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園部内閣参与の質問を読む──皇室制度ヒアリング議事録から その1(2012年8月19日)


 引き続き、皇室制度有識者ヒアリングの議事録を読むことにします。

 今回は最大のキーパーソンである園部逸夫「女性宮家」検討担当内閣官房参与の質問を拾い読みします。

 第六回ヒアリングで、八木秀次高崎経済大学教授の挑発的意見発表に対して、「私は女系天皇論者ではない。ターゲットにされてははなはだ迷惑」といささか激高ぎみに反応したのが園部参与でした。

 それなら園部参与の問題関心はどこにあるのか、その問題関心をさぐり、今後の皇室制度改革の方向性を占ってみたいと思います。


▽1 「行動する」天皇論の当否──第1回ヒアリングの今谷明帝京大学特任教授(国際日本文化研究センター名誉教授。日本中世政治史)の意見に対して


「長く歴史を顧みます場合に、今も藩屏の話、武家の話が出ましたけれども、一般国民は天皇との関係を日本の長い歴史の中でどのように考えてきたか。また、どのようにして、つながれてきたか。その点はいかがでございますか」

 園部参与は雑誌「選択」1月号の巻頭インタビューで、「皇室は天皇陛下を中心にご一家が一体となって国や国民のために多くの活動をなさっている。そうしたご活動を通じて皇室と国民とのつながりが維持され日本がまとまっている。この大切な皇室の存続をまず考えるべきだ」と述べ、活動されることが天皇・皇室のお務めで、ご活動が国民との関係を築いてきたという考えを示しています。

 今谷教授への質問は、「行動する」天皇論の当否を確認したものと思います。けれども、今谷教授は「一般の人々が天皇の存在を知るというのにも、それなりの歴史がずっとあります」と述べているにとどまっています。

「もう一つだけお聞きしますけれども、今、天皇陛下の御公務を少しでも減らして頂きたいという考え方が一方でありますが、おっしゃったように、国事行為は別としてと。
 これを、皇族方で支えて頂かなければなりませんが、その皇族そのものが女性を除いて減少しているという状況の下で、私は女性宮家というのは、非常に誤解を招く言葉だとはっきり申し上げますけれども、そうではなくて、女性皇族方を含めて、天皇陛下の御公務の継続をお助け頂くという体制といいますか、御公務を助けるための皇族方の役割というもの。
 それは御結婚なさるかなさらないかということとは別に、皇族方の中で女性が多数おられますので、女性にも御公務を分担して頂きたいという気持ちが湧き上がってくるわけですが、先生はいかがお考えでございましょうか」

 今回のヒアリングの趣旨について、政府は「今後、皇室の御活動をどのように安定的に維持し、天皇皇后両陛下の御負担をどう軽減していくかが緊急性の高い課題となっている」と説明していますが、園部参与の発言からは、国事行為を除く両陛下のご活動を重視し、ご活動そのものを削減するのではなく、皇族方とりわけご結婚後の女性皇族に分担していただくことが、緊急に求められているという認識が見てとれます。

「昔流に言うと、皇族が結婚して臣下に降嫁されるということになりますね。その場合にそういう例もあったわけですけれども、そういう状況になっても、皇族である女性は、皇族としての地位あるいは尊称を維持することは可能だと思われますでしょうか」

 今谷教授が、女性皇族が婚姻後も陛下のご公務を分担することについて、「差し支えない」と答えたことに対しての質問で、今谷教授はご結婚後の尊称維持や入夫される男性の待遇についても、「一代限り」とすることを「法律を改正すればできる」と答えています。


▽2 「皇族」とは何か──第1回ヒアリングの田原総一朗氏(ジャーナリスト)の意見に対して


「どういう形の女性の皇族方の御身分の継続ということが可能か、あるいは好ましいかと いう問題ですが、宮家と申しますと、要するに女性皇族を当主とする一つの宮家をつくる ということになります。
 そこに配偶者もお迎えする、お子様もお誕生になるという形になりますと、その場合に相手方が必ずしも旧皇族とは限らないし、皇族とも限らないわけですが、一般の人が配偶者となるときに、これは色々な皇室の御活動の中で、その相手の男性は具体的な国賓の御接遇とか、園遊会、記念式典にお出になる可能性もあります。
 そういう場合に相手の男性は、皇族でない御配偶ということになりますと、参列されることがよろしいのか。それとも皇族だけがそういうことをなさるのがいいのか」

 もともと天皇は「上御一人」であり、歴代天皇が第一のお務めと信じ、実践されてきた宮中祭祀はあくまで天皇の祭りです。皇后以下、皇族の拝礼、参列は、天皇に供奉するお立場です。憲法が定める国事行為も、もちろん天皇の行為です。

 ところがやっかいなことに、宮内庁の説明では、「皇室のご活動」は「天皇皇后両陛下のご活動」「皇太子同妃両殿下のご活動」などとなり、宮中祭祀でさえ「両陛下は皇太子同妃両殿下の時代から祭祀を大切にしてこられました」と、まるで「男女平等」「一夫一婦」天皇制に変質したかのような解説をしています。

 女性皇族の配偶者の待遇に関する質問の背景には、近代化もしくは現代化した皇室、あるいは宮内庁の姿勢があるようですが、田原氏は「参列したらいい」と述べる一方、「女性宮家ができたときには、当主は宮家で、配偶者は当主ではない」とし、「皇族に準ずる」という立場には職業など「いろいろと制約される」との考えを示しました。

「もう一つだけですけれども、これは歴史的な問題もあるのですが、皇室と国民とはどの程度の距離を保つのがいいのか。距離を保たないのがいいのか。その辺は如何でございますか」

 以前、小嶋和司東北大学教授(故人)の女帝論の紹介で言及しましたが、皇族とは何かという本質論が失われていることが、今日の議論の背景にありそうです。

 小嶋教授は、日本では、世襲君主制が前提とする王朝の概念が忘れられていると指摘しています。「上御一人の支配」に視線が集中し、皇室による支配が等閑視され、明治の皇室典範は「皇族」とされることについての条件を確定しなかった。それどころか、臣籍出身の后妃をも「皇族」とし、皇位継承資格者としての「皇族」と待遇身分としての「皇族」とを混同させてしまった、と小嶋教授は解説しています。

 すでに何度も申し上げましたが、皇室制度ヒアリングを脇目で見ながら、政府・宮内庁はすでに、陛下御不例中の2、3月、臣籍出身で、「見なし皇族」であるはずの皇后陛下に、外国などに赴任する日本大使夫妻とのお茶、離任する外国大使のご引見を設定しています。

 たとえばアメリカ大統領が入院したという場合、大統領夫人が全権大使を引見するでしょうか。おそらくそれは副大統領の仕事になるでしょう。

 陛下のご公務を皇族が分担する場合、誰が何を分担するのか、そもそも政府が大がかりに介入して、改革すべき陛下のご活動とは何か、が問われます。


▽3 陛下のご公務削減は念頭にない──第2回ヒアリングの山内昌之東京大学大学院教授(イスラム地域研究、国際関係史)の意見に対して


「それでは、御質問を申し上げます。
 私は最初から女性宮家という言葉は使っていないんです。これはマスコミの方で広がっておりますけれども、これは誤った考え方を広めることになりますので、そういう言葉はあえて使わない。
 例えば宮家というのは三笠宮家があり、親王がおられ、内親王がおられましたけれども、今は女王がおられるということで、一つの大きな枝葉に分かれた宮家があるわけです。これは三笠宮家の一つの姿ですが、女性宮家というと女性が当主であって、そこに婿養子の人が来て、それから、また2代目、3代目と続いて、だんだん広がっていくと。
 それでは、女系天皇になるのではないか。あるいは女性天皇になるのではないかというような言いがかりを付けられていて、 私は甚だ迷惑をしております。
 およそ私は今回の改正の問題については、女性天皇、女系天皇ということは全く頭にない。
 一つは、天皇陛下の大変な数の御公務の御負担をとにかく減らさないと。それは大変な 御負担の中なさっておられるわけでして、そうした天皇陛下の御公務に国民はありがたいという気持ちを抱いていると思いますが、国民として手伝えるのは天皇陛下の御公務の御 負担を減らすことなんです。
 そのためには、どうしてもどなたかが皇族の身分をそのまま 維持して、その皇族の身分で皇室のいろいろな御公務を天皇陛下や皇太子殿下や秋篠宮殿 下以外の方も御分担できるようにする。そして、減らしていくというのが最大の目的です。
 ですから、女系につながるとか、女性天皇というのは全くの言いがかりでございまして、 これは訂正をむしろ求めています」

 園部参与は、女系継承容認論者といわれていることについて、よほど腹に据えかねているのでしょう。それはともかく、女性皇族を当主とする宮家の創設ではなく、お相手はともかく、婚姻後の女性皇族に陛下のご公務を分担していただくことを園部参与は想定しているようです。陛下のご公務の削減については対策を考えないということになります。

「そういうふうに一般に言われておりますので、私の質問はそういう具合に聞こえるといけないから申し上げているのです。そこで今回の問題を皇位継承問題とつながらないようにするためには、どういう配慮が必要なのか。それをまずはお教えいただきたいと思います」

「眞子内親王殿下、佳子内親王殿下がそれぞれ御結婚されても、その身分を失わず皇族として、あるいは皇族の尊称を得たまま、実際にお住みになるところは、必ずしも皇居の中とか東宮御所の近くとかではなくて、ちょうど黒田清子様のような状態になる可能性もないわけではない。その場合に、その2代目以後について、あるいは配偶者になる男性については、どういう待遇をするのがよろしいでしょうか」

「その準皇族はあくまでも配偶者までですね。その次の世代には行かないと」

「わかりました。もう一つ、皇室像といいますか、皇室観というのはどうあるべきか。それは皇室の方々のいろいろな御活動とか、我が国の歴史における皇室の意義とか、我が国の体制における皇室の位置づけとか、さらにはメディアを通した皇室のお姿といういろいろな事柄を国民は知り、かつ知ろうとしているわけですが、国民の皇室観とか皇室像の形成というものについては、どういう点が重要でございましょうか」

 日本人の天皇観は多面的であり、総合的なものだと思います。私の郷里には、古代において天皇の妃が養蚕と機織りを教えてくれたという天皇の物語が伝えられていますが、地域に独自の皇室像もあります。文学や音楽、年中行事によって、歴史的に受け継がれてきた皇室観もあります。神戸や東北などの被災地で現代の天皇物語が生まれていることはたしかですが、今上天皇が皇后陛下とともに行われるご活動が皇室観のすべてではありません。むしろ、なぜ陛下のご活動が新たな皇室物語を生むのか、という視点が必要ではないのか、と私は思います。つまり、祭祀王としての天皇です。


▽4 皇族でも一般国民でもない?──第2回ヒアリングの大石眞京都大学大学院教授(憲法学)の意見に対して


「皇后陛下、皇太子妃殿下、秋篠宮妃殿下と次々と民間からお嫁がれになって、皇室と民間との距離が非常に近づいたという感じがあったのですが、
 逆に言うと身分制がなくなりましたので、昔ですと内大臣がいて宮内大臣がいて、枢密顧問官がいて元老がいて、多数の貴族院議員がいて、天皇の周りをずっとそういう藩屏がいた時代に比べますと、かえって遠くなってしまって、
 例えば皇室典範の改正について、天皇陛下がどうお考えになっているのかということを気軽にお聞きしようと思っても、それは国会に任せてある、それは国政に関する問題だということで、それは皇太子殿下も秋篠宮殿下もこの問題をどういう場合でも、政治的に発言されることを大変遠慮しておられるために、本来は家の中の問題であるから、皇室の中で議論をされたものをこちらにお示しいただいて、皇室典範の改正が必要であれば、改正をする。
 運用上何か問題があれば、それも考えるというふうにしていけばいいと思いますが、皇室の方々の御意見をお伺いする手順とか方法とか、公表の在り方というようなものを何か法的に可能な方法に持っていけるかどうかということについては、いかがでございましょうか」

「そういう場合の役割としては、皇室会議についてはどうお考えですか」

「皇室会議のほかに、皇族会議というものを設けるということも考えられますでしょうか」

「天皇陛下が親臨されていたわけですが、そういうようなものを復活するということはいかがでしょうか」

「皇族会議でも外側から入っていったわけですから、今は逆に皇族の人がずっと減ってしまったと。それでは皇室会議としては仕事ができないということになるのではないかと、私は思います」

「先ほど運営基準ということをおっしゃいましたが、これは非常に大事な問題だと思いますけれども、これはやはり法律で決めるべきことなのか。それとも皇室内部基準として、皇室令のような形にするか。どちらの方がようございますか」

 憲法は、天皇の地位は主権の存する日本国民の総意に基づく、と定めています。小泉内閣時代の皇位継承有識者会議は皇族の意見を聞くこともなく、それどころか宮内庁長官は国民こそ主権者といわんばかりに、女系継承容認を危惧する寛仁親王殿下に対して、「皇室の方々は発言を控えていただくのが妥当」と口止めしました。

 望ましい皇室制度は、誰がどのようにして決めるべきなのか、慎重な議論が求められます。

「最後に、内親王や女王の尊称を続けられるという形を取った場合に、それは内親王や女王の尊称はあるけれども、皇族ではないというふうにとらえますと、皇族でもないけれども、一般国民でもないという何か新たな身分ができることになるのではないでしょうか」

「李王殿下は、皇族ではなかったわけです。臣下扱いになって降嫁された。降嫁されたけれども、女王の尊称は保持するという形ですか」

「そうすると、一般国民とは違うという話ですね」

「尊称の保持は特別にその関係だけでしょうね」

 憲法は法の下の平等を定め、貴族制度を否定しています。皇族でないけれども、一般国民でもないという立場は憲法上、あり得るのでしょうか。

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