【認知行動療法】1.心理面接技術と初診

第1回目の心理療法理論のゼミのテーマは「心理面接技術と初診」
そもそもドイツの心理療法士の職業訓練とは?こちらの記事参照。

1. 治療者の適切な振る舞い方:基本3原則

=> 患者との良好な治療関係を築くため

1-1. 積極的傾聴(active listening)
=> 注意を向けていること、受容の準備ができていることを示す

- 相槌:促す、話しについて行っていることを示す機能
- 最後の言葉を繰り返す:言葉につまった時に先に促す機能
- 具体例を尋ねる
- オープンクエスチョン (「何」を尋ねる、はい/いいえ以上に話させる)
- 患者が言及した感情、気持ちを確認する
- 患者の答えを焦らず待つ、無言が3秒以上続いても時間を与える
- 難しい/気まずいテーマを治療者側から切り出す
- 自然な姿勢、柔軟なアイコンタクト、うなづき、適切な距離

1-2. 共感力(empathy)

- 事実関係はおいておき、話し手が言いたいことを理解する
- 話し手が経験した感情とそれが持つ意味(影響)を把握する
- 自分の言動が患者に及ぼす影響について気が付いている

1-3. 受容(acceptance)
≠「レッセフェール」 (なすに任せよ/されるがまま)。面接の問題となる言動があればすぐに指摘すること

大原則:「評価」(良い悪いの判断や価値付け)を避ける!
よくある治療者の間違い
- すぐ助言する
- すぐ診断する
- 単純化する
- 軽く見る (矮小化)
- 専門的な表現を使う
- 説明がわかりづらい
- 患者が巻き込まれていない(治療者が演説者のよう)
- 適切な距離が取れていない
- 目的のないおしゃべりが長い
- 目的なくトピックをかえる

1-4. ロジャーズの3原則
カウンセリングが有効であった事例に共通していた、聴く側の3要素
= 共感的理解・無条件の肯定的関心・自己一致(=相手と自分が見ているものを一致させる)

2. 認知行動療法の心理面接の7つの基本方針

2-1. 透明性 (transparency)

- 治療の進め方や課題、その理由について丁寧に説明する
- 治療を進める上で必要な事務的な情報の開示
- 選択的に情報の開示をすることが必要な時がある:パラドックス治療

2-2. 構造化 (structure)

- 面接の流れを決める
- 今現在、治療全体から見てどの地点にいるか伝える
- 治療の課題やタスクを患者に評価してもらう
- トピックが面接中突然変わる、重要ではない副次的な情報に時間が取られやすい、などの問題点に気をつける

2-3. 具体化・詳細化・特定する (concretize, precise, specify)

- 過剰な一般化や大惨事化(最悪な出来事を予想して取り乱すこと、取り越し苦労、針小棒大 / catastrophize)につながる患者の曖昧な描写を、できる限り具体的で的確な記述に移し替える
- 自分の考えや行動をさらに明らかにしていく患者自身の挑戦につながる
- 患者の発言を言い換えて繰り返す、それにより患者の状況への関心を示す
- 「それは不安ですか、怖いのですか、それとも落ち着かない感じですか」

2-4. 誘導による発見(guided discovery)

- 自助の手助け
- 患者が自分でも使える問いのテクニックを学ぶ
- 治療者が正解を知っているわけでなく、患者自身の気づきや理解が大事
- ソクラテス式問いかけ、コロンボテクニック、ポジティブナイーブ

2-5. 社会的強化 (social reinforcement)と称賛

- 治療の前進を促進
- 自己強化 (自分で褒めて褒美を与えて行動を強化する)をセットアップ
- 「できたこと」より「やったこと」の強化

2-6. まとめること・フィードバック (summarise and feedback)

まとめの機能・役割
- 治療時間の最後のまとめ
- 情報の要約、構造化
- 意思決定の助け
- 患者を刺激・活発化する
- 患者の話が冗長になってきてるとき本筋に戻す
- 治療者が理解していることを患者に示す
- 正しく理解しているか確認

2-7. 厳密さと結果 (stringency and consequence)

- 治療上の行動は事前に予測可能
- 治療上の各措置が成功するかどうかは、どれだけ首尾一貫して目的を見据えてその措置が行われるかにかかっている (準備・宿題やタスクがきちんと遂行されたかどうかなど)

3. 認知行動療法の心理面接の4つの目的

3-1. 情報と心理モデルの伝達

治療者は患者の問題を、科学的に実証された(認知行動心理学に基づいた)モデルで説明する必要であり、それによって
- 患者の認知・感情のシステムを描写する
- 個々の経験で反証することはできない
- 患者の今後の変化を適切に予測するヒントになる
- 患者にとって納得がいく

3-2. 認知再構成 (cognitive restructuring)

認知行動心理療法の核心は
1. 心理教育:認知行動心理学の基本的な要素を伝える
2. 心理探索:考え、感情、考えと行動の癖、解釈や判断のパターン、物事の見方、信じていることなど、無意識に頭の中で起こっていることを意識に導き出し発見する。口に出して表現できるようにする
3. 心理介入:不適応・うまく機能していない認知プロセスや構造を変化

3-3. コンプライアンス促進と患者自身のオーナーシップ/自己責任構築

- 患者の治療に積極的でない場合:治療の「宿題」をいつやるか詳細にとりきめる(いつ何時に、食事の前か後か、など)
- 治療の措置を柔軟に対応することで患者自身の自己管理責任を上げる

3-4. 明示化

- 作業や介入を通し、積極的に目的達成のために患者を明らかにしていくプロセスを手助けする
- 治療関係の構築と作業ゴール(process task)が必要
- 質問、問題に対峙、外面化など、プロセスを指示する介入方法(process directive intervention)
- 作業内容の明示化は、治療関係と作業に問題がない場合にのみ達成可能

4. 初診

初診が果たす機能と目的は
- 治療者と患者がお互いを知り合うこと
- 治療関係/信頼関係の構築
- 初期の治療効果の達成
- 心理療法以外の対策(危機介入や入院、身体的な検査など)の判断

4-1. 初めの接触が持つ意味合い

患者にとっての初診
- 患者が自分の問題について話す時、 恥ずかしさや弱さを感じる場合が多い
- 大抵の場合心理療法に半信半疑な状態で始まる
- 自分や自分の問題について話したい・心理モデルで説明してほしい・何かしらの良い結果がほしいという欲求がある

治療者にとっての初診の意味:その患者の治療が可能か自分に問いかける
- 面接と治療関係の構築にあたって自分の強み・弱みは?
- 症状が重度の場合、自分が治療できるか難しいと思う精神障害はどれか?
- もし治療を断った場合、今後の自分のキャリアにとって、どんなダメージを受けるのを恐れているか?
- どのような患者/精神障害を私は今治療したくないか?
- 治療にあたって自分は誰に助けを求めることができるか?

4-2. 初診での治療者の4つのタスク

4-2-1. 患者についての情報収集
- 受診のきっかけ/出来事
- 患者の心理療法を受ける動機(なんのために良くなりたいと思ってるか)
- 患者の期待(心理療法でどうなりたい、何を解決したいと思っているか)
- 患者の症状と今までの経過:予測している診断の基準に当てはまるか
- 治療可能性を明らかにしてできるだけ早く決断する
- 患者の中心となっている、問題につながる考え方や信条、目標を把握
- 患者の大まかな考え方、価値観、目標を把握
- 患者のリソースと力量(心理療法にプラスに働く要素)を把握

4-2-2. 治療者から患者へ情報伝達
- 症状とその経過についての情報と説明
- 治療の基本方針についての説明
- 今後の治療の流れ

4-2-3. 患者との関係構築
- 治療に対する不安を解消する:
 ・自己紹介、初診の目的の説明、初診・治療に関する情報の説明
 ・患者が質問や不安について話せるように励ます
 ・非病理化(Entpathologisierung):変人扱いしない 、自尊心高める
- 患者の気分に対する印象について話す:
 「とても疲れているように見えますが、そう感じていますか?」
 「その問題について話すのは大変でしたね、今どう感じていますか?」等

4-2-4. 初期の治療的介入
- 障害の治療のコンセプトを患者に伝え準備を進める
- 治療を進める上で問題となる認知上の問題の変化を促す
- 患者の治療へのオーナーシップを促進
- 患者のやる気を上げるよう働きかける
- ここでの治療が不可能な場合:非病理的説明と他の治療選択肢の提示
- 自殺の可能性:適切な措置を確実に行うこと

4-3. 初診の構成

開始前:
- 保険カード読み込み
- かかりつけ医・専門医の情報(患者の健康状態のレポートを依頼するため)
- 守秘義務・個人情報保護に関する契約
- 今までの医療記録を事前情報として目を通すか、バイアスを受けないよう後で目を通すかは治療者が状況を考慮して決定する

1. 挨拶
- お互いの紹介と初診の目的の説明

2. 今現在ここに治療に来たきっかけ、動機、原因、状況

3. 精神障害分析と事前治療
- 患者の症状:出来るだけ詳細に正確に
- 症状の今までの経過
 ・症状によって起きたネガティブ/ポジティブな変化
 ・大事な人(親、配偶者など)は症状に関係しているか
 ・症状は人間関係にどのような影響を与えているか
- 患者は症状の理由をどう認識しているか:「妻が理解してくれないから鬱がひどくなって」等 -> 症状が改善する/しないと感じている
- 今までの治療/変化の試み

4. 経歴 (biography)
- 症状はひとまずおいておき、患者の人生経歴
- SULZなど標準化された症歴シートなどを使う

5. 治療で期待すること
- まだ具体的な治療目標設定ではない、患者が治療を終えてどうなりたいか
- 話し合う必要がある例
 ・他の人が治療されるべき「本来はうちの上司がここにいるべき」
 ・受け身「前みたいに戻りたい」
 ・要求「痛みを取り除いてください」
 ・曖昧「幸せになりたい」

6. 面接終了
- その他質問や話しておくべきことの確認
- 今後の進行について説明、下記の可能性も示唆
 ・危機介入:自殺の可能性と措置
 ・入院
 ・身体的な検査(精神障害が病気などに起因することもあるため)
 ・かかりつけ医/専門医との併用治療

面接後:
- 治療関係分析
=> 治療者におきた感情的な出来事を意識的にきちんと処理するプロセス。治療者としてではなく個人として無意識に発生する患者への評価を避ける
- スーパービジョン
- コミュニケーション上の問題点と次回の改善点
- 問題の理解と診断
- 症状に関係のあり治療に関わってくる人リストアップ

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