君塚直隆先生、126代続く天皇とは何ですか?──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 1(令和3年6月27日、日曜日)
今日から、5月31日に開かれた有識者ヒアリングの議事録を、読むことにします。
一番手は君塚直隆・関東学院大学教授です。君塚氏は、ヒアリングで自己紹介しているように、専門はイギリス政治外交史あるいはヨーロッパ王室研究です。イギリス王室関連の著書のほかに、『立憲君主制の現在―日本人は「象徴天皇」を維持できるか』などを著しています。
結論からいうと、君塚氏は日本の歴史全体から皇位継承問題を考えようとはしません。イギリス王室と日本の皇室との違いも理解しようとしていません。つまり、126代続いてきた天皇とは何だったのか、歴史的に深く探ろうとせずに、皇位継承を論じています。
▽1 君塚直隆氏──天皇は社会活動家なのですか?
君塚氏は、政府の設問に従い、ヨーロッパと比較しながら、話を進めています。
まずは「天皇の役割や活動」ですが、君塚氏の「天皇」は個人なのです。「現在の天皇陛下は」「今の天皇陛下は」と君塚氏は述べています。日本の天皇には姓も名もなく、固有名詞では呼ばれないという伝統が顧みられません。
つまり、国と民の中心に、公正かつ無私なるお立場の天皇がおられ、その地位が126代続いてきた歴史に想いを馳せ、皇位の継承の安定化を考えようという発想がありません。
◇学問的レベルを逸脱している
126代続いてきた天皇は、「およそ禁中の作法は神事を先にし、他事を後にす」(順徳天皇「禁秘抄」)という「祭り主」である、というのが皇室の伝統的天皇観ですが、君塚氏の「天皇」は公務をなさる社会活動家です。それが「国民に近い」「国民に見える」天皇であり、「現在の天皇陛下」の「理想」でもあると仰せなのでした。
キリスト教の絶対神信仰を背景とする「地上の支配者」であるイギリス国王と、皇祖神の「ことよさし」に基づき、「しらす」お立場の天皇は根本的に異なるはずなのに、君塚氏の比較政治論にはその差異がうかがえません。そしてイギリスの方が公務は多い、SNSで宣伝していると同列に議論を展開しています。
そして、であればこそ、皇族方には「さらに各種団体とも関わり、今まで以上に公務に携わっていただきたい」し、だから、「男系男子にのみ皇位継承資格を与えるという現行制度を改定し、女性皇族にも皇位継承資格を与えるとともに、現行の男性皇族と同様に、婚姻時もしくは適切な時期に『宮家』を創設し、ご自身、配偶者、お子さまを皇族とすべきである」と結論づけるのです。
皇統に連なり、皇位継承の資格を有する血族の集まりが「皇族」なのだという基本的概念が、完全に忘れられています。もはや学問的なレベルを逸脱しています。
あまつさえ、「内親王・女王といった女性皇族にも皇位継承資格を与えるべき」だし、「皇位継承資格を女系に拡大することには『賛成』」となるのは当然です。
◇「天皇とは何か」を理解しないのはご自身では?
さらには、「黒田清子さま、千家典子さま、守谷絢子さまなど、ここ20年以内に結婚された元女性皇族にも『皇族』としてお戻りいただきたい」「皇族数が足りないといった場合には、養子縁組を行う方向にしていただきたい」「旧皇族の皇籍復帰は基本的に『反対』だが、女性の皇族方と家族によっても公務が充分に担えない場合には検討の余地がある」と議論が果てしなく広がっていくのです。
君塚氏はご専門のヨーロッパ王室の現象を盛んに例示し、議論を展開するのですが、ヨーロッパの王位継承は父母の同等婚、すなわち王族同士の婚姻が大原則であり、父系の皇族性のみをきびしく要求してきた日本の皇室とはまったく違うという理解に欠けています。
女王が王位を継承したあとは王朝が交替するイギリス王室と、「万世一系」の皇室とでは同列に議論できないことぐらい、素人でも分かるのに、君塚氏は理解していません。
いみじくも君塚氏は、「皇室と国民との間をより親密なものにしていくべきである」と述べ、だからこそ、「皇室とは何か、皇族の方々は日々どのような活動をなさっているのかをより積極的に広報し、国民全体に現下の問題の深刻さを理解してもらうことが重要なのではないか」と訴えています。
しかしながら、君塚氏こそ、仰せの「天皇とは何か」を理解しようとしていないのではありませんか。126代続いてきた天皇とはけっして社会的活動家ではないことに、君塚氏は思い至っていないのです。
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