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#36 アートバーゼルにて考えたこと

この「考える」マガジンは、私が関心を持ったトピックを幅広いテーマで自由に書いています。今回は6月半ばに縁あって訪れた、世界で一番大きなアートフェア・アートバーゼルに行った記録と、そこで感じたアートについての想いを書きたいと思います。

6月頭にアートバーゼルに行くと決めて一番はじめに驚かされたのはその入場料の高さ。大人1枚で、日本円にすると1日1万円ほど…。日本やイギリスをはじめ、これまでヨーロッパ内を旅行しながら訪れたどんな美術館よりも、どんなアートイベントよりも値段が高くてびっくりしました。

それから、イベント規模の大きさにもびっくり。展示はざっくり2種類に分かれていて、ひとつはこのイベントのための展示Unlimitedに集まった76の作品と、もうひとつは2フロアーにわたる世界中から集まった280のギャラリー。それぞれのギャラリーが10点前後の商品を持ってきているので、作品数はざっくり3000点といったところでしょうか…。

チケット代金自体は高いですが、世界中から集まった有数のギャラリーに一気に足を運べてしまうことを考えたら、納得の金額です。

ちなみに後から調べてわかったのですが、280のギャラリーのうち日本のギャラリーはたった3つだったそうです。キュレーターの方の情報によると、日本のギャラリーはアートバーゼル香港の方に回されてしまうので、バーゼルの方に出展するのはすごく難しいことなのだそう。

私が訪れたのはイベント最終日。というのも、ただでさえ高いスイスの物価に加えて、このイベント期間中のホテルの宿泊費は普段の倍以上の金額になってしまいます。旅行の予算内で楽しむために、今回は最終日の朝一番の飛行機に乗り、そのままの足でイベント会場に着いたのが午後12時ごろでした。

アートバーゼル入り口

大きな荷物は無料で預かってもらうことができたので預けて、早速展示の入り口へ。入り口では毎回必ず荷物検査が行われておりました。

中に入ってまずは展示Unlimitedの方から見始めました。この日はほとんど徹夜の4時出発・飛行機の中の2時間しかまともに眠れていなかったので体力と時間との勝負と思って、どんどん会場内を見ていきました。この3年間イギリスに住みながら回った美術館やギャラリーで見たほとんどのアーティストがここに集っていました。写真とアーティスト名・作品名はインスタグラムの方にまとめたので、よければこちらからご覧ください。

この時代のありとあらゆる社会問題が色んな角度から切り取られて、それぞれのアーティストの視点で昇華されて作品となっている光景が凄く刺激的でした。

どんなトピックを選ぶか、そんな方法で表現するか、そして何を伝えたいかー。アートと聞いて苦手意識を持つ日本人が多いというのを昔「13歳からのアート思考」・「感性は感動しない」で読みました。それぞれ、アートとの向かい方をわかりやすく教えてくれている本です。

自分が感じた「なにか」こそアートが与えてくれたもので、それが何であれ「収穫」なのだと思います。その「なにか」と向き合う力というのは自問自答する内観力のようなもので、繰り返していくことで自分について考える時間を増やすことができると考えています。

さて、そんな感じで最初のUnlimitedを見るのにかなり急いで回って2時間ほど。疲れていたのか、後半のポストでは丸いものばっかり撮ってました。

少し休んでからはギャラリーが集まるHall 2.0 2.1に移動し、アートの森のようなところをこちらも端からぐんぐん回っていきました。

世界中から集まったモダン・コンテンポラリーアートの作品。1900年代の巨匠から新進気鋭のアーティストまでが一挙に並び、作品の販売が行われていました。といっても、私が訪れた最終日はもう売買が終わったあとのリラックスムード。子供から大人までがカジュアルに展示を見る感覚で回っている雰囲気でした。

これまでギャラリーに行っても「自分が買う」という目線で作品を見たことがなかったのですが、この展示は「購入するための場」として設計されているのが感じられました。

というのも、展示を見る感覚で会場内を歩き回っていた私でさえ、途中からはヴィンテージフェアを回る時とまったく同じ動きをしていたのですから。

ああ、ピカソも、アイウェイウェイも、ジャン・デュビュッフェも、アンドレアス・グルスキーも、お金を出せば買うことも出来るんだ…という事実が目の前にあることは今の私(超一般人の庶民)にはすごく不思議な感覚でした。
私が今自分の自宅に飾っているChrisの絵の延長線上にその事実があることは、たんなる所有欲よりもずっと崇高な「良いアートを次の世代に残す」という目的があるようにも感じました。もちろん、投資として持っておくという目的だけでコレクションしている方もいらっしゃると思いますし、それぞれの理由はあれど、トップギャラリーのひとつがあのイベントだけで100億円もの売り上げを立てたという事実と、アートの価値は私にとって凄く強烈なものでした。

また、このイベントを徹夜明けさながらの体力で1日で全部見る、という強行プランには若干無理があったようで、夕方にはばててしまいました。最後の方は、森に迷った人のようにふらりふらりと会場内を歩いては、目に留まった作品に見惚れることを繰り返す、なかなか幻想的な時間を過ごしました。

体力がなくなればなくなるほど、よっぽど力強い作品の前でしか足が止まらなくなっていき、そういう作品の作者を見ると大体知っている名前ばかりだったので、やっぱり有名になるアーティストはそれだけ力強い作品を作り上げるんだという事実を肌で知ることができました。

正解も不正解もない世界で、金銭的な数字としての価値が添えられるアート業界。超一般人の私がこういう場に出向くことは非日常体験とともに、自分と「気が合う」作品やギャラリーを見つけられることが一番の収穫かな、と思います。ギャラリー名と街の名前が一緒に掲載されている案内板を見ていると、だんだんと「この街っぽさ」みたいなものが見えてくるのです。ああ、やっぱり「パリ」なんだなあとか「NYっぽいなあ」とか。それで改めて自分がロンドンに直感的に惹かれたことも認識させられました。わあ、ここ最高!って思ったらいつも通ってるギャラリーだったりするから、不思議。

アートって難しく考えなくちゃいけないと思わされがちな側面もあるし(知人のキュレーターさんの投稿なんかを読むと、自分の不勉強さを身に沁みて感じます)、ちゃんと学ぼうと思ったらどこまでも奥深くて広い。だけど、難しいことは傍に置いておいて、ただ感じるだけでも得られるものは沢山あります。前の記事でも書いた通り、今回の旅で好奇心をたくさん刺激されました。

次回また行く機会に恵まれたら、今度はちゃんと準備した上で、体力が保てるスケジュールを立てて、2日に分けて見て回りたいなと思っています。

ちなみに滞在の残りの日数はスイス・バーゼル市内の美術館をぐるぐる回りました。旅の最中は、アートは購入することが出来るという事実が自分自身の頭の中をずっと反芻していました。あとは日帰りでチューリッヒにも遊びにいきました。

スイスの余裕のある豊かさ、水と空気の綺麗さ、物価の高さ、いろんなものに刺激を受けた4日間でした!私はいつかスイスに住むのもいいなあと思ったけど、わたしの夫は「絶対にいやだ」そうなので(笑)、こうやってアートや自然など、きっかけを見つけて時々遊びに行けるように日々の生活を頑張ろうっと思いました。

最後まで読んでいただき、有難うございました!

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