよ俺の殻を
守るためならツルツルにするさ
攻め勝つためにギザギザなんだ
でっかくて動かない、すっげえ硬いのが海にはいっぱいあるんだ
それに勝っ

もっとみる
空想紀行文 4月24日 無宗教都市キハナ

空想紀行文 4月24日 無宗教都市キハナ

旅が好きなのですが、こんな状況では次の旅の計画すら立てられません。
そのため、空想の世界にて架空の都市へ出かけたいと思いました。
今後も旅欲が破裂しそうになるたび、この営みに頼るでしょう。

ー4月24日 キハナ

列車に揺られつつ、キハナへ向かう。久々の夜行列車は意外と快適だが少し寒かった。身体が窮屈さを感じる前に入眠しようと、アウターを2枚着込んで目を閉じた。この国の列車は予定時刻より早く着い

もっとみる